Oasis

★妹沢奈美の我がオアシス人生に悔いは無し～
『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』レポ

ノエル先生のスタジオはなんだかスゴかった編

　さとこちゃん風に言うなれば……おかあさん、オアシスのノエルさんのスタジオっちゅうところに行ってきたで。ロンドンからそげに遠くないのに、がいに広い農場でな。そこには紀元前から生えとりそうながいな杉の木があったで。こら、花粉症の人は使えんスタジオだがん。ノエルさんは花粉症じゃないってことだけはわかったけんなー。やばい、同じ米子出身でもさとこちゃんのように愛らしく書けやしない。何が違うんだ。キャラか？
　というわけで、3月某日にノエルが所有するウィーラーズ・エンド・スタジオに行ってきた。彼がおそらく世界中で最もリラックスできる場所のひとつで取材できたことで、ノエルの口調はこれまでの取材よりもなめらかなものだった。打てば響く鐘とはまさにこの日のノエルのこと。ちょっと話を振るだけで、100倍も面白い話として返してくれる。加えて、この人の場合は突っ込めば突っ込むほどに、面白い話がどんどん出てくる。彼の頭の回転の速さとサービス精神と、感動的なまでの本音主義は、他にちょっと比すべきミュージシャンが浮かばないほどだ。そのあたりの話は、おいおい今回の短期連載で触れていこうと思う。
　さて、不肖わたくし音楽ジャーナリスト歴が今年で満10年。そしてノエルのスタジオというのは言うなれば、ビートルズ・ファンにとってのアビイ・ロードでありピーター・ガブリエルのファンにとってのリアル・ワールドである。オアシスに取材したくてこの仕事をはじめた私だが（そして幸いなことに兄弟それぞれに日本で取材する機会には幾度か恵まれたものの）、ここで「きゃあきゃあ☆」と役立たずな取材をしてしまえば、この10年の血を吐く苦労（何の苦労だ？）が水の泡になる。以前ポール・ウェラー大先生のスタジオをご訪問させていただいた際には、感動しすぎて何も風景を覚えていなかったダメな私だ。そこで浮かんだのがリアムの顔である。「俺様には写真のような映像記録力がある」とかつて豪語していたリアム。ああリアム。私もリアム原理主義者として恥ずかしくないよう、この場で見たものを全て脳味噌に焼き付けておこうとその場で決心した。そしてそれを日本でファンのみなさんにお伝えするのが、この日の私に課せられたもう一つの役目であると。ラジャーである。
　外側はレンガ作りの、このスタジオ。大きな扉を開いて中に入ると、まるでログ・ハウスのようにウッディーな内装がほどこされている。とはいえ驚くことに、スタジオは二部屋のみ。一部屋にはすっげえ高価そうなヴィンテージのキーボードやギター類が山ほどあり、もう一部屋には要塞のようなミキシング・コンソールが。その二部屋はガラスで仕切られていて、あっちで演奏してこっちで録るわけであるが、ヴォーカル・ブースなどの小部屋はない。そのあたりの疑問をノエルに取材中にぶつけてみると、こんな答えが。
「そう、このスタジオではみんなで同時にレコーディングすることはできないんだ。だからまず初めに、俺がアコギで曲を弾く。それからみんなが上から録音して完成させていくんだよ。"ターン・アップ・ザ・サン"と"ベル・ウィル・リング"、あと"ラヴ・ライク・ア・ボム"と"キープ・ザ・ドリーム・アライヴ"はスタジオの中で生でレコーディングしたけど、他の曲は殆どオーバーダブで録ったな。曲によってレコーディングの仕方は違うしね。そもそも俺たちは、リハーサルってもんををやらないんだよ。ライヴで演奏してみて良かったらそのままの録音を使うし。だから、その時によって違うんだ」
　なるほど。それにしても、ここで最新作をふくむ数々の名曲が生まれたかと思うと、感無量だ。壁にはイエロー・サブマリン（ビートルズですね）のあの愛らしいモチーフが小さな壁掛けとして、いくつも並んでいる。プレスリーの顔が描かれたポスターなどロックの巨人たちの足跡を思わせるオブジェがいくつもあり、まさにスタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツだ。窓辺にはすわり心地のいいソファとテーブルが並べられ、ここにリアムも座ってるんだろうなあと思うと私までオラオラな気分になってくる。
　そして生まれたのが最新作だ。皆さん既にオアシスの最新シングル"ライラ"をお聴きのことだろうが、あのギターのイントロだけで何かが始まる予感は、さすがオアシスだ。しかもこれまでになくアナログ風味を生かした軽やかな録音は、オアシスの新たな旅立ちを感じさせる。この新鮮さを、アルバム『オアシス「Definitely Maybe」』のパート2として生むのではなく、むしろデビュー作の呪縛からはっきりオアシス自身が解放された証拠としての、前向きなものとして放っているさまがすごい。来るべきアルバム『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルー??

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