スネオヘアー BEST OFFICIAL REVIEW
 スネオヘアー生誕10周年。1999年2月にリリースしたインディーズ・アルバム『SUN!NEO!AIR』──今思えば、何だかよくわからないその名で活動を始めてから丸々1年である。『アイボリー』でメジャーデビューしたのが2002年5月。散々“遅咲き”と言われた31歳の時だから、さかのぼること28歳という一般的には大人と言われる年齢で、ちょっと勇気の要る、ひとりプロジェクトを名乗ることを、渡辺健二その人は選択していた。
 「スネオヘアー?少しくらい変なおちゃらけソングがあったりするんでしょ?」なんて思っている人が未だにおられるかもしれない。断言する。そんな曲は一曲もない。じゃあ、何でそう思われることが想定される名を名乗る必要があったのか。その、「何で?」を何百回も何千回も、この10年間に聞かれまくったはずだ。今では、「古くは中国の…」とか、「歌舞伎からヒントを得て」とか、その名の由来を一流のグズグズな答えで返しているようなのだが、せっかく10周年だし、その答えを含めて原稿を書き進めてみたい。

「変に歳食ってるでしょ? そこでヒネくれても逆に面白くない。僕がラッキーなのは、メロディや本質が実はヒネくれてないところだと思う」

「シーンに対して斜に構えていて、何かけしかけてやろうというようなその姿勢が、ロックでパンクだと思っていたんです。本質を見せずに、どう自分からノックして行くか。正攻法でど真ん中から行く形に何の魅力も感じなかった」

 最初のアンサーはデビュー直後のもの。「名前は超変化球だけれど、音楽はちゃんとど真ん中に投げる」と宣言している。次のアンサーはつい最近のもの。例えば、渡辺健二で投げるボールが、どんなにど真ん中でも果たしてそれが有効なのか…。つまり、10年前に、直感か戦略かはわからないが、自身の紡ぐメロディやリリックに対して、かなり自信を持ってメジャーに戦いを挑んでいたことを振り返る。ただ、オリジナル・ラヴやコーネリアスなど、そこに何らかの具体的な意味合いやカッコ良さがあってはいけなかった。僕はスネオヘアーとビートたけし、ミュージシャンで言えば泉谷しげるが、よくダブる。はちゃめちゃで、時に何を言ってるのかよくわからない暴走キャラを露出するが、ど真ん中がブレていないから、彼らはどんな時でもとても素敵でカッコいい。スネオヘアーは10年かかったし、偉大な3人の域に達するのは、まだまだ時間がかかるとは思うのだが…。
 さて、スネオヘアーにとって初のベストアルバム『ベスト』である。通常盤は2枚組・全30曲。初回生産限定盤は、彼が特に思い入れのある曲をチョイスしたボーナスディスク付3枚組・全38曲と圧倒的なボリュームであり、その内容は、とんでもないなぁというのが僕の正直な感想だ。何がとんでもないかと言うと、収録されたすべての曲のメロディやリリックが、やはりとてもいいのだ。『訳も知らないで』『ウグイス』『ワルツ』『やさしいうた』等々名曲の数々。実にいいベスト盤だ。シングルの表題曲や、アルバムのリードトラックなどを中心に選曲されているからそうなる可能性は高いのだが──いや、待て。そんなことはない。それは違うんじゃないか。例えば僕に、「スネオヘアーの『ベスト』に収録する30曲を選びなさい」と言われ、しかも、「本物の『ベスト』収録曲とダブっちゃいけない。シングル曲もダメだよ」と難題を突きつけられたとしても、僕は、これはとんでもないなぁと思わせる、『アナザーサイド・ベスト』を作る自信があるからだ。それほどスネオヘアーがポピュラリティーを伴う多くの曲を作り上げたミュージシャンであると保証出来る裏づけだ。
 この『ベスト』のインタビューで彼はこう言った。「『ベスト』──最初の頃の歌はきっとキツい、ヤバいだろうなぁと思った。スキルは何もない。でも、聴いたら、やりたいものが何か、ぐるぐるしている感じが伝わって来た。実は、聴いていて凄く刺激されたんです。で、すぐに新曲を、もっといい曲をやたりたくなった」。タフな人である。これからも名曲が溢れ出してくるだろう。
 今すぐに、願わくばスネオヘアーをまったく聴いたことのない人にこの『ベスト』を聴いて欲しくなった。まさに“遅咲き”──スネオヘアーが本当に評価されるのはこれからだと思った。至宝のようなベストな『ベスト』である。

インタビュアー・棚橋和博(cast)