ギターを弾いて歌っているスーンが全てのソング・ライティングも手がけている。プルオーバーのセーターにいつも付けているバッジ「Back To Mono(モノラルに戻ろう)」が、その意気込みを物語る。そう、フィル・スペクターが編み出したロックの「ウォール・オブ・サウンド」の支持者なのだ。「デンマークからニュー・ガレージ・ロックの新星」と銘打ったデビューアルバム『Whip It On』は、「爆音のステレオ録音(モノラル対応)/EXPLOSIVE STEREO(MONO COMPATIBLE)」でレコーディングされており、新世代に向けたデュオ独特の「ウォール・オブ・サウンド」を、どうよとばかりに聴かせる。
デュオは音楽だけでなくカルチャー的にも前時代の影響を受けている。『Whip It On』のパッケージのインスピレーションは、ジャンクなB級映画から得ているし、サウンド・メイクではデンマーク映画における「Dogme95(ドグマ)」からヒントを得た。そのためデビュー・アルバムのレコーディングでは、あらかじめ次のようなルールを作ったのだった。
(1) 曲は全部、同じキーのB♭マイナーでレコーディングする。
(2) 3つのコードしか使わない。
(3) 曲はどれも3分以下におさめる。
(4) ハイハットやライド・シンバルは使わない。
BEAT ON THE ROAD
『Whip It On』の曲のほとんどは次のようにしてできたという。「ドラムマシーンを使って4トラックで仕上げている。大事な点は、すべて思いつくまま自由に創ったということなんだ。ビート・ジェネレーション文学のスタイルさ、ジャック・ケルアックとかね。でも僕はそれをレトロ感覚でやり直したわけじゃない。1つのビートを決めたら3分間流す。その間にギターを弾いて歌って仕上げるんだ。その場の雰囲気が大切なんだよ」
ジャック・ケルアック同様、スーンはこの画期的なアルバムの何曲かをアメリカ放浪中に書き上げた。「1998年にアメリカに行った」とスーン「ニューヨークのヘルズ・キッチンやシアトル沖の小さな島、ラスベガス、ウェスト・ハリウッドの小さなアパートを転々とした。バンドを組もうとメンバーを探してたんだけど、1人も見つからなかった。それでその間、曲作りに専念することにしたんだ」。その時書いた曲のうち、「Bowels Of The Beast」(ラスベガスからインスピレーションを得た)と「Cops On Our Tail」(ロサンゼルス郊外の砂漠をドライブ中の出来事)は、『Whip It On』に収録されている。「行く当てのない落ち着かない気分やアメリカでの経験が原点となっている。目にしたことや行った街や、ある場所特有の雰囲気なんかだよ」
スーンはドイツ国境近くのデンマークの小さな町で育った。初めて聴いたポップ音楽は、母が買ったボブ・ディランの『偉大なる復活/Before The Flood』だった。「母はディランがアコースティックでやってるアルバムだと思ってたんだよね。これがきっかけで僕はディランのアルバムを全部買った。それからマーク・ノップラーとダイアー・ストレイツを聴いて、ギターを弾きたくなったんだ」。スーンはむさぼるように音楽を聴き、「ライブラリーができるほど」のコレクションが出来上がった。ロックのルーツや支流を求めて聴いた初期のガール・グループやバディ・ホリー(サイコなウォール・オブ・ノイズに仕上げたホリーの「Every Day」はザ・レヴォネッツのライヴの定番)から、ソニック・ユースの『デイドリーム・ネイション』(スーンはこれで不協和音にハマった)まで様々である。
もっと先進的な音楽がやりたいというスーンは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドや古典音楽のサウンドが好みというシャリンと意気投合した。ワンス・ワズ&サウナ・レコーディング・スタジオで、二人の言葉によると「ちょっと肩ならししただけ」で、『Whip It On』のレコーディングに取りかかった。コペンハーゲンにあるこのスタジオは元ソニー・スタジオだった。二人は2001年のクリスマスの頃、セッションに使用されていない時期の同スタジオを3週間ほど借り切り、プロダクションまでをすべて二人で片付けてしまったのだ。サンプリングしたドラムやギター、ベースをプロ・ツールで処理して、「オーバーダブは一切なし、全部1回のテイク」とのこと。1回といっても最初のテイクとは限らずに、一番良かったテイクを一曲ずつ、それぞれ1つのグルーヴ感があるように落とし込んだのだ。