• Choose Your WeaponPaul Bender (ba)
  • 僕のお気に入りのひとつは断然イントロ曲の「Choose Your Weapon」で、これは作るのがとても楽しかった。 ことの始まりはSimonが買った新しいキーボードで、アルバムの始めに入っているあの音が内蔵されていたんだけれど、あのヘンなスイープ(低音から高音に上がっていく連続音)をキーボードを買ってすぐに彼が見つけて、一緒にスタジオにいたので僕もワーオ、って感じだったんだ。で、アルバムの始まりにしたいねって話になった。
    ほぼ完全にドルビーとかTHXのパクりみたいなもので、ドルビーに比べたら全然劣るんだけど僕らなりのオマージュだね、その瞬間に対して。つまり機械のスイッチを入れて動き出したところで、これからヤバいことが起こるぞ、っていう感覚。

    かなり面白い曲だと思うんだよね、たくさんのいろんなカケラから成る、みんなで通して一緒に作っていった、時間の経過とともに出来たものだから。まず機械をオンにして、魔法っぽい世界へ、そして遊び心のある世界で子どものおもちゃや動物があって、ダーティ・グルーヴの全然違うセッションからの音が入ってきて。時間をかけて、自分たちが集めてきたものから自然と出来上がってる。ちょっと不思議な「まとめ」みたいな、実際の曲を弾くまではしないけれど序曲のようなものかな、こういう内容になります、例えばテレビゲームがあるよ、魔法の雲があるよ、ちょっと笑えるものもあるよ、ヘヴィーなグルーヴもね、って。
    みんなのflavorを集約していて、遊び心をもってゆるーく、クリエイティブなセッションで作っていった大好きな曲だね。

  • Shaolin Monk MotherfunkNai Palm (vo, gu)
  • 「Shaolin Monk Motherfunk」はグループとして書いた初めの頃の曲、つまり何もないところから全部一緒にね。よくある他のパターンは、私がギターとヴォーカルだけで作ったものを持って来るんだけど、このShaolinは確か、初めて最初からみんなでパズルのようにピースを組み合わせていったんじゃないかな。
    歌詞的にはかなり込み入っている。例えば"In this heat don't doubt/Eye on the hour"はhour/時間の単位とour/私たちの、という両方の意味ね。私が書く歌詞ではこれをよくやるの。
    "Eye on the hour/White ocre shower/Howling as it falls to find the form of dust once more"の部分は、21歳の誕生日にウルルにいたの、オーストラリアの真ん中に。フェスで演奏して、戻る途中に旅行がてら見て回っているところで、計画したわけじゃなかったけれど誕生日にはたまたまそこにいたの。
    曇っていて空は紫。砂は真っ赤。尖った銀色の木々とゴールデン・オーブ・スパイダー(ジョロウグモ)。人生で見た一番魔法のかかったような風景だった。
    オークル(天然酸化鉄)の溜り池があったの。洞窟を見つけて...失礼になるので登ってはいけないのよね。開けているところに着くと、完璧な円の洞窟があって。それを触ったら指を怪我したので、薬の代わりにオークル粉(酸化鉄)を擦り込んで。ひどく乾燥して、暑くて、太陽が照りつける中で、オークル粉を体につけると涼む効果と、太陽から守ってくれるの。
    で、その時私は指から血を流しながら、なんだか本能的にしなくちゃいけないと思ったことなんだと思う。オークル粉の溜池に着いて、両手をうずめて・・・とにかく悲しみと向き合ったの。21歳で、偶然にもこんなにパワーを感じる場所、砂漠の中にいる自分。歌ったし、泣いたし、思いっきり純粋な所から溢れて来るものだった。そして雨が降ってきて、雨はウルルを流れていって。まるで空が私と一緒に泣いているみたいだった。雨が降ることも珍しい場所なのにね、とても乾燥している砂漠だから。たまたま起こった紫の嵐。
    いわゆる21歳の誕生日と言えば友達と出かけて飲みまくって、カラオケに行って、という感じで、もちろん私もそういう誕生日もあったけれど、この時は素晴らしく美しい、成人することを祝福するための儀式だった。ということで「Shaolin Monk Motherfunk」のその部分はそこから来ているの。[全体の]歌詞も私の人生の地図とでもいうのかな、曲作り全般でも大抵特定の出来事や瞬間が要素として登場するけれど、これもその一つってことね。

  • LaputaNai Palm (vo, gu)
  • 「Laputa」は、ベンダーがスタジオで聞かせてくれたループがきっかけで出来た曲。宮崎駿は大好き、スタジオ・ジブリの作品も。一番好きなのは「もののけ姫」。どの作品も魅惑的でありながらとても人間臭くて、道徳的だったり、政治色があったりしつつも温かい優しさがある。そういうところが彼の作品でとても素晴らしいと思う。
    映画のスコアもいつも情景が浮かんでくる音。自分がレコーディングや曲作りをする時にも視覚的な観点を多く取り入れるので、彼の作品には音楽的にもいつも大きく影響される、映像でありながらも。で、彼は引退したと最近聞いて。サイモンが作っていたシンセ音をベンダーがループにシーケンスしたのを聞いて、宮崎映画の「天空の城ラピュタ」のシーンを思い出した。空に浮かぶ城の庭が巨大で穏やかなロボットによって手入れされているの。音を聴いて情景が自然に浮かんできた。
    引退されたということで歌詞を書こうと思い、宮崎さんと彼の作品へのトリビュートとしてということで曲の出だしが彼や彼の技巧に触れる内容になっているの。

  • Creations (Part 1 & 2)Paul Bender (ba)
  • 2曲あって、「Creations Part 1」と「同 Part 2」だけど元々は1曲だった。
    僕が作っていた作品が始まりで、仮依頼では、劇場で水中ドキュメンタリーを上映する企画のBGMを作ってくれないかということだったんだけど、実現しなくて曲だけが残ったということなんだ。
    アルバムの構成等を考えるアイディアを出し合っていた時にこの曲を持ち出してみたら、結果2つに分けていろいろ手を加えて、みんなで作り上げた曲になったけど元は全然違う世界のものだったんだよね。アルバムの一部になって本当に嬉しいね、やっぱり僕の中では特別な作品だから。

  • By Fire / Borderline With My AtomsNai Palm (vo, gu)
  • 「By Fire」と「Borderline With My Atoms」は前後編のようなもので「By Fire」が前編。

    まだ矢じりを持っていて、アリゾナに、それを造った人を探しに行かなくてはと思ってたの、それを返すためにね。というのは物といっても、誰が所有しているということではなくて、一時的に傍らにあるもの、要は鍵のようなものだと思ってる。だから私の役割の一つとして、誰がこの矢じりを造ったのかを探そうと思った。
    で、ナコというミュージシャンに出会い、彼はアパッチ族とプエルトリコとフィリピンの血を引く人だった。彼に矢じりの話をしていた時まさに、矢じりが彼の膝の中へ落ちたの。その時に気付いたの、この矢じりはその地代々の先祖が造りこまれていて、彼のためのものだったんだ、と。彼の一つの役割である、先祖から引き継ぐものに触れるために。

    その次の章が「Borderline With My Atoms」で、これはざっくり言うと現実や人生とは分子のようなもので出来ていて、様々な形や模様に変化を遂げていくものだ、ということ。物事をどうとらえるかによって、その役割が変わったりするとか。
    科学的にも、分子を観察している場合、つまり見られている時には分子の挙動も変わるという事象がある。同様に世界をどうとらえるかで現実も変わる気がするの。想像や夢の状態も実際この現実と同じくらいの現実であり、真実なんだと思う。そしてそれにどう関わっていくかでそれが妥当かどうかが決まる。なので、この一連の出会いをきっかけにそういうことを語っています。

    歌詞で"No borders/境界がない"というのは、実際に隔てているものはないにも関わらず、我々人間はいろんな物を分類するのが好きで、境界、つまり世界でも国境を作っていて。友人にも他の国からの難民がいて国境という概念があるために今とは別の場所で暮らすことが出来ないという状況もある。でもそれは人が決めたことで、人が勝手に作った概念。それがすべてに波及するの、ジャンルとかもそう、「あなたは○×ね、○×のカテゴリー」だとか。私はアーティストとして、想像力を祝い、無限の可能性を提言することが役目だと感じてる。そしてそれはクリエイティビティ(創造性)によって実現できるものだと思う。

  • Breathing UnderwaterNai Palm (vo, gu)
  • 「Breathing Underwater」はスティービー・ワンダーへのトリビュートとして作ったの。子どもの頃から聴いていたし、自分が音楽的に成熟し、理解力が育まれたのはそういう知的で魂を感じる音楽を聴いて育ったおかげなので。

    歌詞的に書きたかったのは... ラブソングと言われるものは世の中にたくさんあって、もはや音楽では最大のテーマとも言える、ラブソングね、ロマンティックな歌。
    ただ、愛することや愛の形はあらゆる方法で存在しているので、それを表現したかった。
    このラブソングの中で登場するのはトゥアレグの銀細工師が自分の生業に込める思いとか、一杯のカモミール・ティーに愛を込めて、最悪な日を過ごして落ち込んでる大切な友人に作ってあげるとか。
    あと歌詞に、「Wild rose Jericho sewn arid as stone」というのは、アフリカの植物で復活草とかジェリコのバラといわれる、百年以上も水がなくても生き延びることができる花。そこに一度雨が降るだけで、数分で花を開かせる。その植物の愛、それほどの長い間眠り続けても、必要なのはたった少しの水分で、その優しさがあれば開花できる。
    人もそうだと思うの、冷たい人や意地悪な人に出会っても、大抵・・・誰だって愛されたいだけ。それもロマンティックな愛じゃなくていい、それについて表現したかった。
    途中でキーが変わるんだけど、これはスティービーがよく使うことで知られてる手法。

    ということでこれはラブソングです。世界へのラブソングで、スティービー・ワンダーへのトリビュート。

  • Swamp ThingNai Palm (vo, gu)
  • 「Swamp Thing」は、要は私なりにマイケル・ジャクソンの「スリラー」を解釈したもの。そう言うとかなり大それたことに聞こえるのはわかってるんだけどね。

    具体的に言うと語り部がいて、物語があって、怖い登場人物がいて。「僕がいるよ・・・僕が守ってあげるよ」って言うの。だけど最終的には彼が狼男だ、っていうのがね、なんともいえないよね。大好きなの、こういうスタイルが。そういう背景の曲です。
    映画とかにできる可能性があるような曲を書く傾向があるかな、私。
    この曲も物語があるよね、恐怖の生き物がいる、要は私はセイレーンのような登場人物で、いずれは死をもたらす・・・でも美しい死よ!

    この曲に南部のテーマを選んだのは、トム・ロビンズの「Jitterbug Perfume/香水ジルバ」を読んでからのこと。いろんなことについての本だけれど、彼のスタイルが好き。とても表現豊かで情景が目に浮かんでくるんだけど、ちょっとヘンテコリンでこの曲の設定を選んだ時もその本にとてもインスピレーションをもらったの。あとジャム・セッションでのアイディアから曲ができた時に、誰かがそう命名したのでそのキーワードをヒントに物語にしたというのもあるわね。

  • FingerprintsNai Palm (vo, gu), Simon Mavin (key)
  • Nai Palm :
    「Fingerprints」は私が曲を書き始めて間もない頃のもの、んー、16歳くらいだったかな。
    私は親がいなくて、この曲は子供時代というものへのトリビュートで、その時代の記憶と、失意から成長することを歌ってる。
    歌詞の中に「The grubby fingerprints that kiss the walls have vanished」という箇所は、[子供時代に住んでいた家の]廊下の突き当たりにクリムトの絵が飾ってあって、恋人たち、だか接吻だか、接吻っていう名前だったかな。私も男兄弟とスパイダーマンごっこでみんな壁をよじ登るんだけど、母はすごい剣幕だったの、手あかが天井まで続いていてバレバレだったからね、手形がいっぱいで。「The grubby fingerprints have vanished」というのは、それが今は思い出だってこと。子ども時代のふとした情景が突然思い出されたりするけれど、意外とそういうどうでもいいことだったりするんだよね。
    とても嬉しかったのは、メンバーがね、私がいやいや、古い曲だし、全然よくないし使えない、って言っていたところを、彼らがいやこれアルバムに載せようよ、とってもクールだし、って言ってくれたこと。私の曲作りの歴史の中でもそんなに昔のものを彼らが支持してくれて本当に感激だった。

    Simon Mavin :
    「Fingerprints」はネイが書いたもので、昔の曲だね、かなり若い時に作ったものをバンドに紹介してくれた。結成した始めの頃だったと思うからもうかなり長いことやってる曲だね。ライブでもよくやっていて、Nakamarraにも似た雰囲気があるからかな、レコーディングも「Tawk (Tomahawk)」の時のNakamarraと同じやり方にしてみた。というのはまぁほとんどライブ一発録りということだよね、ヴォーカルと楽器で。使ったのはStellavoxミキサーで、直接ステレオ・トラックに録るからライブ録音が終わるとミックスや後処理はまったくないんだ。だからある意味制約もされるけど、結果とてもいいんだ、気に入った音になっていればそれをしっかりとらえてるし、それで終わり、いじりようがない。すごくいいやり方だ、何曲かそうやってレコーディングしたよ。この曲が一番顕著かな、後からほとんど追加していないからね、シンセとヴォーカルを少しだけだ。それ以外は演奏の生のままが聞こえると思うよ。

  • JekyllNai Palm (vo, gu)
  • 「Jekyll」も割と早い頃に書いた曲ね、16歳とか17歳とか。ピアノで書いた曲で私は鍵盤奏者となるとあまり自信がない方なんだけど、でもメンバーはとても快く受け止めてくれた。当時フェラ・クティを聴きまくっていたので、途中の部分でアフロビートっぽいところがある。
    この曲は恋愛関係について、ジキル博士とハイド氏をその隠喩として使ってる。あとはハイド(hide)はお尻の意味もあるしね。
    恋愛中の様々な状態にいかにいろいろな観点があるかとか、それがアッという間にひっくり返ることとか。多面的だし、いろんな側面があるからね、恋愛中の段階によっても変わるいろんな状態をジキルとハイドで表現してるかな。

  • Prince MinikidSimon Mavin (key), Nai Palm (vo, gu)
  • Simon Mavin :
    「Prince Minikid」は僕が持ち込んだ曲。なんだろな、書いた時の印象は、日本のアニメの名作の雰囲気。プリンセス・モノノケが浮かんで、「プリンス・ミニキッド」ね、[音が似てるし]なんかいい名前じゃん、っていうことで付いたタイトル。
    僕とベンダーが作りこみを始めたら、スタジオでの発展はすごかったね、ほとんどがスタジオで出来てきたもので、彼と二人で。パーカッションやったり、本当に楽しい作業だった。ビーチ・ボーイズにインスパイアされた箇所とかもあってね。ベンダーがやろうとしていたプロジェクトで「ペット・サウンズ」の完全再現というのがあって、3、40人のミュージシャンを集めたバンドがいろんな音のレコーディングをしたり、トラックを重ねたりしていたのと並行してこの曲をやっていたので、あらゆるアイディアが出てきたよ。何せ完全再現だからさ、宇宙っぽい共鳴音とか道具や楽器も本格的に揃えてさ、そういう音をたくさん聞いて、かなり「Prince Minikid」の中にも要素が入って来たよね。「ペット・サウンズ」風の雰囲気を醸し出してるんじゃないかな。


    Nai Palm :
    「Prince Minikid」はサイモンが作った曲で、初めからそう呼ばれていてタイトルがついてた。なのでチャーリーについて[歌詞を]書こうと思ったの、彼はプリンス・ミニキッドだから。歌詞の中に「I feed you seed and water from my lips」というところがあるのは、彼がよく私の口から食べたり水を飲んだりするから。
    セカンド・バースは、友人コジーの家にはティーピーの枠組みがあってそこで寝るフルーツコウモリがいるんだけど、この歌詞を書いてる時によく彼女の家に行っていたので、そのコウモリをプリンス・ミニキッドって二人で呼んでいたり。
    つまり、飛ぶ能力のあるヘンテコ小動物の総称って感じかな。

  • AtariNai Palm (vo ,gu)
  • 「Atari」は純粋に、そのゲーム機を祝福するために書いた曲。アタリ社は倒産していて、またしても失ったものということだけれど、それを知った時はね、そりゃあ子ども時代の思い出には欠かせない大きな部分だったからね、兄弟が4人いたし。
    なんとも言えない感動があったんだよね。私は別にゲーマーというわけじゃないけど、その中の世界とやり取り出来るのが素晴らしいというか、魔法の世界が出来ていて、そこに入り込んで関われるっていうのが本当にすごいと思う。なので、その事への賞賛。

    ヴォーカルについてはエキゾチカの作曲家、レス・バクスターをよく聴いていた時期で、不思議な和音の波があったりとか。そりゃあレス・バクスターっぽい要素があるね、この曲のバック・コーラスのアレンジは。

  • By FirePaul Bender (ba), Nai Palm (vo, gu)
  • Paul Bender :
    そうだね、アルバムで僕のお気に入りの曲の一つは「By Fire」だ。あれを作るのはとても不思議な感じだった、何度も拍子が変わったり違う要素が集まっていたり、いろんな雰囲気があったり。ネイはずいぶん変わったヴォーカルのプロデュースや声を重ねたりとかなりディープにやっていたよね。合唱団とか。不思議な雰囲気の曲だ。このアルバムの曲ではドラムスも多くて少しレトロ風で暗めの70'sっぽい、とってもドライな音になってるよね。実際に70's曲のように聞こえる訳じゃないんだけれどもしかしたらそういう要素があるからか、そう思わせるのかな。


    Nai Palm :
    「By Fire」と「Borderline With My Atoms」は同じ話の別部分なのよね、実際。「By Fire」の歌詞はね、シドニーで宝物屋をやっているダリアスという人がいてね、そのお店に行ったら彼がえらく温かく迎えてくれるの、「また会えて本当に嬉しいよ!」とか言ってね、私会ったことないし、初めて行ったところなのに。
    で、どうやら彼は私を、NY出身でアリゾナにあるネイティブ・アメリカン[インディアン]の居留地で働く女性と勘違いしたみたいで、彼女は彼の店で何かをボワニーの銀の矢じりと交換したのだそう。
    彼女がそのreservationで働いている場所では鐘が聞こえていて、彼女はその音を辿って砂漠を歩き始めたの。その鐘は20分毎くらいにしか鳴らなくて、その度に止まっては次の鐘を待たなくてはならなかったんだって。
    で、そのうちに辿り着いたのが、ナヴァホの老人が火の傍で矢じりを、昔ながらの方法で作っているところだったそう。彼女が見たのは、その老人が矢じりを作り、辺りの先祖が矢じりに入り込むようにと鐘を鳴らすところだったの。
    作っている矢じりは飾り用ではあるんだけれど、伝統に基づいて、狩りのためかな?作ってから、祈祷するようなものじゃないかな。
    で、その矢じりを老人は彼女に渡し、彼女はシドニーに来ることになってその店主に渡して、その店主は私が彼女だと勘違いしたということね。
    店主にこの話を聞いた時に、なんていうかとても琴線に触れたの。私の父はネイティブ・アメリカンで、子どもの頃からジュエリーやティーピーを作っていたそうで、自分でネイティブ・アメリカン文化についてかなり勉強した人だった。父は私が5歳の時にいなくなり、13歳の時に亡くなったので、私が彼のことで覚えていることと言えばそのネイティブ・アメリカン文化が大好きだったということくらい。私も大人になり、父のことをもっと知ろうと思い、その文化に興味を持つようになり、いろんなことを勉強した。
    父は亡くなる6か月くらい前に、自分で作品を全部燃やしてしまったの、皮細工や、骨細工のチェスの駒とかを全部。作品を燃やして、そして亡くなったのは家の火事で。
    そういうこともあり、この老人が火で物を作っている話を聞いた時に、もちろん父ではないけれど、私には父と重なって思えたの、とても強烈だった。父が亡くなって、ちゃんと悲しみに向き合えていなかったのよね。家に帰ってから...
    その店主が私に矢じりを送ってくれたの、「君が持っていた方がいいと思って」と、送ってくれた。
    それで曲を書くことになったんだけど、創造と破壊の要素を火で表現しているわね、命をつなげる、暖を取れる、でも危険でもあり、命を奪うこともある。
    この話は本当に心に響いたの、あまりに関連がありすぎて。父が亡くなったことの悲しみとちゃんと向き合ったのも初めてだったし、ある意味魂を送り出す歌にもなった。
    叔母さんが父の葬儀でセイジを焚いて、両端に鷹の羽根がついた革紐を編んだものを半分に切り、片方は父と一緒に埋葬し、片方は私や兄弟が持ってるの。そういう儀式の要素も入っている曲。

  • The LungNai Palm (vo, gu)
  • 「The Lung」はベンダーが作ったギターのループが元になってる。私が書く歌詞の多くは何か眼に浮かんでくる情景があるところから始めたり、豊かすぎる想像力から来てるの。それを、つまり自分が見えているものを記述しようとする行為なんだけれど、このループを初めて聴いた時に浮かんで来たのは蒸発していく肺の情景だったの、綿あめを舐めると一瞬で魔法のように溶けてしまうそういう感じ。脈打つ肺が、そうなっているのが目に浮かんだ。
    そこから浮かんで来たものをgoogleで順に検索していったら、蛍光の液体を飲んで、それが肺に入り、深海潜水とか宇宙飛行等、厳しい環境で利用して肺機能を向上させるというものの科学的な研究についての記事を見つけた。それを取り入れたりとか。

    あとは私の歌詞で常にあるテーマは、何かを乗り越えるということ。悲しみにどっぷり浸るのも良いけれど、前向きな効果を望みたければ浄化と何かしら得るものとか、それから生まれた知恵がないとね。ほとんどの苦しみは、何かを経験して、それを手放すことによって思いやりが持てるようになるから。なのでこの曲は勇気についてということかな。

    歌詞の中に、「Cool it out by koolabah」という箇所があるんだけれど、クーラバはここオーストラリアにある樹なの。コーラス部分では、古いオーストラリアの民謡に触れているんだけれど何かは教えてあげない、考えてみてね。曲の中にオーストラリアならではの要素を取り入れるのが好きなの、私たちはここの出身だからね。よく外国を憧れの対象にする人もいるけれど、オーストラリアってとても不思議なところだし、その身の回りの自然へのオマージュという側面がある曲。
    私たちの音楽ではそういうことがよくあるわね、ちょっとしたことが隠れてる。私は自分の国に誇りがある、本当に美しい国だから。どこの国で生まれてもおかしくなかった訳だけれど私は自分の環境にとてもインスピレーションを感じる。なのでそれに対する感謝のトリビュートの要素が「The Lung」にもあるってこと。

  • MolassesNai Palm (vo, gu), Perrin Moss (dr)
  • Nai Palm :
    「Molasses」は別れの歌のようなものだけれど、つらいということにどっぷりと浸りたくはなかったの。というのは、それを形に残してしまって、その後乗り越えて、それでも何度も繰り返し歌わなきゃいけなくなると、毎度傷口を広げていくことになる。
    だからね、これは自分へのおまじないみたいなもので、別れの歌を長期のスパンで見て、自分がどうなっているだろうかという視点から書いてみたの。大体の恋愛関係って...何か苦しいことがあった場合必ず、それから学ぶことがあって、成長した自分になれる訳だから、そういう曲を作りたかった。その後自分がどういう人になるか、その経験で何を得て、学んでいったか。なので、とてもポジティブな曲。自分を当時元気づけるためにね。
    歌詞についてはかなり多くの層がある。音楽を作る理由は、感情の状態を増幅するため、それがどんな感情でもね。なので、層が多いほど、様々な人が心を通わせられる部分を見つけやすいということ。


    Perrin Moss :
    レコーディングやマルチ・トラックでいろいろと試していた時に、最初から最後まで、通して録る、つまりライブで演奏する形のままのものをいくつかやってみようということになって。
    そのうちのひとつが「Molasses」でこれは友人のダミアン・チャイルズのスタジオでレコーディングしたんだけど、もう最初から終わりまでぶっ通し。実はこれまでの段階で例えば各楽器の音を隔離するようなテクニックは把握してきてはいたんだ。というのは、そのスタジオで、というかどこのスタジオでもはじめはそうなんだけれど、みんなが同じ部屋でレコーディングしようとした際には互いのトラックに他の音が入り込んでしまったりと、とても難しかった。
    「Molasses」ではそれがとてもうまくいったんだ。家に戻ってからファイルを聞いても、それぞれの楽器とかがほぼ完ぺきに独立している形だった。曲を通してすごくいい雰囲気で、昔ながらの音だし、みんなで一発録りできて、すごく達成感があった、他の楽器音が混ざったりとかの処理もなかったから、それぞれの音の中での自由度も多かったね。

  • Building A LadderNai Palm (vo, gu)
  • 「Building A Ladder」は、元気の出る曲。私、サイアクの気分の時はポジティブな曲を書くのが好きなの。というのは、それによって抜け出せるし、ある意味、自分の苦しみは、ほかの人のためにもなる、みたいな部分があって、例えば他の人も私と同じように苦しんでる、だとしたらどうしたら助けてあげられるかな、とか。もし私が助けてもらうとしたら、どうして欲しいかな、とか。そういう風に想像して考えてみる。
    なんだろうな...苦しんでいる時は、感情移入によって乗り越えるというのも良いんだろうけど、やっぱり人にとって元気になる動機でもありたいと思うし。私にとって音楽の多くがそうで、今までの人生の中で、音楽が私を何度となく助けてくれたし、私もミュージシャンとして、その受け継がれるものの中にいるわけなのでそういう義務があると思ってる。
    音楽が私の聖域であってくれたように、私も人々にとっての救いの場所になれるって。
    そう、「Building A Ladder」はね、当時とても苦しかった...でも「いつか終わるよ!苦しみは終わる!希望を持ち続ければいい」って、自分に言ってたの。
    しかもライブでやるとすごく良い曲。例えばサイアクな気分の夜だったり、お客さんが反応してくれない時でも、歌詞に「Building a ladder of love to you, and I hope that love you'll build one too」というところがあるけれど、本当にそうで、こちらから心を開くと、人も応えてくれる、何かしらの形でね。でもその一歩が必要なの、それが一番難しい一歩なんだよね、だって苦しい時は誰だって内向きでいたくなる。私も人間だし、お風呂に浸かりながらビヨークを聴いて、ウィスキーをあおりたくなるよ、落ち込んだ時は。だからこれは贈り物なの、誰かの役に立つといいなと思って。