90年代プレイバック
『史上最高タイタニック号出航!』〜メジャーもマイナーも胸を騒がせたヒット作が続々
世紀末とターミネーター
  昔からジェームズ・キャメロンは好きな映画監督なのだ。こちらがスクリーンに期待している以上のスペクタクルをいつだって用意してくれるからである。'09年に劇場公開された『アバター』も、最新のVFXを駆使した3Dのアトラクションには、おお、と仰け反ったのだった。

ここで記憶を掘り起こすのだが、確かジェームズ・キャメロンの作品を初めて観たのはテレビで放映された『ターミネーター』('85年)だったと思う。勿論、ごついアーノルド・シュワルツェネッガー演じるアンドロイドが、人類滅亡の鍵を握ったカップルを容赦なく追いつけていくあれである。しかし当時はまだ子供だったので、正直にいえば、そのサスペンス満載の内容が怖くてたまらない。世間ではともかく、自分の脳内カテゴリーではホラーのところに入れちゃいたいぐらい。『エイリアン2』('86年)も最初はテレビの放映で観たのだけれど、同じく夢に出てきそうなおっかなさがあった。一緒に暮らしていた祖母に「眠れなくなるよ」とたしなめられたにもかかわらず、観て、実際に眠れなくなってしまったのだから馬鹿だ。が、それはつまり、びびりながらも正しく目が離せなくなるほどの興奮を味わっていたということで、そこには間違いなく、怖いもの見たさ以上のスペクタクルが広がっていた。

そして忘れもしない。'91年の夏だ。超ド級の話題作として『ターミネーター2』が劇場公開されたのであった。

美少年と呼ぶに相応しいジョン・コナー(エドワード・ファーロング)が、新型のターミネーターであるT-1000(ロバート・パトリック)に命を狙われ、肉体をビルド・アップしたサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が登場し、かつての宿敵であるT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)がショットガンをぶっ放す。当時、T-1000がメタリックに液状化するCGのエフェクトは大変なサプライズであったし、スケールの大きな爆破シーンとアクションにはひたすら息を呑んだ。序盤におけるオートバイとトラックのチェイスから溶鉱炉の終盤戦までクライマックスが目白押し。あの有名なテーマ曲は勿論、ガンズ・アンド・ローゼズの「ユー・クッド・ビー・マイン」や、一世を風靡した「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー!」の決め台詞には、とにかく胸が躍ったろう。

物語の結末には涙せざるをえない。が、同時にやっぱり恐ろしくもあった。けれども、その恐ろしさというのは、必ずしも自分の脳内カテゴリーでホラーのところに入れちゃいたいようなものではなかった。幼心に『ターミネーター』や『エイリアン2』を観た時とは少々違う。だってもう高校生になっていたもんね。じゃあ何が怖かったんだよ、ということになる。おそらくは20世紀最後のディケイドが遂にやって来たことの不安が背景にあった。世紀末、世界の終わり、終末感。圧倒的なエンターテイメントを達成しつつ、原題に付けられた「Judgment Day(審判の日)」が指し示している通り、『ターミネーター2』には、90年代ならではの危機感がある種のリアリティとしてたっぷり含まされていたのである。
インディペンデントからワールドワイドへ
  個人的な話になるのだったが、90年代の半ば、大学生の時分に映画を撮っていた。とはいっても、アルバイトの金で買ったフィルムを手作業で切ったり貼ったりする程度の自主制作である。当然、しょぼい作品にしかならないのだけれど、当時はまだ80年代からのミニシアター(単館)系のブームが続いていて、もしかして機会さえあれば自分の才能が一気に認められたりするのでは、と淡い期待を抱き、せっせと脚本を書いていたのだった。今から思えば、顔から火が出そうなぐらい恥ずかしい内容の脚本を、だ。しかしまあ、いつの時代だってどこにでも夢見がちな若者はいるのだし、その自信のほとんどは決して他人事ではないのだから仕方がない。

それにしてもクエンティン・タランティーノの活躍は非常に刺激的であった。インディペンデントのシーンから出発し、『レザボア・ドッグス』('92年)と『パルプ・フィクション』('94年)の2本でサブ・カルチャー界の寵児となった彼の影響は、事実、計り知れないほどだったのである。ほら、『パルプ・フィクション』というかユマ・サーマンのポスターを部屋に貼って同じジャケットのサウンド・トラックを愛聴してた知り合いとか当時よくいたでしょう。低予算、B級、オタク的とされながら、洒落っ気のある台詞回しやスタイリッシュなカメラ・ワーク、構成の凝った展開には、いや確かに新鮮な驚きがあったのだった。一方で、脚本を担当した『トゥルー・ロマンス』('93年)や原案を務めた『ナチュラル・ボーン・キラーズ』('94年)も話題となり、タランティーノは90年代前半の映画界に大きな足跡を残したのである。

そしてタランティーノときたら、盟友のロバート・ロドリゲスだろう。インディペンデントで作られた『エル・マリアッチ』('92年)はビデオを擦り切れるほど観たし、予算が大幅にアップした『デスペラード』('95年)のアントニオ・バンデラスには野郎がうっとりするような色気があった。また『恋する惑星』('95年)がタランティーノに絶賛されたウォン・カーウァイも忘れてはなるまい。『欲望の翼』('92年)で一部のファンから注目を集めてはいたが、『恋する惑星』をヒットさせ、俳優の金城武や歌手のフェイ・ウォン、撮影監督であるクリストファー・ドイルの名も、ここ日本で一気に知れ渡った。

同時代の映画監督としてはフランスからマチュー・カソヴィッツが出た。とりわけ『憎しみ』('96年)は、主役を張ったヴァンサン・カッセルの出世作でもあり、モノクロームの中に映し出されたストリートの暗い青春に90年代の空気が刻印されている。さて、ここでもう一人。日本人の映画監督を挙げるとすれば、岩井俊二になるだろうか。元々はミュージック・ビデオの出身であって、『FRIED DRAGON FISH』('93年)や『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』('93年)のテレビ・ドラマを経、その名を知られていき、1時間に満たない短編の『undo』('94年)で初の劇場作品を手掛けた後、『Love Letter』('95年)や『スワロウテイル』('96年)のヒットを得て、現代を代表する映画監督になったのは周知の通り。深夜に放送された『FRIED DRAGON FISH』('93年)は偶々リアル・タイムで観た。そういえば殺し屋といったモチーフには、意外にも上記してきた監督たちの初期作と通じるものがあった。
タイタニックという金字塔
 黙示録的に世紀末を暗示したかのような『ターミネーター2』のヒットが90年代の前半における大きなトピックだったとしたら、90年代の後半に大きなトピックとして記憶されるべきなのは『タイタニック』('97年)だろう。要するに、再びジェームズ・キャメロンだ。

過去に『アビス』('90年)で海洋のロマンを手掛けたことのあったジェームズ・キャメロンであるが、どうしたってSFやアクションのイメージが強い。いや確かに『トゥルーライズ』('94年)は、エイリアンもターミネーターも登場しない現代劇であり、家族とコメディの要素を前面に出した内容であったものの、最大のフックは、やはりスクリーン一杯に展開されるアクションであって、アーノルド・シュワルツェネッガー扮する主人公はまたもや世界の命運を握らされてしまう。そのキャメロンが、である。実在した事故をベースにラヴ・ロマンスを手掛けようというのだから、ええぇ地味じゃない、と事前の情報を知った段階では思うより他なかった。しかしどうだ。蓋を開けてみれば、いつものようにこちらがスクリーンに期待している以上のスペクタクルが存分に用意されていたのだった。

一般的に、セリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」にぴったりなムードでジャック(レオナルド・ディカプリオ)がローズ(ケイト・ウィンスレット)を背中から支えるあのポーズこそが、『タイタニック』を『タイタニック』たらしめているのだし、恋人同士で一緒に観たならお互いの愛情を確認したくなっちゃうよね、という場面が盛り沢山ではある。しかし恋愛とは縁遠い人間だって終盤の展開には手に汗握る。タイタニック号が沈み行く中で演奏を止めない楽団の姿を感動的として挙げる人も多い。とにかく、3時間強の長丁場にこれでもかのエンターテイメントを盛り込み、最後にはちゃんとカタルシスがやって来るあたり、さすがキャメロンの手腕が発揮されているのだから見事だというしかない。
最終的に『タイタニック』は全世界での興行収入ナンバーワンを達成する。20世紀最大の成果として、記憶に残り、記録に残ることとなる。そして数十年後、『タイタニック』の興行成績を抜き去ったのは同じくジェームズ・キャメロンが監督した『アバター』であった。
文/森田真功(1974年生まれ)
90年代に放送開始された主なテレビ・アニメ(国内・地上波のみ)
順位 作品名 配給収入(単位:百万円) 公開年月日
01 タイタニック 16,000 1997年12月20日
02 アルマゲドン 8,350 1998年12月12日
03 ジュラシック・パーク 8,300 1993年7月17日
04 スター・ウォーズ エピソード1
ファントム・メナス
7,800 1999年7月10日
05 インデペンデンス・デイ 6,650 1996年12月7日
06 ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク 5,800 1997年7月12日
07 ターミネーター2 5,750 1991年8月24日
08 バック・トゥ・ザ・フューチャー2 5,530 1989年12月9日
09 マトリックス 5,000 1999年9月11日
10 ダイハード3 4,800 1995年7月1日
11 バック・トゥ・ザ・フューチャー3 4,750 1990年7月6日
12 ディープ・インパクト 4,720 1998年6月20日
13 スピード 4,500 1994年12月3日
14 シックス・センス 4,300 1999年10月30日
15 ボディガード 4,100 1992年12月5日
16 クリフハンガー 4,000 1994年1月
17 フォレストガンプ 一期一会 3,870 1995年2月18日
18 ミッション・インポッシブル 3,600 1996年7月13日
19 トゥルーライズ 3,500 1994年9月10日
20 メン・イン・ブラック 3,500 1997年12月6日
21 ホーム・アローン 3,400 1991年6月22日
22 ダイハード2 3,200 1990年9月21日
23 プリティ・ウーマン 3,100 1990年12月14日
24 GODZILLA 3,000 1998年7月11日
25 ゴースト/ニューヨークの幻 2,800 1990年9月28日
26 セブン 2,650 1996年1月27日
27 ホーム・アローン2 2,500 1993年12月19日
28 アラジン 2,500 1993年8月7日
29 トータル・リコール 2,400 1990年12月1日
30 プライベート・ライアン 2,400 1998年9月26日
31 フック 2,330 1992年6月20日
32 マディソン群の橋 2,300 1995年9月1日
33 ツイスター 2,300 1996年7月6日
34 逃亡者 2,250 1993年9月11日
35 ウォーターワールド 2,100 1995年8月26日
36 シンドラーのリスト 2,050 1994年2月26日
37 ライオンキング 2,000 1994年7月23日
38 アポロ13 2,000 1995年7月22日
39 スピード2 2,000 1997年8月16日
40 エアフォース・ワン 2,000 1997年11月29日
41 エイリアン3 1,950 1992年8月22日
42 バットマン 1,910 1989年12月2日
43 氷の微笑 1,900 1992年6月6日
44 マスク 1,800 1995年2月25日
45 ハムナプトラ 失われた砂漠の都 1,800 1999年6月26日
46 ゴーストバスターズ2 1,750 1989年11月25日
47 アイズ・ワイド・シャット 1,750 1999年7月31日
48 JFK 1,700 1992年3月21日
49 パーフェクトワールド 1,700 1993年12月11日
50 イレイザー 1,700 1996年8月3日
51 フィフス・エレメント 1,700 1997年9月13日
52 シティ・オブ・エンジェル 1,700 1998年9月12日
53 仮面の男 1,620 1998年8月8日
54 美女と野獣 1,600 1992年9月12日
55 ミセスダウト 1,600 1994年4月16日
56 セブン・イヤーズ・イン・チベット 1,550 1997年12月13日
57 ダンス・ウィズ・ウルブス 1,500 1991年5月18日
58 スリーパーズ 1,500 1997年4月12日
59 7月4日に生まれて 1,475 1990年2月17日
60 デイズ・オブ・サンダー 1,410 1990年6月29日
61 メジャーリーグ2 1,400 1994年6月11日
62 ザ・ロック 1,400 1996年9月14日
63 身代金 1,400 1997年2月15日
64 ジョーブラックをよろしく 1,400 1998年12月19日
65 幸福の条件 1,360 1993年5月22日
66 グレムリン2 新種誕生 1,350 1990年8月3日
67 めぐり逢えたら 1,300 1993年12月11日
68 アウトブレイク 1,300 1995年4月29日
69 デビル 1,300 1997年4月5日
70 デイライト 1,290 1996年12月21日
71 ゴッドファーザー PARTIII 1,270 1991年3月9日
72 ベイブ 1,250 1996年3月9日
73 パトリオット・ゲーム 1,200 1992年8月1日
74 ラスト・アクション・ヒーロー 1,200 1993年8月28日
75 ノートルダムの鐘 1,200 1996年8月24日
76 リーサル・ウェポン4 1,200 1998年8月1日
77 ラッシュ・アワー 1,200 1999年1月23日
78 恋に落ちたシェイクスピア 1,200 1995年8月26日
79 エリザベス 1,200 1999年8月28日
80 フィールド・オブ・ドリームス 1,150 1990年3月24日
81 フェイス/オフ 1,150 1998年2月28日
82 ユー・ガット・メール 1,150 1999年2月11日
83 ビーン 1,150 1998年3月21日
84 バグズ・ライフ 1,150 1999年3月6日
85 バックドラフト 1,130 1991年7月6日
86 永遠に美しく… 1,100 1992年12月12日
87 ジュマンジ 1,100 1996年3月20日
88 12モンキーズ 1,100 1996年6月29日
89 フリントストーン モダン石器時代 1,100 1994年7月16日
90 ジャッカル 1,100 1998年6月20日
91 ロッキー5/最後のドラマ 1,055 1990年12月7日
92 ネバーエンディング・ストーリー 第2章 1,050 1990年12月14日
93 フランケンシュタイン 1,050 1995年1月21日
94 ノッティングヒルの恋人 1,050 1999年9月4日
95 ホット・ショット 1,020 1991年12月14日
96 ロボコップ2 1,010 1990年7月14日
97 レッド・オクトーバーを追え! 1,000 1990年7月13日
98 101 1,000 1997年3月8日
99 エイリアン4 1,000 1998年4月25日
100 007 ゴールデン・アイ 1,000 1995年12月16日

90年代<邦画>配収ランキングTOP10
順位 作品名 配給収入(単位:百万円) 公開年月日
01 もののけ姫 11,300 1997年7月12日
02 天と地と 5,050 1990年6月23日
03 踊る大捜査線 THE MOVIE 5,000 1998年10月31日
04 劇場版ポケットモンスター
ミュウツーの逆襲
4,150 1998年7月18日
05 劇場版ポケットモンスター
幻のポケモン ルギア爆誕
3,500 1999年7月17日
06 紅の豚 2,800 1992年7月18日
07 平成狸合戦ぽんぽこ 2,630 1994年7月16日
08 タスマニア物語 2,520 1990年7月21日
09 失楽園 2,300 1997年5月10日
10 ゴジラVSモスラ 2,220 1992年12月12日

ランキング作成:安川達也
配収参考データ:日本映画産業統計
配給収入が同額の場合は公開順にランキング
1989年12月公開映画は「1990年お正月映画」として対象