「ライオット・アクト」に伴うオフィシャル・インタビュー一挙公開!! ●エディ・ヴェダー(インタビュアー:新谷洋子氏) |
マイク・マクレディ&ストーン・ゴッサード(インタビュアー:新谷洋子氏) |
Q:まず少し遡って前回のツアーのことを伺いたいんですが、2000年11月のシアトルで最終公演がありましたよね。あの時点でのバンドの状態はどんな様子だったんでしょう? ストーン(以下S):僕が思うに、みんな少々ヘトヘト気味ではあったものの、あの最後のライヴは……多分僕にとっては、そしてバンドのみんなにとってもそうだと思うけど、これまでで一番楽しかったライヴのひとつだったよ。 マイク(以下M):ああ、グレートだったね。 S:そんなわけで……ツアーを終えて僕たちは、「じゃあ1年後に会おう」と言って別れたんだけど、すごく高揚感に満ちたフィーリングを抱いていよ。あの日は特別なマジックを実現したという手応えを得られと感じたからね。だからあの時点でのバンドの心理状態はかなりポジティヴなものだったんじゃないかな。 M:そうだね。僕はあのままツアーを続けたかったくらいだよ。 S:そう、マイク・マクレディはツアーを続行したがってた(笑)。この男はそういうヤツなんだよ。 M:うん、それが僕ってヤツさ(笑)。 Q:当時は次にバンドが進む方向などについては完全にブランクな状態だったんですか? M:少し休みをとる、というのが当座の予定だったんだ。ストーンが言ったように全員でミーティングをして、1年後に会う約束をしたのさ。 S:それに……僕たちはたいてい、「XXに会おう」ということ以上に具体的に戦略を立てて物事を進めるバンドじゃない。それぞれが曲を書きためたりはするけど、「こういう方向性でやろう」みたいなセオリーはないんだ。ただ、「アルバムをレコーディングしよう」というだけさ。そして作業をしながら道を拓いてゆく。そういう意味ではかなり自由なスタンスをとっているんだよ。 Q:さらに、その前の10月22日には初ライヴからの10周年を祝ってますよね。10年が過ぎて一区切りつけたことで、今回から新しいスタートを切るような気分はあるんでしょうか? それとも“通常どおり”な感じ? M:僕の場合はどちらかというと“興奮”という要素が強いかな。10年間活動を続けられたことを祝うってことで。これまでも一度も“通常どおり”なんて感じたことはなかったよ。そう……常に驚きの連続だったからね。こんなに長い間活動を続け、いまだにお互い仲良くやってて、そして人々がバンドに興味を持ち続けてくれるなんて素晴らしいことだから。これからも意義のある音楽を作り続けていきたいと願ってる。そこが重要なんだよ。それができるバンドはごく限られているからね。だから、そういうバンドの一部でいられる自分は恐ろしくラッキーだと思ってるよ。そういう意味で10周年を迎えたことはうれしかった。なんだかあっという間だったな。 Q:バンドが再び集まったのは、今年の始めになるんですよね。 M:うん、正確な日付についてはいまだ協議中なんだ(笑)。はっきり思い出せなくて。 S:6カ月から9カ月前ってところだね。 Q:そして、全員が昨年中に書きためて曲を用意していたわけですね。 S:ああ。集まった時には全員が幾つかの曲を携えていたよ。その後スタジオで作った曲もたくさんあるけど、一年も時間があったわけだから、その間に当然みんなギターを手にして少なくとも2,3曲は作ることになるものさ。従って、再会した時にはみんながお互いにプレイして聴かせられる曲を用意していたよ。 Q:ということは、前作と同じくらいに、全員がソングライティングのクレジットを分かち合ってるということ? S:そう思うよ。うん、かなり幅広い内容になってるね。 M:もしかしたら前作以上なのかもしれない。なぜって今回はマットも積極的に参加してより多くの曲を提供しているから。彼の曲が全部で3つくらいあるんじゃないかな。しかも…… S:非常に重要な3つの曲なんだ。 M:うん。本当に重要だね。彼の曲は、これまでの僕たちがプレイしたことのない新しい次元に導いてくれるような曲なんだよ。だからエキサイティングだったな。 Q:それはどの曲ですか? M:ええっと、彼が書いたのは…… S:『You Are』の一部分と『Get Right』だよ。 M:そう、『Get Right』だ。 Q:でも、アルバム制作をスタートする前にたしか、『I Am Mine』も完成してたんですよね。 S:ああ。エディがあの曲を書いて、実際にブリッジ・スクール・コンサートでプレイしたよ。だからすでに完成していた。 Q:あの曲がアルバムのスタート地点というかカギになるような役割を担ったりはしなかったんですか? S:どうかな。僕たちはほかにもすでに幾つか曲を完成させていたからね。ほら、ジェフが書いたのはなんて曲だっけ? アルバムには収録されなかったけど……。『Black Out』だ。 M:あのスローな曲だね。 S:『Bush Leaguer』もだよ。 M:うん。もう1曲アルバムに入らなかったのがあったよね。 S:ああ、ブリッジ・スクールで『I Am Mine』と一緒にプレイしようと思って練習してたヤツだ。お前の曲もひとつあったよ、クリスマス・シングルのB面曲だっけ? M:『Last Soldier』ってタイトルだよ。 S:『Last Soldier』だったな、うん。 Q:では、これといって音楽的に明確な(“concrete”)アイデアはなかったわけですね。 M:少しはアイデアはあったよ。幾つかのデモはできていたし、ジェフの『Help Help』もできていて、マットもデモを持ち込んだから、あれらはすでに明確な形をとっていた。でも全員が集まった時にパール・ジャムのサウンドへと発展させたんだよ。その一方で、現場で自然発生的に生まれた曲もあって、それらはもちろん、“コンクリート”とは言えないよね(笑)。ごめん、つまり液体コンクリートってことになるのかな。“コンクリート”って言葉、しばらく使わせてもらうよ(笑)。 S:比喩としての“コンクリート”ってことかい? 硬い塊でありながら… M:そう、硬い塊でありながらも同時にドロドロしている……。ごめん、もう黙るよ。 Q:プロデューサーにアダム・キャスパーを選んだ理由は? M:マットがサウンドガーデン時代から彼をよく知っていたんだ。最後の2枚のサウンドガーデンのアルバムに参加していて、アダムが表現したドラム・サウンドをすごく気に入っていたみたいだね。それに人間としても意気投合して、彼の名前を挙げたんだよ。で、僕たちもその案に賛成したってわけだ。エディも彼を気に入っていたし。そしてグレートな結果を生んだと思うよ。アダムは素晴らしいんだ、すごく集中力があって、僕たちに全力を出させてくれた。音も最高だよ。 Q:前作でのチャド・ブレイクとのコラボレーションとはどんな違いがありましたか? S:ただ、あの時はあの時って感じかな。チャドとのアルバム作りは……僕が思うにマットは当時まだバンドのメンバーとして一体になれていなかったんじゃないかな。どうなんだろう、あのセッションは少々散漫だったような印象が僕にはある。今回ほどにはバンドのスピリットとが一体化していなかったように思うんだ。スタジオでのアダムのアプローチはなんというか、彼がこのバンドの音楽作りのスタイルをきちんと理解していることだったり、マットが彼を信頼していることだったり、いろんな要素が重なっていいフィーリングを生み、それが今回のアルバム制作をより楽にしてくれたんだ。些細な違いなんだけどね。もちろんチャド・ブレイクも素晴らしい作品を作る人だし、彼とのアルバム作りもエンジョイしたよ。でも、とにかくあの時はあの時で、今はまた違う場所にいるってことさ。 Q:つまり、今作でマットが本当の意味でパール・ジャムの一員になったということですか? S:うん、そう思うよ。そんな気がするんだ。 Q:詞の部分でもいろいろ変化がありますよね。例えば表現が以前よりもずっとダイレクトで、聴き手にメッセージを確実に伝えたいという意図を感じたのですが。 S:それは主にエディの意思によるものじゃないかな。彼自身が作詞へのアプローチにおいて、そういう意図を持っていたんだろう。君が言うダイレクトな詞というのはきっと、エディが書いたものだと思うから。僕にとっても非常に新鮮だったよ。彼があれほどにセンチメンタルになって、完全に……アイロニーを排して自分が大切に思っていることを表現したのは、初めてのことだからね。そして、それらを隠そうとせず、率直に表すことを全く恐れていない。その点については彼を尊敬するよ。心から。素晴らしいことだね。だからこのアルバムでは詞が本当に重要だと言えるよ。 M:それに、はたから見ていても分かったけど……肉体的にも、エディがいかにダイレクトに表現しようとしているかが伝わってきた。彼は2階に上がって詞を取り出してまた戻ってきて、そして歌うわけだけど、何度も何度も何度も歌い直していたんだ。……本当に入れ込んでいて、生々しかったよ。彼も興奮していて、いい感じだった。 Q:詞のテーマに関しては、パール・ジャムにとって最もポリティカルな意味合いが強いアルバムと言えるのでしょうか? S:もしかするとね。そうなのかもしれない。 M:ああ。 S:僕たちはこれまでの作品でも常にポリティカルなテーマを扱ってきた。『Even Flow』もポリティカルなメッセージを含んでいたし、『Do the Revolution』も然り。ポリティカルな捉え方が可能な曲はたくさんあるよね。でも確かにこのアルバムは、ポリティカルな要素を最も多く含んだ作品と呼べるのかもしれない。それもまた、エディと政治や社会問題への彼の関心の深さによってもたらされたものなんだ。彼は最近いっそう積極的にアメリカの歴史や世界情勢について学ぶ意欲を見せているからね。そして……会話のトピックとしても、今の彼が一番話したがってるのはそういった話題なんだよ。これまでも常にポリティカルな活動に関わってはきたけど、このところより活発に活動しているし。 Q:例えばこのバンドにはポリティカルなコンセンサスみたいなものがあるんでしょうか? エディが過激すぎる表現をした時に誰かが押しとどめるようなチェック機能というか…… S:僕たちが政治の話をする時には、非常に幅広い意見が交わされるんだ。基本的な考え方においては全員が一致しているけど、例えばひとつひとつの問題の解決方法となると、本当に多様な方法論が提起されるんだよ。それが僕たちのポリティックスの面白いところじゃないかな。つまり答えはひとつではないということさ。単純な答えなどなくて、そこには必ず対話があり、複数のアイデアが表明され、どんなものであれ抑圧されることはないんだよ。 Q:では、このアルバムで触れている事柄についてはメンバー全員が共感しているんですね。 S:僕が居心地悪さを覚えるような詞は皆無だよ。 M:同感だ。それにたとえ、あるテーマについて彼がとったスタンスに対して僕が違和感を感じたとしても、違和感を感じること自体に価値があると思うんだ。 S:確かに。 M:なぜってそれは、聴き手の思考を即していることを証明しているからさ。それが重要なんだよ。 S:うん、まさにその通りだ。エディの詞と、彼が作詞を通して表現するアートに関しては、彼自身の責任においてその意図を決めるべきものだと思う。そして最終的には、僕たち全員がこのアルバムにおける詞のアイデアの幅広さにすごく満足しているんだ。たとえ彼の意見に同意できないことがあったとしても、多分その10倍いや12倍のケースにおいて想いを共有できる。たまに彼が論議を呼ぶようなことを詞に織り込んで、僕たちは抵抗を感じたりするかもしれない。でも全体の流れにおいて必要なのだと分かっているから、受け入れることができるんだよ。 Q:でも詞も全員が書いているんですよね。 S:ああ、マットも書いてるし、ジェフも書いてるし、僕も書いてるよ。 Q:“love”という言葉がいつになく頻繁に登場することも気になったのですが、これもエディ? S:うん。 M:そうだね。 Q:例えば『Love Boat Captain』みたいな曲を聴いた時はびっくりしました? S:ああ。 M:まずタイトルを見て仰天したよ(笑)。でも……こういう変化は大歓迎だ。ユーモアの要素も含みつつ、誠実な想いが込められていて。美しい歌だよね。 S:うん、すごくシンプルかつダイレクトで。 Q:では、このアルバムはパール・ジャムが今いる場所について、どんなことを物語っていると思いますか? S:健全な状態にあるってことだね。そして……意思統一ができていて、……繁栄しつつあって、そして成長している。この作品はバンドについて明確な主張を含んだアルバムだと思うんだ。僕たちは自分たちの音楽的志向に関して非常にユニークな考え方を持っていること、聴けばパール・ジャムだと分かる無二のサウンドを確立したことを、宣言しているかのような。 Q:ここ数年というものメディアには姿を現さず、ある意味目立たない活動を続けていますよね。そんな自己完結したスタイルを確立しているあなたたちにとっても、例えば『Last Kiss』が突如大ヒットしたり、ライヴ盤が同時に14枚チャートインするといった数値的な記録は、やはり意味深いことなのでしょうか? M:うん、すごくうれしいことだよ。なにも数字のことを毎日考えてるわけじゃないけど、特に『Last Kiss』 のヒットは誰も予想できなかったからね。なにしろサウンドチェックの時にさっと録ったもので、あれはワシントンD.C.だったと思うけど、それを大勢の人が気に入ってくれたんだ。そりゃうれしいよ。 S:ヒットの仕方としては理想的だよね、こういう…… M:予想外なのが。 S:うん。そしてあの一件は僕たちの長年の信条をさらに強めてくれたんだよ。つまり、確かな理由とか公式なんてものは存在しないってことさ。あの曲は、そう、2千ドル程度の制作費でレコーディングしたもので、時間も全然かけていない。サウンドチェックの時に3回くらいプレイしただけ。もしかしたら2回だったかもしれない。そんな曲にみんなが惚れ込んで聴きたがったんだから、シンプルであることの大切さを改めて教えてくれたよ。ただ楽しむためだけに何かをするというスピリットにこそ、人々は応えてくれるんだ。そういう意味で僕たちにとっては重要な確認作業になったと思うよ。 Q:去年ソロアルバムをリリースした時のストーンのインタヴューを読んでいて、“僕たちは何も失うものがなかった結成当時の純粋さを取り戻そうとしている”というようなコメントがありました。この想いは、今回のアルバム作りを通して強く意識していたんでしょうか? S:僕が思うに全員がこのアルバム制作にあたって、音楽作りのプロセスそのものに可能な限りオープンな姿勢でいようと決意していたんじゃないかな。……これは推測にすぎないけど、少なくとも僕自身はそういう気持ちだった。そのプロセスとはつまり、5人の人間がそれぞれに曲を持ち寄って集まるという、実に奇妙なものなんだ。いったい何が起こっているのか理解できないし、ちゃんと形になるのか先が読めないし、誰一人としてコントロールする者もいない。とにかくプロセスを信じるしかないんだよ。それが何を具体的に意味するかと言えば、常に冷静でいて、自分に正直でいて、スタジオでは高揚感をキープするってこと。そうすれば最終的にはいい結果に辿り着くのさ。自分の意志を無理に押しつけようとしたり、コントロールしようとすれば、必ず後悔することになる。ただプロセスに参加しバンドの一部となって、最後には絶対に道が拓けると信じていればいいんだ。そんなスピリットが全員をクリエイティヴにして、お互いが作ってきた曲にワクワクさせるんだよ。そして正しい道へと僕たちを導いてくれるのさ。 Q:もしかしたら耳にしたことがあるかもしれないんですが、モービーがある雑誌に“パール・ジャム・シンドローム”というテーマでエッセイを寄稿して…… M:“パール・ジャム・シンドローム”? Q:ええ。どういう内容かというと、今のチャートは必ずしも現実を反映していないのではないかというセオリーなんです。チャートを見る限りでは無個性なポップ・ミュージック全盛のようですが、実際はダウンロードやコピーによって、パール・ジャムのようなユニークなアーティストの作品が大勢の人に聴かれている、と。この意見をどう思いますか? S:彼の言いたいことがはっきりとは理解できないんだけど、確かに今の時代、量の面でも種類の面でも、人々が聴くことができる音楽の幅は恐ろしく広いよね。例えば昔と比べて、インターネットの影響でハイスクールの年頃の子が聴く音楽の量は遥かに増えているはず。そういう傾向は100%ポジティヴだと思うよ。ある意味で革命が進行しているわけだからね。でもその先のこと、つまり今後いったいどんな影響を及ぼすのか、パール・ジャム・シンドロームが事実なのか、といったことについてモービーが正しいのか否かは判断つきかねるな。 Q:最後に、『Binaural』をリリースした時のインタヴューでエディは、自分のベストアルバム100選にパール・ジャムの作品は一枚も入らないと言ってたんですが、おふたりの場合はどうでしょう? S:1枚くらいなら入るんじゃないかなあ。 M:ベスト100枚ってこと? もちろんだよ! 100枚あるなら。まあ100枚なんて思いつかないけど……うん、絶対入るよ! S:まず 67年以降のストーンズのアルバムが全部と…… M:同感! それがトップ10になるんだろうけど、困ったことに20枚はあるよね(笑)。 S:あとはエアロスミスの最初の7枚と…… Q:で、パール・ジャムだとどの作品を選びますか? M:この最新作と、『Yield』も大好きだよ。 S:僕はやっぱり『Vs.』だな。 M:そのリスト、今晩早速作ってみるよ! |
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