österreichオストライヒ

About

高橋國光(ex. the cabs)のソロプロジェクト、österreich(オストライヒ)。
2015年、ゲストボーカルに鎌野愛(ex. ハイスイノナサ)を迎え、TVアニメ「東京喰種トーキョーグール√A」のOPテーマ「無能」、ゲーム「東京喰種 JAIL」(PS Vita)主題歌「贅沢な骨」を楽曲提供。今作「東京喰種トーキョーグール:re」では、第2期EDテーマとして「楽園の君」を書き下ろす。

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Release

シングル「楽園の君」

österreich シングル「楽園の君」

期間生産限定盤[CD+DVD] AICL-3614~5 ¥2,000(tax out)

2018.12.12out

※トールサイズデジパック仕様/
石田スイ描き下ろしイラストジャケット

※DVD: Music Videoほか

Vocal
飯田瑞規 (cinema staff)
Guitar
高橋國光
Bass
岩久保佳秀
Drums
山口大吾 (People In The Box)
Chorus
鎌野 愛 (ex. ハイスイノナサ)
Recording & Mix Engineer
川面晴友
Mastering Engineer
山崎 翼 (Bernie Grundman Mastering Tokyo)

フルサイズ配信中! amazonで購入

Music Video

österreich – 楽園の君 (Official Video) / “東京喰種トーキョーグール:re” 最終章ED

Cast : 志田彩良

Director : ミラー・レイチェル・智恵

Camera : 近藤ナオユキ

Stylist : 服部昌孝

Hair & Make-up : くどうあき

Transport : 生田潤一郎

Producer : 沖 崇信

Production : MAZRI Inc.

Comment

 また同じところに戻ってきました。

 三年前、音楽にもう一度向き合ったのが「東京喰種」という作品でした。そこから誰に聴かせるわけでもない音楽を作ったりしながら、相も変わらず無軌道な生活を送っていましたが、ある日、気がつくと辺りは三年前と似た景色でした。少し違っていたのは、「東京喰種」が終わりを迎え、ぼくが石田くんと友人になっていたこと。

 「無能」という曲をどのように作ったか、あまり覚えていませんが、たぶん何処に身を寄せることなく気の赴くままに作ったのだと思います。時間が経ったいま、そのやり方をもう一度完璧にこなせるほどぼくは器用ではなく、そして、そうしたいとも思いませんでした。

 変わっていくものも、そうでないものも、見てきました。なにもない空洞とすれ違うこともありました。自分がどうなったか、正直に言って、引き続きどうしようもない人間のままなのですが、ほんのすこしだけ、誰かのことを考えて音楽を作れるようになったような、そんな気がしています。

 たくさんの人に助けられて生き、たくさんの人に助けられて「楽園の君」という曲を作りました。機会をくれた石田くんサンキュー。

 皆様、まだまだ暑い日々が続きますが体に気をつけて。

高橋國光(österreich)

元々、「the cabs」というバンドが好きだった。

とくに「二月の兵隊」という曲が好きで、無印7巻あたりは、ずっとこの曲だけを聴いて描いていた。

アニメになるなら、「the cabs」に音楽をつくってもらいたいと考えていた。

無印7巻を描き終わったころに、「the cabs」は解散した。

紆余曲折あって、高橋國光に「無能」という曲をつくってもらった。
それがきっかけで、ぽつぽつと2人で話すようになった。

時折、「the cabs」の話もした。
「いつか一曲だけでも、cabsにやってもらうのが自分の夢」とも語った。

結果的にそれは──2人の間でいろいろあったり、
外の世界でいろいろあったりして叶わなかったけど、
それで良かったと思う。

わりと早い段階で自分は、
「高橋國光がつくる音楽だから好きなんだ」と気付いていたし、
「楽園の君」が出来ていくなかで、良いものがたくさん見れた。

とくに印象深いのは、
曲をつくり終わったあとの國光くんの言葉かな。

曲をつくったあと、
大体きまって彼は「なんでこんなもん作っちまったんだ」と嘆くんだけど、(そんなことないのに、と思う。)
今回はじめて彼が、「これはいい曲だと思う」と口にした。

それが自分はとても嬉しかった。

僕もそう思う。
この曲に、作品を終わらせてもらうのがたのしみです。

楽曲を支えてくださった岩久保さん、
大吾さん、鎌野さん、エンジニアの川面さんありがとうございました。

cinema staff飯田さん、とてもすてきな歌声ありがとうございました。
最強でした。

石田スイ

Notes

楽園の君という曲について

 いままで曲を作ったあと、それについて話すということを意図的に避けてきた。世に出ていき、自分の手から離れたものが、明らかに温度を失うさまを見てきたし、染み付いた自分の汚濁が落ちていくのも、それはそれでありがたく、もう一度触れることがどうにも憚られたからだ。

 それでもなぜか、もう一度楽園の君という曲について、話そうと思った。やり残したことがある訳ではない、言い訳をする余白もない。ただ、もう二度と触れられないものについて、懐かしむことを、自分に対して許したいと思った。

 東京喰種が終わりに向かっていくに連れて石田くんとの話もそういった内容が増えていった。一読者として、友人として、作りあげてきた巨大な塔の天井に何を飾るのか非常に気になっていた。ぼくはどうにも石田スイを通した東京喰種という作品がいびつなものに見えていたので、最後はそれ相応な歪みを伴って終わるのだろうと考えていた。当時EDを作ることは決まっていた時期で、どうせ作るならそれに合わせてめちゃくちゃなものを作ってやろうと(あからさまにクソガキである!)計画を練り、粛々と進行していた。ところが、初夏の匂いのする昼下がり、手にとったヤングジャンプに掲載されていたそれはあまりにも「報われすぎた」もので、思わず何度も読み返したのを覚えている。その時の衝撃を表すのは難しいのだけれど、間髪入れずに石田スイに連絡し、なぜかお礼を言っていた。今考えてみると特に誰かに向けたものではない最終回について、急にありがとうと言われた彼の恐怖たるや、推して知るべし。即ちストーカーの行動心理である。

 それまで僕は幻肢という曲を作っていた。昨年彼と話したとき「いまの自分の状況を言葉で例えると?」という質問を受け、ぼくは「幻肢みたいなもんだ」と答えた。それから幻肢という言葉がぼくの肩にずっとのしかかっていた。いままで確かにあったが、いまはない。けれど、ない部分はずっと痛んでいる。そんな気分がずっと続いていた。呼応するように、やはりめちゃくちゃな曲だった。難解が極まりすぎて、その頃にはぼくにもコントロールできないレベルになっていた。一言で言えば、誰が歌えるねん、である。等しく、誰が弾けるねん、だし、誰が叩けるねん、だった。最終回を見たのは丁度そのような頃の話だ。

 スケジュールもギリギリになってきたある日の夜(後日話を聞いた所、ギリギリアウトだったようである)行き詰まった自分を慰めるように別の曲を作り始めた。数日前に見た最終回のことを考えていた。やけにすんなりとギターとメロディーが決まったもので、数時間後には一分三十秒のデモが出来上がっていた。早朝、それを石田スイに送りつけた。その日のうちに返ってきた返信には「お前天才だよ」(要出典)と書かれてあった。

 その日から、ほぼほぼ決まりかけていた幻肢を捨て置いて、新しく作った曲に注力するにようなっていた。

 本当は、ぼくはもう、何もかも終わりにしたかったのだと思う。芸術家気取りで難解な曲ばかり生み出しては、伝わらないことにいくつも逃げ道を作り、何も傷ついていない振りをし続ける自分の無神経さ。作ろうと思って難解な曲になっている訳ではなかったが、それをどうにかして伝えようとする努力を、ぼくは放棄していた。負けるのが目に見えていたからだ。ぼくにはそんな才能がなかった。それが出来ていたとしたら、周りにそれが出来る人がいたからだ。一人になって気付くことが積もりに積もって、背中にのしかかり、ぼくはもう這いつくばっているも同然だった。

 もう終わりにしよう。ぼくの出来る限り伝えるための努力をして。誰に聞かせても良い曲だと言ってもらうようにしようと、それが叶わぬなら、潔く負けようと、そう思った。頭上あまりにも高い場所、太陽と月の間くらいの位置、そこで東京喰種は終わった。勝ったか負けたかはわからない。けれど、ぼくもせめてこの場所で終わろうと、そう思った。

 全体が出来上がったあとも、できるだけシンプルな曲にしたいと、周りの人に何度も伝えた。それぞれが噛み砕いて、全力で考えてくれた。みずきくんも、大吾さんも、たいちも、鎌野さんも、エンジニアの川面さんも、深い情熱で答えてくれた。結局周りに才能がある人が集まってくれたという部分で、いままでと変わらなかったが、ぼくはもうあの頃のように這いつくばってはいなかった。

 早い段階でタイトルは決めていたのだが、誰にも伝えずにレコーディングを行った。最終日、川面さんがラフミックスを作り終え、全員が帰り支度を始めた頃、川面さんがぼくに尋ねた。

「この曲なんていうタイトルなん?」

 ぼくはなんだか、妙に気恥ずかしく、目を合わせずに

「楽園の君、という曲です」

 と答えた。

 帰り支度の手は止むことなく、整然と時間が進んでいくなか、ぼくはただ一人、終わっていくさまを見ていた。

ひかりたどるむのう

 いつから楽しさだけで音楽を作れなくなったのだろう。

 ぼくがまだ十代の頃、パズルのピースはいつも手元に揃っていた。どんな絵が出来上がるか分からぬままでも、ピースを弄くり回せば自ずと呼吸をはじめ、再生していくように音楽が出来上がっていった。完成品とは名ばかりの欠陥をそれぞれ抱えていたが、それに比例する苦悩はなく、心を乱されることも、まして視界にへばりつき呪詛を囁くこともなかった。

 いつから理由を必要とするようになったのだろう。

 誰かのために音楽をやることは、むしろ傲慢だと思っていた。なんとなく汚いことだと忌避していた。必要とされるための努力は、自己を変容させるわるいものでしかない。他者の介在しない厚い膜の中で、吐き出したものを食べ、また吐き出す。きっとそれだけで生きていけるはずだ、生きていかねばならぬと、小さな体で、奢りの淵で。

 無能という言葉が指しているのはぼく自身だ。二千十四年の冬、理由に突き動かされ、ひたすらに曲を作っていたぼくの眼前にあったのは「出来ないこと」だった。「出来ないこと」の暗闇の中で、ぼくは「出来ること」というひかりを探す。それは切れかけの電球に似ていた。いつ消えるともわからぬひかりをたどり、方向感覚を失い何日も彷徨い続け、出来上がったものはあまりにいびつな「路線図」だった。ぐるぐると、脈略なく、まぼろしに怯え走る車輪の跡。ぼくはぼくの無能を車窓に見た。座席には乾いた理由だけが残っていた。

 出来ないことは日々増えていく。それを衰えと呼ぶ人もいる。ぼくも例外ではなく、もう少年でもなければ、青年の日も終わりに近づいている。というか既におっさんである。出来ていた記憶を振り返ることだってある。理由なく、ただ楽しみ、無能に気付かず過ごした日々を、もう取り戻すことは出来ないのだろう。結局ぼくはあのとき手にした理由に水をやり、後生大事に抱えて生きている。前回のnoteに書いたように、ある日理由が「ひかる」のをこの目で見てしまったからだ。そのひかりをたどった路線図が、あまりに見事だったからだ。楽園の君にいたる旅路は、地獄とすれ違うものであれ、地獄そのものではなかった。

 無能という曲は路線図でありながら、同時に、理由を排し楽しさだけで作り続けてきた日々の「終点」だったように思う。折返しはない。スリーナインのアンドロメダ。

 ぼくは新しい列車に乗った。前よりのろまだが、乗り心地は多少快適、何より、隣には理由という名のメーテルがいる。初乗り運賃を片手に握りしめ、気の向くまま降りた場所で精算させていただく所存。ぎんがのどこかでまた会おうぜ。

失う

 ずっと隣にいた、まるで恋人のような「想い」というやつが死んだ。ぺん、と音を立ててあっけなく破裂。スロウモーションで倒れるとびくりとも動かなくなった。

 想い人の亡骸を見ると、人はどうなるか。咽び泣くか、はたまた蜘蛛の糸に縋るか。縋ったが最後、火の車に引きずられ共同墓地へとぐおんぐおん……

 胸に空いた傷口を見ぬようそっと目を伏せ、これ見よがしに垂らされた糸を引きちぎると、ぼくはタバコに火をつけた。どれだけ深く吸い込んでも、煙は喉元で引き返してしまう。毒物が体に行き渡る実感を得ることは出来ず、口元をボーダーに煙を往復させる行為をひたすら繰り返す。

 ついさっきまで、想いは確かな質量を持って隣にいた。積年の恨みと同じく、煮詰まったそれは生暖かいゲル状のなにかを垂れ流し、部屋を汚していた。一度も除去されずにいた大量の排泄物はもはや僕の膝下まで広がっている。もともとあったフローリングの模様は、もう思い出せない。温度と粘度が相まり、ときにぼくの体を火照らせ、ときに夏の暗室のような不快さを催させた。侵食されずにいるベッドの上だけが、唯一つ残された砦。そんな生活をここ数年続けてきた。

 想いが死ねば、この部屋を埋めんとする残滓も消え去るだろう。そんなふうに思っていたが、実際は何処かに流れ出る素振りもなく、変質するでもなく、温度を保ったまま、部屋の様相は変わらない。傍らに冷たくなった想いの亡骸がぽつんと浮かんでいる。生き生きとしていた頃の想いと重ね合わせながら、どこに浮力があるのか、などとどうでもいいことを思った。どうも頭が回らないのは、傷口が痛み始めたからかもしれない。育ちも頭も悪いぼくは、こういうときのやり過ごし方を知らない。思い付く頼れる人間もいない。ただただ周りを見渡しては、手の施しようがない現状に失望し、現実感をぎゅっと握りつぶすだけ。

 机の上のボトルコーヒーを一口飲み、タバコに火をつけ、フェードしてくる痛みにひたすら耐える。そのボリュームは少しずつ、歪みを伴い大きくなっていく。育ちも頭も悪いぼくでも、それがいつかノイズになると知っていた。音はスピーカーを揺らし、壊れると同時にぼくの脳を殺してしまう。眠りにつかなければいけない。決して最善の方法でないにせよ、ぼくに出来ることはそれだけだった。

 ベッドに上がり、膝を抱えるように体を折り曲げると、両腕を交差させ目を塞ぐ。脳裏に「眠りにつくその瞬間までなにかから逃げているようね」と、昔ぼくに言った女性が浮かんだ。どう答えたかはもう忘れた。

「この瞬間あらゆるすべてから」

 きっといまならこう答える。

胸の傷口の痛みと残滓に曝露された膝の下の不快感を引っ張るように、眠りへと急いだ。

かえらない

 起床と同時にこめかみに弾丸を受けたかのような頭痛。二日酔いから目が覚めた正午、力を振り絞りソファにたどり着くとガラステーブルに明らかな違和感。そこには灰皿の縁で肘をついて二足で立つかえるのおもちゃがあった。

 純朴たる女性に手渡したら最後、ひゃっと驚いたあげくしばらく口を利いてはもらえぬタイプの精巧な作り。サブカルチャーに明るいOLなら、リアルなのが逆に可愛いと目を輝かせ、ゆるい感じの適当ネーム(ケロイドとかそんな感じ)をつけた後職場の机に飾り始める。なんなら就業中に語りかける。俺にはわかる。そんなタイプの精巧な作り。

 こんなものを買った覚えも、そもそも買う趣味もないのだが、どういうわけか我が灰の城に鎮座しておられる。それどころか、このかえる、なにやら俺の方を見て音を発している。喋るとなれば電動かなにかなはずで、精巧な作りと相まって値が張る事明白。走る天啓、このオシャレグッズ感、サブカルチャーの肋骨の隙間を抉ることに腐心する秘密結社ヴィレヴァン並びにその傘下組織の手の物。食費もままならぬ日々の暮らしを思い、自らの泥酔浪費癖をひたすら悔いるばかりである。

「クーリングオフしよ……」

 いそいそとクーリングオフ制度を検索し始めると、ひときわおおきな声が聴こえてきた。

「かえるところなどないし、おもちゃなどではない」

 喋った。いや、今までも音を発していたのだが、明らかに強い意思を伴った喋りに驚いてしまった。どうにも必死さを帯びた声色だった。二日酔いの錆びた脳は深く考ることを拒否している。バカバカしいと思いつつ、俺はかえるに向き合った。

「自分何処で買ったんですかね」

「買われたのではない、気づいたらここにいた。そもそもぼくに値段などないぞ。ぼくはぼくである」

 吾輩は吾輩である。決してかえるにあらず。声高に言うかえるの背後で、同じく二日酔いの漱石先生が笑っておられるのを見た。

「ぼくである、と言うけどねえきみ。姿形はかえるだし、なんなら醸し出すオシャレ感がもうヴィレヴァンな訳。サブカルチャーの肋骨の隙間にフィットする商品なのよ。絶対SNSで自撮りの舞台装置にされてるいますごい既視感感じてる」

「何を言ってるかわからないが、いまだってこうやってお前としっかり会話をしているだろう。ぼくが知性を持って現実に生きているってことをまずわかって頂きたいね」

 かえるはタバコの吸殻を胸に抱きまくらのように抱えると、えへん、というような顔で俺を見たが、吸殻の灰を吸い込んだのか、すぐにくしゃりと顔をしかめた。

 怪奇現象の類か、とうとう幻覚を見始めたか。こういうとき思いつくそれらをぶっ飛ばして、こいつが知性を持って生きているということを納得させる動きだった。生きてたところでなんだい。ぼくらはみんな生きているぞ。

「まあ生きているというのはこの際いいとしてもだ。なぜしゃべっ」

 俺からの新たな質問を遮るように水かきのついた指をちっちっと振る。

「おまえは悪いやつだね」

「はあ」

「後先考えずに酒を飲み、タバコをふかし、見たところ明日も分からぬ暮らしをしている。吸い殻が溜まってるのを見る限り掃除もおざなり、人間らしい営みってやつが出来ていない」

「はあ」

「ぼくの存在を認めるまでの速さだけは評価するよ、頭は柔らかいのかもしれない。それか何も考えていないかだ」

「はあ」

「なにより、初対面の客人を迎え、もてなす心ってやつがない。と、ぼくは思うのだけれど」

 初対面の存在を尊敬し、尊重する心ってやつがないのでは。と、俺は思った。

「お腹が減ったんだ。お前が起きてからずうっと言っているのにまるで無視されてそろそろ限界だよ。早いところなにか食べなきゃ」

 そう言うとかえるは膝をつき、正座のかたちで座り込んだ。人間の感覚だとどうにも不自由そうだが、かえるの間接的なアレがアレで自然な形なのだろうか、とどうでもいいことを云々。どうもかえる(そもそも俺の知っているかえるなのかわからないが)のことはてんで知識にない。

「かえるって何食べるんすか」

 と尋ねると、逆に何ならあるんすか、と横柄な後輩のような態度をとられたので、いそいそと冷蔵庫に向かう。日頃外食かコンビニ弁当で済ましている手前、食料を備蓄する習慣はなく、あるのはいくつかの調味料と期限ギリギリの牛乳だけだった。正直に報告すると、牛乳は猫だし液体だし、などと意味不明な供述を始めたので薄い記憶を頼りに食器棚へ向かう。確か某かの食料があったはず。一度か二度使っただけの鍋や食器をどけると、奥からももの絵が描かれた缶詰が出てきた。

「桃っていけますかね」

「いわゆるピーチ?」

「桃です」

 いける感じの声色だったので振り返ると、悪徳社長がバスローブを着てソファに座りワインを燻らせるときの「あのポーズ」で、かえるがグッと親指を立てていた。めっちゃ愛人契約持ちかけそう、と思った。

 続く