――本作で初めて全曲をコ・ソングライトしましたね?
アングン:これほど作品にかかわったのは初めてよ。私が全曲の歌詞を英語で書いて、ほとんどの曲のフランス語歌詞をエリック・ベンジと書いたの。インドネシアで発売した5枚のオリジナル・アルバムには、私が書いた曲がいつも1、2曲あったし、『Anggun』でも私が関わった曲が3曲あったわ。常に曲を書いていたけど、私の専門は歌とクラシック・ピアノよ。歌と違って、ソングライティングは私の仕事ではないような感じがしていたの、プロの人に任せておいた方がいいわ、って。
――ソングライティングへと導いた閃きが他にもあったのですか?
アングン:『Anggun』からこの本作までに3年という時間が過ぎた。驚いたことに、『Anggun』は33カ国でリリースされて、随分ツアーもしたわ。そういうときは多くのパワフルな感覚を経験するのよ。たとえば、アメリカの女性ばかりのフェスティヴァルであるリリス・フェアで、クィーン・ラティファ、ナタリー・マーチャント、サラ・マクラクラン、ボニー・レイットのようなアーティストと共にステージにいる自分にふと気付いたの。けれどツアーではとても孤独になることもある……、1日に何千もの人たちと会うけれど、夜になると一人ホテルの部屋で自分の大切な男性のことや、自分の生活のことを考えていたりする。ライターである私の父は、物を書くのは自分の苦しみを表現したいからだと言っていた。そのときやっと父の言っていた意味が分かったわ。
――ソングライティングにおいて、あなたにとって自然なのは何語ですか?
アングン:私は考えたり、数を数えるときはインドネシア語で、日々の生活ではフランス語を話しているけど、書くときは英語ね。インドネシアではだれもが英語を話すし、英語は第2外国語なのよ。私はフランス語を話すようになってまだ4年だし、言葉遊びができるほどではないわ。でも同時にインドネシア語はフランス語に適応しやすいの。インドネシア語はフランス語ほど発展していないけど、多くのイメージや比喩があるの、例えば太陽は「mata hari」つまり「1日の目」というの。フランス語の伝統はこのイメージを理解できるとても豊かな言語よ。『Anggun』で、Erickはインドネシア語の表現方法で、『La Neige au Sahara (Snow on the Sahara)』や『A la Plume de tes Doigt (To the feather of your fingers)』『La Memoire des Rochers (The memory of the rocks)』などの歌詞を書いたのよ。今回、私は初めて英語で歌詞を書いたので、歌詞は当然もっと直接的だと思うわ。
――祖国から離れて暮らすことは、あなたを憂うつな気持ちにさせますか?
アングン:ノスタルジックな気分になるのはあまりにも安易だわ。祖国からこれほど離れて暮らしていることで、より一層近い気持ちにさせられる。だから単純に悲しくなるということはないの。ただ家族に関しては、他の誰よりも、深く愛していると思う。本作の曲は、今まで以上に感情的な奥深さがあるけれど、同時にある一定の謙虚さも保ちたかった。インドネシアの人たちは、簡単に自分の心の内を見せることはしないの。私はフランスで、もっと率直になることや、表現することを学んだけど、控えめな面も保ってきたわ。大切なのは誠実であることで、それが良い音楽と悪い音楽の違いだと思う。
――「Une Femme」で、アジアの文化と西洋文化の両極端を拒否することで、あなたの考える女性らしさを定義していますね?
アングン:私は幸運にも虐げられたり、偶像化されたこともない。私はどちらも好きではないわ。よくフェミニズムについての質問をされるし、私が男性を尊重・尊敬していると答えると、男性の言いなりになるような人だと思われるみたいよ。でもそれは真実ではないわ。私はこの曲でそれを強調したかったの。
「Never a woman jewel, syrup, robot…Never a woman torturer, plague, knife」(歌詞から抜粋)
――本作『Chrysalis』で表現したかったこと(コンセプトなど)を教えて下さい。
アングン:コンセプトは特になかったわ。もしコンセプトというものがあるとすれば、それはできるだけ正直であるということね。私にとってアルバムは自分のポラロイド写真のようなもので、曲作りをしていたときの自分のスナップ写真なのよ。ファースト・アルバムから今作まで3年という時が経っているけれど、その3年間に多くの人たちと出会って、ストーリーのアイディアを得ることができたわ。だからこのアルバムはメランコリックな感じがあると思うけれど、それは曲を書いたそのときの気持ちなのよ。ちょうどツアーで、何時間もツアー・バスで揺られていたり、ショーでは何千もの人たちと出会い、ショーが終わってホテルに戻るとひとりぼっちだった。そういう経験は愛と憎しみのようなフィーリングで、そういう気持ちをアルバムに込めたかったのよ。ツアー中に曲のアイディアは頭の中にあった。でも私はそういうアイディアはある日はっきりとして歌詞になるものなのだと思うの。私は日々、自分の生活でどんなことがあったかという情報を収集しておくの。そうすれば、それらの情報が歌詞となって現れたいときに現れるものだと思うわ。情報収集さえしておけば、スタジオに入ったら、ひとつずつ歌詞となって浮かんでくるのよ。
―――あなたにとってライヴとは、どんな魅力がありますか?
アングン:私にとってパフォーマンスはとてもエキサイティングなことよ。例えそれが1万人の前であろうと10人であろうと同じことよ。観客はだれでも、どこの国でも、みんな楽しみたいという気持ちは同じだし、楽しみたくてコンサートに来るのだからね。だからステージに立ったら、観客が求めているものを与えなければならないわ。私はアルバム作りは、想像したこともない様々な国でコンサートを行うためにパスポートを取得するのと同じだと思うの。音楽で、それも自分の音楽を通して、色々な国のことを知るのは信じられないようなことよ。 ライヴの魅力は、何かを与えると即座にその反応が返ってくる。愛そのものなのよ。愛を与えると、愛が返ってくる。コンサートに来る人は簡単にコンサートに来られるわけではないと思うの。観客は楽しみたいと思ってコンサートに来ているのよ。だから観客を失望させることだけはしたくない。言葉では言い表せないけれど、ステージに立つと、観客からは信じられないようなものを与えられる。実際に経験しないと理解できないと思うけれど、観客の笑顔を見ると、自分がステージに立っている意味が明らかになるのよ。