80年代プレイバック 7
1987『トレンディドラマ』〜男女7人の合コンから始まった80sドラマの新時代!〜
日本中が浮き足だった80s後半にブラウン管を賑わせたトレンディドラマ。20年後の今、コントのように映ってしまうのはナゼ!?
マイケル・ジャクソンも巻き込む“男女7人”シリーズに乾杯!……ゴボぉ!
 
  トレンディドラマ。TRENDY DRAMA……限りなく透明に近い80sな響き。なんとなくクリスタルなこの和製英語な言葉に身体が即応してしまうのは、アラフォー世代=80sリアルタイマーなら仕方がない。それは、今から23年前の1986年夏、金曜日夜9時、ブラウン管から突然やってきた。

  華やかな打ち上げ花火のオープニング。石井明美が歌う主題歌「CHA-CHA-CHA」に乗ってスタッフテロップに挿入される映像は、東京ウォーターフロントに架かる橋、ランプが眩しい首都高速、東京マリオンの人形時計、蛍光色に浮かび上がる人形時計……。のちにトレンディドラマの先がけと言われるTBS系ドラマ『男女7人夏物語』だ。東京を舞台に合コンで知りあった独身男女7人をお洒落に描いた群像恋愛物語。このドラマの果たした役割は徹底的な“時代の先取り”だった。第1話、軽快なシャカタクのBGMのなかで展開された合コンシーンで登場するブーツ型グラスはその象徴。足先部分を上にして口に持ってくると、飲み口から空気が入ってビールが逆流し、ゴボぉ! そのことを知っている良介(明石家さんま)のスマートな飲み方がもちろんカッコいいのだが、巷では思いっきりビールを顔にかぶる貞九郎(片岡鶴太郎)の飲み方が流行った。僕も高校生ながら、もちろん真似た(時効にしてください)。フリーライターの桃子(大竹しのぶ)が、マイケル・ジャクソンのツアーに同行するために良介と分かれ、単身アメリカに渡る最終回は視聴率31.7%を記録した(80年代ドラマ歴代7位)。

  その1年後、1987年にメンバー4人が入れ替わった『男女7人秋物語』がスタート。舞台は神奈川県に南下、完成したばかりの川崎駅地下街アゼリアが一躍お洒落スポットに躍り出た。放送第1回は1987年10月9日。奇しくもマイケル・ジャクソンの単独初来日旋風の真っ只中だった。「マイケルは来日したのに、どうして彼の同行取材にいった桃子ちゃんは日本に帰って来ないだ!」の貞九郎が良介に迫る台詞は、リアル過ぎた。あまりにもタイミングが良すぎて“夏物語”から決まっていた必然か、たまたまの偶然が重なった奇跡の時事演出かはいまだに不明だ。マイケルと言えば、僕は横浜スタジムの外で漏れてくる歌声を聴いていた(懐かしい)。ドラマの舞台にもなった川崎に出現したシネコン=チネチッタ川崎は僕の高校時代のデートスポットのひとつにもあった。カップルデートで『私をスキーに連れてって』を観た場所だ(ったはず)。美樹(岩崎ひろみ)の“別れの敬礼ポーズ”や、クリスマスの川崎街路を良介&桃子が歩いた最終回は、80年代ドラマ歴代3位となる視聴率36.6%を記録した。このシリーズで最重要アイテムだった通信手段が原因となる連絡が取れないすれ違いは携帯常備の今では絶対に演出不可能だろう。銀行ATMの現金引き出し可能時間PM5:00をめぐる良介&桃子の有名な攻防シーンも今では滑稽に映ってしまうが、それこそが時代の最先端を求めたトレンディドラマの性というものだろう。
タカ&ユージの“あぶデガ”はじつは隠れトレンディドラマだった!?
 
  “男女7人”シリーズと併行してひとつの刑事ドラマが1986年10月に始まった。横浜を舞台に、タカ(舘ひろし)&ユージ(柴田恭平)の活躍をスタイリッシュに描いた日本テレビ系『あぶない刑事(デカ)』シリーズだ。『太陽にほえろ!』『西武警察』などの伝統の裕次郎直系の硬派刑事アクション路線を残しながらも、タカ&ユージのアドリブを多く含んだコミカル軟派路線が圧倒的に支持されたのだ。バブル時代に突入するこの時期、どこか浮かれ気分だったあの頃、ハードボイルドの需要は皆無に等しかったからだ。カッコいいのに、カッわるいという新しい刑事ドラマのスタイルは、何の抵抗もなくすんなりと時代と呼応した。

  劇中で横浜港署は本牧(70sにゴールデンカップス、90sにクレイジーケンバンドを生んだ街)にある設定だったので、この近辺で集中的に撮影が行われていた。多感な10代をこの街で暮らした僕は、撮影現場に出くわすことが多かった。米軍住宅跡地(現本牧山頂公演)では捕りものカーアクションとよく遭遇した。高校登校時の国鉄(現JR)山手駅に向かう途中で、バンパーにウンコ座りしたタカさんと目が合った時は正直驚いた。思わず勢いで「おはようございます!」と声をかけたら、右手の拳銃(撮影用)をかざして「おう、行ってらっしゃい!」と、あのスマイル。カッコいい〜! 忘れられない想い出だが、カオル(浅野温子)にサインをもらったことが一番嬉しかった。でも最多遭遇はなぜかナカさん(ベンガル)だった……。

  “あぶデカ”はトレンディドラマではない?それはあのドラマが『太陽にほえろ!』と同様に独特のザラついたフィルムの質感を大事にしたことと無縁ではない。例えば、明るい照明下のビデオ撮影での浅野温子の七変化ファッションや仲村トオルの「せんぱ〜い」の場面を想像してみてほしい……ホラ、“80sトレンディドラマ”と違和感がないでしょ!?この“あぶデカ”路線をさらにスタイリッシュ、とことんファッショナブルにバージョンアップした刑事ドラマが、1988年1月にフジテレビで始まった。
バブリーな日本中がアクアマリンな“W浅野”を抱きしめた!
 

  久保田利伸のSuch a Funky Thangな主題歌「You were mine」に乗って、合成画像ビリヤードボールに追いかけられながら渋谷の街を陣内孝則、柳葉敏郎、三上博史らが駆け抜ける新しい時代の到来を告げる衝撃のオープニング。道玄坂署を舞台に、勤務する刑事たちの活躍を陽気に描いたフジテレビ系“月9”ドラマのパイオニア『君の瞳をタイホする!』だ。

●主要キャストは美男美女の4人以上で20代が基本
●さらに主要キャストは常に流行着を纏う!
●職業は横文字系、もしくは当時の最先端!
●軽快台詞によるコメディタッチの恋愛物語がベース
●舞台は東京都心でちょっと豪華な部屋に一人で住む
●男性よりも女性視聴者を味方にすること。
●原作や脚本は人気漫画&小説ではなくオリジナル!
●暗いフイルムではなく、明るいビデオ撮影。

  という、80sトレンディドラマ原則(筆者独断)をほぼクリアした“君の瞳”。だが、ひとつだけ弱点をあげるならば、“犯人逮捕”という使命的な束縛だった。この捕りもの劇がどうしても、お洒落な部分の足かせとなってしまった感は否めない。その職業の呼称はあくまでも「刑事」。決して横文字ではなかった。しかし、半年後……。“あぶデカ”でコケティッシュな魅力を振りまいた浅野温子と、“君の瞳”でワケありのいい女を演じた浅野温子が、80sトレンディドラマの金字塔を作り上げた。

  1988年7月。浅野温子&浅野ゆう子の“W浅野”を生み出した『抱きしめたい!』が、木曜10時、やはりフジテレビ系で始まった。流行の最先端を行く人気スタイリスト・麻子(温子)が、25年来友人の夏子(ゆう子)とその夫でかつてのちょいワル恋人・圭介(岩城滉一)との間で揺れ動く姿を、セーター前結びのファッション誌副編集長・二宮(石田純一)や、まだ“おくりびと”のかけらもない新人ヘアメイク山下(本木雅弘)を交えながら最強の恋愛ドラマを展開した。さらに、このドラマ、女同士の友情をメインテーマにしたのが正解だった。“男女7人”“あぶデカ”“君の瞳”ももちろん女性視聴者から支持されたが、いかんせん主人公は男だった。『抱きしめたい!』では、女性同士の本音やワガママを、“W浅野”が時にスッピンになりながらセリフとアドリブを行き来し、これが女性視聴者に圧倒的に支持されたのだ。手が届きそうで届かないぐらいの程良く洗練されたライフスタイルこそが、80s女性達の“トレンディ”だったのだ。“女性を制するモノは、流行をも制す”は、昔も今も変わらなぬ合言葉だ。それにしてもここで登場する最新通信機器がスゴイ! ショルダーバック式の携帯電話は、やはり携帯と言うには無理がある大きさ。今の視点で観ればコントのようにも映る小道具だが、あの頃は、それが最先端、TRENDYだったのだから、やはりトレンディドラマは残酷だ。

  ちなみにこの2人がデッキチェアで寝そべりながらTシャツから水着に着がえるオープニングは僕ら男も楽しませてくれた。ブラウン管の前では浅野ゆう子のナイスバディに釘付けとなった。やっぱり温子より、断然ゆう子だよなぁ(異議認めません、記名原稿ですから)。  さて、91年。今でも“トレンディドラマの代名詞”と語られる『東京ラブストーリー』が放送された。しかし、もうこのドラマは“80sトレンディドラマ”とは一線を画していた。当時のいちばん人気の俳優たちがこぞって出演することは“トレンディ”だったかもしれないが、漫画原作、地が足に着いた演技、リアルな台詞は、その反動からなのだろうか、僕らの知っている“80sトレンディドラマ”ではなかった……。バブルがはじけ、シャンペングラスの泡をはじけた90年代はじめに、ハートカクテルな酔いから覚めたとき、時代は少しだけ現実志向に戻ろうとしていたのだ。
文/油納将志
80sトレンディドラマ主な作品
作品名 主な出演者 放送局 放送年 主題歌」歌手
男女7人夏物語 明石家さんま、
大竹しのぶ
TBS 1986年 「CHA-CHA-CHA」
石井明美
あぶない刑事(デカ) 舘ひろし、
柴田恭兵
日本テレビ 1986年

「冷たい太陽」
舘ひろし
エンディングテーマ

男女7人秋物語 明石家さんま、
大竹しのぶ
TBS 1987年 「SHOW ME」
森川由加里
君の瞳をタイホする! 陣内孝則、
浅野ゆう子
フジテレビ 1988年 「You were mine」
久保田利伸
抱きしめたい! 浅野温子、
浅野優子
フジテレビ 1988年 「アクアマリンのままでいて」
カルロス・トシキ&オメガトライブ
君が嘘をついた 三上博史、
麻生祐未
フジテレビ 1988年  「GET CRAZY」
プリンセス プリンセス
ニューヨーク恋物語 田村正和、
岸本加世子
フジテレビ 1988年 「リバーサイドホテル」
井上陽水
君の瞳に恋してる! 中山美穂、
菊池桃子
フジテレビ 1989年 「どうしようもなく恋愛」
村井麻里子
ハートに火をつけて! 柳葉敏郎、
浅野ゆう子
フジテレビ 1989年 「Groove a Go Go」
杏里
愛しあってるかい! 陣内孝則、
小泉今日子
フジテレビ 1989年  「学園天国」
小泉今日子
世界で一番君が好き  三上博史、
浅野温子
フジテレビ 1990年 「今すぐKiss Me」
LINDBERG
恋のパラダイス 浅野ゆう子、
石田純一
フジテレビ 1990年 「JEROUSYを眠らせて」
氷室京介
キモチいい恋したい! 安田成美、
吉田栄作
フジテレビ 1990年 「P.S. I LOVE YOU」
ピンクサファイア
筆者調べ