80年代プレイバック 5
1985年『女性アイドル』〜なんてったって80年代!
聖子ちゃん、キョンキョン、おニャン子クラブまで百花繚乱のアイドル時代。80年代の真ん中85年、真ん中ボッパツ、3大事件ニャンニャン!?
百恵から聖子へ。華やかでぶりっ子なアイドル時代がスタート!
 
  70年代の国民的スーパーアイドル、山口百恵が20歳の引退コンサートとなった日本武道館ステージにマイクを置き、“さよならの向こう側”に旅立っていった1980年。そのバトンを受け継ぐように歌謡界に登場したのが、18歳の松田聖子だった。どこかに“陰”が見え隠れした百恵ちゃんに対して、聖子ちゃんはまぶしい ほど“陽”を感じる新時代のアイドルだった。カメラ目線のぶりっ子はとことん僕ら(視聴者)に甘えんぼうで、涙を流さないで「お母さ〜〜ん」と泣けるほどズバ抜けたハートを持ったまさに80年型アイドルだった。特大ブレイクとなった2ndシングル「青い珊瑚礁」(1980年7月1日発売)は、TBS系『ザ・ベストテン』で1980年9月18日放送回から3週連続で1位を記録し、華やかなセットの前で、♪あ〜〜〜ワタシの恋は〜〜と非凡な歌唱力もチラリとみせ、僕らをブラウン管に釘付けにさせた。次の3rdシングル「風は秋色」(同年10月1日発売)から12ndシングル「秘密の花園」(1983年2月3日発売)まで10曲連続オリコン1位は、ピンク・レディーの記録を抜き金字塔を打ち立てた(1988年まで24曲連続1位の自己記録更新)。その聖子ちゃんの影響力は音楽にとどまらず社会現象にまで発展。上の毛より下の毛を長くした段カット&耳を完全に隠したサイドを後ろに巻き上げる、いわゆる“聖子ちゃんカット”は大流行。僕の通っていた小学校でも、兄の中学校でも“聖子ちゃんカット禁止令”が出されたほどだった。小泉今日子、中森明菜、松本伊代、堀ちえみ、石川秀美、早見優……俗にいう“花の82年組”も、多分に漏れずデビュー時はほぼ聖子ちゃんカットを踏襲していた。
土曜夜の深夜放送から生まれた女子大生ブーム。
 
  1984年秋。“花の82年組”のひとりで、ほんの少し前まで♪伊代はまだ16だぁから〜と笑顔を振りまいていた松本伊代が女子大生になり、フジテレビ系深夜番組の司会をつとめることになった。前年からスタートしていた土曜夜の『オールナイトフジ』だ。素人の現役女子大生を突撃レポーター、ひなだんコメンテーターなどに起用。ラジオ『オールナイトニッポン』のテレビ版ともいえる風俗的サブカルチャーを発信し続け、“女子大生ブーム”の火付け役となった伝説の深夜バラエティだ。すでに中学生になった僕をブラウン管の前で誘惑、番組終了時間未定というのもこの生放送番組への興味もかき立てた(春夏期は実際に放送終了時は外が明るくなっていた)。出演していた女子大生たちは“オールナイターズ”と呼ばれ、ここから選抜された人気メンバーが“おかわりシスターズ”としてレコードデビューするほどの人気だった。司会の伊代ちゃんが、番組内で自伝書を宣伝した際に「まだ読んでないんですけど」と後生に語り継がれる名言を発したのもこの生放送だった。そして、日本歌謡界・芸能界を揺るがす企画が『オールナイトフジ』から派生する。それが、1985年オンエアの『オールナイトフジ女子高生スペシャル』、そう、『夕やけニャンニャン』の前進だ。
聖輝(せいき)のニャンニャン。夕方5時のニャンニャン。
 

  1985年。科学万博つくばが開催され、阪神タイガースが優勝し、世界中が♪ウィーアーザワールドだったこの80年代のど真ん中、折り返しの年に、盛況のアイドルシーンにも大きな変化がおこった。俗に言う(たぶん僕しか言っていない)“1985年アイドル3大事件”だ。


  まず事件1。1980年のデビュー以来、数々の記録を塗り替え、センセーショナルな話題を振りまきながらシーンのフロントを走り続けてきた松田聖子が、多くのアイドルたちの先陣を切って、あっさりと俳優の神田正輝と結婚してしまったのだ。「未来の花嫁」(名曲です)を歌っていた聖子ちゃんがついに本当に人妻になってしまったのだから、シブがき隊じゃないけれど処女的衝撃(ヴァージンショック!)。この時、ひとつの時代の終わりを実感したのはきっと僕だけではなかったはずだが、今でもときおり彼女の事実上の独身ラストシングル「ボーイの季節」を耳にすると、“別れ”にも“旅立ち”にも似た、凛とした独特なあの頃の空気を想い出してしまう。6月の目黒サレジオ教会での“聖輝(せいき)の結婚式“から1か月後。聖子のバトンは意外なグループへと引き継がれていく……。

  それが事件2。1985年7月、おニャン子クラブが「セーラ服を脱がさないで」でデビューした。夕方5時の生放送『夕やけニャンニャン』から派生した“スーパー女子高生グループ”だった。自分たちと同世代の素人女子高生の活躍に日本中の男子中高生が熱狂した。もちろん僕もそのひとり。中学3年生になり自動的に帰宅部となった僕は、あの頃いつも帰宅路を急いでいた。もちろん“夕ニャン”を観るためだ。わが家にはまだビデオデッキもなく、録画という選択肢は皆無。観たいテレビは、ブラウン管の前で観るしかないのだ!! その日が水曜日ならなおさら急ぎ足、というか猛ダッシュ! 「週の真ん中水曜日、真ん中モッコリ、夕やけニャンニャン」。チェリーボーイを震わすこのオープニングを聞き逃すわけにはいかないからだ!!! 会員ナンバー4番の新田恵理や、12番の河合その子がその言葉を電波に乗せたもんなら、それはもう大騒ぎ。木曜朝の登校時はモッコリ話一色だった。当時、おニャン子クラブの会員番号と名前は僕の周りでは誰でも言えたが、こニャン子クラブの会員証を持っているヤツはヒーローだったし、実際にスタジオ生放送で観覧したヤツは別格扱いだった。
プロもシロウトも“なんてったってアイドル”。
 
  おニャン子クラブは空前の“女子高生ブーム”を巻き起こした。現在のメディアでは聖子からおニャン子までを“80年代アイドル”と一緒くたにしてしまうことが多いが、じつは僕らは無意識にアイドルを二つに線引きしていた気がする。つまりプロか、シロウトかだ。その違いはブラウン管の前に座っていれば一目瞭然だった。常に満面な笑みで白い歯を浮かべカメラ目線をおくるプロ達と、喜怒哀楽にまかせて目が泳いでいることもおかまいなしのシロウトちゃん。視聴者をよろこばせることを最優先する前者と、自分たちが楽しめれば視聴者も嬉しいはずと考えるお茶目な後者。どちらが良いか悪いかではなく、どっちが好きで嫌いかの問題だった。

  そして最後に事件3。1985年11月。小泉今日子がシングル「なんてったってアイドル」を発表した。♪キュートなヒップにズッキンドッキン以上の衝撃だった。花の82年デビュー組の人気筆頭だったキョンキョンが自らを絶対アイドルと称し、“清く正しく美しく”を逆手に取り開きなおったことは、ある意味でそのプライドの示唆でもあったはずだ。「なんてったってアイドル」は、『ザ・ベストテン』で約1年ぶりに首位を獲得、シングル売り上げチャートでも1位に輝いた。花の82年組の双璧のひとり、中森明菜はこの年の暮れにレコード大賞を2年連続受賞し、アイドルからかつての山口百恵のように“歌謡界の女王“の道を歩み始めた。

  そして1985年の暮れ。王道アイドルたちの進化を横目に、レコードショップ店頭には新田恵利の「冬のオペラグラス」が一斉に面出し、平積みされた。僕もこのドーナツ盤をお年玉で迷わず買った。しばらく、おニャン子クラブとその派生グループは文字どおりヒットチャートを席巻。本格的に新しいアイドル時代は、80年代後半まで続くことになる。
文/安川達也
80年代女性アイドル80組デビュー曲一覧
アーティスト 発売日 デビュー曲タイトル
松田聖子 1980.04.01 裸足の季節
河合奈保子 1980.06.01 大きな森の小さなお家
柏原よしえ 1980.06.01 No.1
甲斐智恵美 1980.06.21 スタア
浜田珠里 1980.06.21 さよなら好き
三原順子 1980.09.21 セクシー・ナイト
伊藤つかさ 1981.09.21 少女人形
松本伊代 1981.10.21

センチメンタル・ジャーニー

薬師丸ひろ子 1981.11.21

セーラ服と機関銃

北原佐和子 1982.03.19

マイ・ボーイフレンド

新井薫子 1982.03.21

虹いろの瞳

堀ちえみ 1982.03.21

潮風の少女

小泉今日子 1982.03.21

私の16才

石川秀美 1982.04.21

妖精時代

早見優 1982.04.21

急いで!初恋

真鍋ちえみ 1982.05.01

ねらわれた少女

中森明菜 1982.05.21

スローモーション

つちやかおり 1982.06.21

恋と涙の17才

北原佐和子 1982.03.19

マイ・ボーイフレンド

原田知世 1982.07.05

悲しいくらいほんとの話

坂上とし恵 1982.07.21

き・い・てMY LOVE

岩井小百合 1983.01.12

ドリーム・ドリーム・ドリーム

武田久美子 1983.01.25

噂になってもいい

大沢逸見 1983.02.21

ジェームス・ディーンみたいな女の子

伊藤麻衣子 1983.02.21

微熱かナ

桑田靖子 1983.03.21

脱・プラトニック

小出広美 1983.03.21

タブー

森尾由美 1983.05.05

お・ね・が・い

冨田靖子 1983.11.21

オレンジ色の絵葉書

渡辺典子 1984.01.01

花の色/少年ケニヤ

渡辺桂子 1984.03.21

H-i-r-o-s-h-i

宇沙美ゆかり 1984.03.21

蒼い多感期

長山洋子 1984.04.01

春はSA・RA・SA・RA

荻野目洋子 1984.04.03

未来航海-Sailing-

岡田有希子 1984.04.21

ファースト・デイト

菊地桃子 1984.04.21

青春のいじわる

少女隊 1984.08.28

Forever

セイントフォー 1984.11.05

不思議 Tokyo シンデレラ

斉藤由貴 1985.02.21

卒業

芳本美代子 1985.03.21

白いバスケット・シューズ

松本典子 1985.03.21

春色のエアメール

本田美奈子 1985.04.21

殺意のバカンス

井森美幸 1985.04.21

瞳の誓い

網浜直子 1985.04.21

竹下涙話(たけしたストーリー)

浅香唯 1985.06.21

夏少女

中山美穂 1985.06.21

「C」

南野陽子 1985.06.23

恥ずかしすぎて

おニャン子クラブ 1985.07.05

セーラー服を脱がさないで

河合その子* 1985.09.01

涙の茉莉花(ジャスミン)LOVE

吉沢秋絵* 1985.11.01

なぜ?の嵐

うしろゆびさされ組* 1985.10.05

うしろゆびさされ組

新田恵利* 1986.01.01

冬のオペラグラス

杉浦幸 1986.01.27

悲しいな

西村知美 1986.03.20

夢色のメッセージ

山瀬まみ 1986.03.21

メロンのためいき

相楽ハル子 1986.05.02

ヴァージン・ハート

国生さゆり* 1986.02.01

バレンタイン・キッス

島田奈美 1986.05.21

ガラスの幻想曲(ファンタジー)

福永恵規* 1986.05.21

風のInvitation

高井麻巳子* 1986.06.25

シンデレラたちへの伝言

藤井一子 1986.07.25

チェック・ポイント

渡辺美奈代* 1986.07.16

瞳に約束

渡辺満里奈* 1986.10.08

深呼吸して

酒井法子 1987.02.05

男のコになりたい

畠田理恵 1987.03.03

ここだけの話ーオフレコー

後藤久美子 1987.03.18

teardrop

ゆうゆ* 1987.03.25

天使のボディガード

立花理佐 1987.04.01

疑問

うしろ髪ひかれ隊* 1987.05.07

時の河を超えて

BaBe 1987.05.21

Give Me Up

伊藤美紀 1987.05.21

小娘ハートブレイク

伊藤智恵理 1987.06.05

パラダイス・ウォーカー

小沢なつき 1987.06.21

追いかけて夏

工藤静香* 1987.08.31

禁断のテレパシー

我妻佳代* 1987.11.21

プライベートはデンジャラス

Wink 1988.05.21

SUGAR BABY LOVE

生稲晃子* 1988.05.21

麦わらでダンス

本田里沙 1988.07.01

Lesson2

斉藤真喜子* 1988.07.21

やりたい放題

田村英里子 1989.03.15

ロコモーション

宮沢りえ 1989.09.15

DREAM RUSH

筆者調べ(独断)

*おニャン子クラブの派生