フージーズの活動休止から5年、ワイクリフ・ジョンはシンガー/ソングライター/ラッパー/プロデューサーして輝かしい成功を収めつつ、型破りな唯我独尊スタイルを飄々と貫いてきた。70年にハイチで生まれ9歳の時にニューヨークに移住した彼は、貧しい移民として育った背景に根差した活動スタンスを確立。それはアウトサイダーとの共感や文化的多様性、と言えるのかもしれない。97年に自らのカリビアン・ルーツを掘り下げたアルバム『ザ・カーニバル』でソロ・デビュー。同時にプロデューサー活動も開始し、デスティニーズ・チャイルドの可能性を一早く認めてバックアップし、10週以上全米1位の座を守ったサンタナの『マリア・マリア』の例を挙げるまでもなく、その手が触れる音全てを黄金に変えてきた。さらに00年に登場したセカンド『エクレフティック』では、愛称の“クレフ”と“eclectic(折衷的)”という言葉を融合したタイトル通りの奔放なサウンドを展開。その後も昨年は新人シティ・ハイをブレイクさせ、ミック・ジャガーのソロ作品に参加し、同時多発テロ事件の被害者支援イベント『アメリカ:トリビュート・トゥ・ヒーローズ』に出演。相変わらずのフットワークの軽さを見せ付けたが、実は9月頭に父の事故死というショッキングな事件に遭遇していたのである。クレフの音楽を覆うスピリチャリティ、メッセージ性、チャリティ活動への情熱……。それらは全て、カトリックの聖職者だった父の「真実を主張する人間であれ」という教えの影響によるものだという。そんな父の突然の死に触発されて彼はサード・アルバム『マスカレード』の制作に取り掛かり、2カ月半で完成。前作で極めた折衷志向から一転、より正統派のヒップホップ・アルバムになる予定だ。ゲストにはシティ・ハイのクローデットや妹のメルキーといったクルーのほか、M.O.P.やトム・ジョーンズ(!)の名も挙がっている。ちなみに現時点で唯一到着している『PJ's』も驚くほどストレートなヒップホップ。“PJ's”とは“プロジェクト(低所得者用の団地)”の略で、少年時代を過ごしたブルックリンのプロジェクトへのオマージュであり、その絶望的な環境から抜け出そうというメッセージを含む曲だ。彼はさらに具体的に、プロダクションの方向性も含めて94〜95年頃のヒップホップに戻ったような作品を作ることで原点を確認したかった、とも発言している。94〜95年と言えば、フージーズとウータン・クランとビギーが相次いでデビュ−し東海岸が勢いを盛りかえした時期。兼ねてから昨今の商業主義や目に余るほどの享楽的なムードに対して警告を発していたクレフ、この新作でヒップホップ・シーン全体に足元を見つめ直すよう訴えているに違いない。