攻める、ねごと 新しい、ねごと

マスタリングが終わったばかりですけど、
手応えはどうですか?
澤村 小夜子(Dr.) 両A面シングルらしい強い2曲になったなと思います。
藤咲 佑(Ba.) キラキラ感満載ですね。すごくナチュラルに生まれた2曲だから、余計なことを考えないでいいなって。今までは自信もない時期もあって、“これでいいのかな?”って不安があったりしたんですけど。でも、今回のシングルもそうだし、今は“これでいこう! そうしよう!”って制作をして、曲を送り出せるので。バンドが揺らいでないんですよね。
沙田 瑞紀(Gt.) 今まで、ねごとがシングルカットしてきた曲は、わりとBPMが速くて、疾走感があるものを意識してきた流れがあったんですけど、今作はそうじゃなくて。まず自分たちにいろいろ挑戦してみたいことがあって、それを重視して生まれた2曲なんです。いろいろ楽しみながら作れたのがよかったですね。この2曲をシングルとして世に出したらどうなるんだろう?という思いもありつつ、どういう曲であろうと自分たちが今、感じている気持ちを乗せれば、ねごととしての強みを出せるんだなって実感しています。
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新しいアプローチをしたからこそ、バンドの核はどういうアプローチをしても浮き出るものだと確かめられた?
蒼山 幸子(Vo. / Key.) うん、新しい試みもたくさんしてるんだけど、ねごとらしさみたいなものは健全に輝いてると思うので。今まで聴いてくれていたリスナーもいい意味でビックリしてくれると思うし、新しいリスナーとも出会える曲になったらいいなって思います。
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バンドがすごくいい状態であることが伝わってくる2曲だなと思う。昨年2月にリリースした2ndアルバム『5』を経て、11月にリリースした7thシングル「シンクロマニカ」、今年3月にリリースした2ndミニアルバム『“Z”OOM』の流れのなかで、原点を見つめ直し、新機軸を示していって。どんどんバンドの根本が強くなり、自由度が増していることが伝わってくる。このシングルもそうだし、今年のねごとの作品はすべてが新章の扉を開くような感じがあるなって。
蒼山 嬉しいですね。『5』とそのツアーはお客さんとの関係をもっと曲に詰め込んだほうがいいのかなって考えていた時期だったんですね。それは間違いではなかったし、それをやりきったからこそ音楽の楽しさって言葉や場所に捉われるものじゃない、言葉や場所を超えたところで伝わるものがあるという確信を得たんです。だから『5』以降、バンドがどんどん自由に開けていけてるのかなって。
沙田 うん。『5』とそのツアーで一旦、それまでの流れを全部完結させたというか。だからこそ、『“Z”OOM』と「シンクロマニカ」からは新しいときめきを求めて制作した部分が強くて。
藤咲 やっぱりライブで考えたり、得たりすることがすごくあって。「アンモナイト!」も先日のEX THEATER ROPPONGIのライブ(「お口ポカーン!!“Z”OOM in X,Y,Z day」のファイナル公演)で披露したんですけど、今日完成した音源はそのときとはまた違うものになっていて。細かいブラッシュアップができたんです。ライブで先行してやって、お客さんの反応を見たうえで曲を練り直せる期間があるのはいいなって思いましたね。
澤村 あと『5』のツアーが終わったあとに長いお休みをもらって。それもリフレッシュするいい機会だったんですよね。今までは学生だったというのもあって、2日連続で休めることもなかったから。しっかり休んでリフレッシュして、休み明けにみんながねごとで何をやりたいのかという話し合いをしたんです。そこで言いたいことをちゃんと言い合って。“ホントはライブでMCをやりたくないんだよね”とか、そういうことも。
蒼山 今までは佑が盛り上げ役をやってくれてたんですけど。
藤咲 そう。でも、もっとラフに考えたいし、ライブってやっぱり生ものらしくあったほうが絶対いいと思ったから。でも、自分がMCでしゃべってることって、その感じが全然なかったんですよね。伝えたいこともすごくあったけど、“ちゃんと伝わってるかな?”という不安が毎回あって。それだったら、その場その場で言いたいことや伝えたいことがあったら口にするというやり方のほうがいいんじゃないかって思ったんですよ。
澤村 音楽的に新しく挑戦したいことも話して、もっと自分たちの好きなことを好きなようにやっていこうってなったんです。そこから、いい意味でマイペースなねごとの形ができてきたなって思います。それが曲にも表れてると思うし。
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音楽的には例えばどういう話を?
蒼山 例えば「NHK みんなのうた」で流れるような曲も作ってみたいよねとか。そういうユルいところを出せるのも、ねごとらしさだと思ったし、もっといろんな面を伝えたいなって。シングルで速い曲をリリースしてきたのも自分たちの意志ではあったんですけど、これからは新しいアプローチをどんどんしていきたくて。そういう話をしましたね。
そういうミーティングをする前の長い休みはそれぞれ旅行に行ったり?
沙田 そうですね。私は1回、無になりたいと思って京都のお寺に3泊4日で宿泊して修行体験をしました(笑)。座禅をしたり、お寺を掃除したり、精進料理をいただいたり。
そこまでして音楽と離れてみたいと思った。
沙田 そう。パソコンとかケータイも触れない状況にしないと、私は音楽から離れられないと思ったので。音楽から離れられなければリフレッシュもできないし。
藤咲 ずっとアウトプットしてたからね。
沙田 うん。だから、インプットできる状態にしたかった。
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それにしても寺修行とはストイックですね。
沙田 でも、また行きたいです。これは余談ですけど、座禅を組んでるときにお経が何拍か数えちゃったりして(笑)。
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やっぱり音楽的に聴いちゃうっていう。それで警策で背中を叩かれて(笑)。
沙田 そうそう。お経も音楽的に面白いなと思っちゃって。“どういう流れでこういう節回しになったんだろう?”って考えちゃいましたね(笑)。
そういうリフレッシュの時間を経て2014年のスタートを切れたのは間違いなく大きいですよね。制作の方法論などにも変化があったりしましたか?
沙田 ありました。今までの曲作りのスタイルは、先に私の作ったトラックがあって、バンドサウンドをアレンジして、そこに幸子がメロディと歌詞を乗っけるというのがねごとのスタンダードなやり方だったんですけど。それも1回崩そうってなって。もっといろいろな作り方ができるはずだって。最近のデモではセッションで作ったりもしてるし。
蒼山 バンド組んだ初期にやってたようなね。
沙田 スタジオで“せーの”で鳴らして作っていくっていう。
藤咲 ノリでメロディを乗せてみたりね。
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セッションで作るとライブ感が強くなるだろうし。
蒼山 そうですね。演奏している感じがすごく前に出ますよね。
沙田 で、「アンモナイト!」と「黄昏のラプソディ」は幸子がまずメロディと歌詞を持ってきてくれて。それに対して私がトラックを作って、みんなでアレンジするっていう今までと逆の流れで作ったんです。デモはたくさん作ってるから、それ以外にもいろんな流れで曲ができてるんですけど。
それは決定的な変化ですよね。まず「アンモナイト!」から訊きたいんですけど、幸子さんはどんなテーマで歌詞とメロディを紡いだんですか?
蒼山 やっぱりメロディが先にあったほうがもっと自由な曲作りができるんじゃないかって『“Z”OOM』の制作のときに思って。それで今回はGarageBandでなんとなくコードとルートとリズムを組んで、メロディと歌詞を乗っけて。そのデモを瑞紀に送って、また違ったサウンドにしてもらうという流れでしたね。今まで私は速い曲を作るのが苦手で、どうしてもバラードになりがちな傾向があったんですけど。メロディと歌詞を先に書くことで、そういう自分のなかの先入観は排除して自由に膨らませていこうと思って。そんななかで〈アンモナイト!〉っていうフレーズが出てきたんです。このフレーズをキャッチーに鳴らせる方向にもっていけたら面白い曲になるだろうなって。
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歌詞は言葉遊びをしながら本能が走り出すようなラブソングに仕上がってますね。
蒼山 そうですね。〈アンモナイト!〉というフレーズを軸に衝動的な感じが出たらいいなと思いましたね。
瑞紀さんは幸子さんのデモをどう受け止めたんですか?
沙田 〈アンモナイト!〉という言葉がポップでどこか捻くれたニュアンスがあっていいなと思って、そこを意識しながらサウンドを組み立てていきました。シングルだし、今までのように速い曲を作らなきゃという考えもどこかであったんですよ。でも、それよりもメロディと歌詞のキャッチーさに合うサウンドにすることが大事だなと思って。
ミディアムなサウンドだからこそ今のバンドの強さが明確に表現できてると思うし、それと同時に初期にも近いフレッシュさもありますよね。
蒼山 うん、私もバンドのデビュー作っぽいなって思います。
藤咲 初々しいよね。
蒼山 自分では想像できないようなサウンドを瑞紀はちゃんと提案してくれるので。それでいてちゃんと歌にも寄り添ってくれていて。〈アンモナイト!〉という言葉が発する、殻から抜け出したいという衝動とか勇気とか、前に進みたいと思ってる内面のストレートな動きが伝わるサウンドになったなって。歌詞は今まで言い切れなかったことを言い切ろうと思ったんです。例えば〈愛したい君だけを〉みたいに限定するような言葉ってあまり使ってこなかったんですけど、今は言い切りたいモードなんですよね。それくらい強気でバンドが前に進めてる気がするから、もう振り切ろうと思って。
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確かに今までは歌詞にも抽象性を重んじてましたよね。もちろん、今後も抽象的なニュアンスは大事にすると思うけど、ただ、言い切るからこそ伝わる表現性もあると今は思えてるんでしょうね。
蒼山 ホントにそうですね。
沙田 ここまで振り切ってるということは、それ自体がバンドの行き先を示唆してるなとも思うんですよ。だからこそ、これは強い曲にしなきゃと思ったし。
ラブソングの体をなしてるけど、バンドの状況がダイレクトに反映されてるとも言えると。
蒼山 そうですね。バンドにとってもそうだし、リスナーにとっても殻を破りたいという気持ちは誰にでもあるだろうし、そういう普遍的な力強さやときめきのようなものが伝わればなって。
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「黄昏のラプソディ」はイントロからフュージョンを同時代的に解釈したようなフレーズや展開を見せるサウンドに驚きました。これは、かなり新しいですね。
蒼山 そうですね。自分が作りやすいメロディって、「アンモナイト!」みたいなAメロがあってBメロがあってサビみたいな、そういうきっちりした構成のものが多かったんですけど、この曲はメロディがめくるめく展開していくような曲にしたかったんです。
なるほど。
蒼山 歌詞はメロディを作りながら自然と出てきたんですけど、この曲のサビにある〈Iしてる YOUしてるなんて 囁くラプソディ〉というフレーズも今までだったら絶対に思い浮かばなかったですね。でも、メロディとオケが一体になったときに景色が見えるような曲にしたいと思ったから。「アンモナイト!」のように直接的に言い切るというよりは、情景から広げていくことを意識して書きました。「アンモナイト!」が夢見ることを恐れない人の曲だとしたら、「黄昏ラプソディ」はソコに踏み込むことのリスクが分かっている人の歌です。
メロディにはどこか往年の歌謡曲のような趣もありますよね。そこには熟成された色気も漂っていて、幸子さんのソングライターとしての成長も感じるし。
蒼山 すごく嬉しいです。
瑞紀さんはどのようにサウンドを構築していったんですか?
沙田 幸子がこういう歌い回しを持ってきたのは初めてだったので、サウンド作りもすごく楽しかったです。幸子のデモの段階でこういうコード感があったので、サウンドのアプローチをもっと今っぽくしたいなと思っていろいろ試した結果、ライブで再現できるかわからないくらい面白いアレンジになって(笑)。
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確かにこれをライブでやるのは大変でしょうね。
沙田 そうですね。でも、そういう心配をするよりもやりたいことをやろうと思ったんです。余計な縛りはいらないなって。
私自身はプログレっぽい感じを意識したんですけど、コード感とか音のライン重なったときに見える情景がふくよかであるのがこの歌にとっていちばんいいサウンドだろうなと思ったんですよね。
そのうえでこの曲をライブで完璧にやったらすごくカッコいいと思う。
藤咲 そういう意味では自分たちで自分たちに挑戦状を叩きつけてる感じがあって。今のライブの調子がいいからこそ、もっと上に行くために自分たちを追い込むっていう。そういう意識があるからこういうタイプの曲もできたんだと思うし。
澤村 「黄昏のラプソディ」は初めて聴いたときから衝撃がありました。私はいつもドラマーとして曲を捉えることが多いんですけど、この曲は単純にひとりのファンとして聴いちゃったんですよ。その感じは久しぶりで。歌詞も今まではクールで抽象的でフワッとしていたイメージが強かったけど、「アンモナイト!」も「黄昏のラプソディ」も強い歌詞になっていて、私は逆にかわいいなって思ったんですよ。
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ああ、言い切るからこそ表出するキュートさもあると。
それはわかるな。
澤村 そう。それも、ねごとの新しい武器になるなって思いましたね。
ライブもこれからさらに変化していくでしょうね。
蒼山 そう思います。『“Z”OOM』のリリース後にやった3本のライブがすごく大きくて。ライブがどんどん自由に力強くなってる手応えがあって。ねごとがどんどん先に進んでるということを、作品だけじゃなくて、ちゃんとライブでお客さんに届いているなって実感できたので。『“Z”OOM』から新しくねごとを知ってくれた人も多いんだなって思いました。その波紋をどんどん広げていけるようにしたいですね。
澤村 もともとバンド名もかわいらしいし、ライブに来るお客さんはねごとに激しいイメージってあんまりなかったと思うんですよ。でも、自分たちはアグレッシブにライブをするのが好きだし、そういう意志が最近どんどん伝わってきてるなって思います。それは私たちがライブバンドとして成長できてる証拠だと思うし。
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これからまた制作の日々に入るんですよね?
蒼山 そうですね。まだデモの段階ですけど、いっぱいいい曲ができてますよ。
藤咲 うん、自分たちでも何から形にしていこうか迷うくらいいっぱいあります。
沙田 今までは曲がフル尺でできてないと着地点が見えなかったんですけど、今はワンコーラスできただけでも“これはすごくいい曲になりそう”という予感を覚えるものが多くて。だから、どんどん攻めたいですね。とにかく攻めたいと思ってます。

インタビューはマスタリング終了直後のスタジオで行った。充実感に満ちたメンバーの表情が、そのままこの両A面ニューシングルに覚える確かな手応えを物語っていた。バンドにとって、ここ数年は葛藤の季節だった。自分たちが鳴らすべきサウンドと歌はどういうものか? いいライブとはなんなのか? 昨年2月にリリースした2ndフルアルバム『5』とそのツアーを経て、デビューしてから初めて長い休息をとったメンバーは、もう一度純粋に音楽を楽しみ、クリエイトし、体現するためのフレッシュさを手に入れた。そして、2014年。新章の扉を開けたバンドは 「シンクロマニカ」と『“Z”OOM』 で原点回帰と新機軸を示し、とめどなく沸き上がる音楽に対する瑞々しい熱意と創造力は「アンモナイト! / 黄昏のラプソディ」にも遺憾なく注がれている。ここからさらに、ねごとは、攻める。そして、どんどん新しくなっていく。

ねごと

浦本雅史
浦本雅史(Aobadai Studio Inc. / Chief Engineer)
僕が最初にねごとのミックスを手がけたのは「nameless」からで。ミックスでいつも意識しているのは、メンバーの個性がとても強いので、それをいかに活かすかということですね。デモを聴いてもあら探しをするのではなくて、いいところを見つけてそれを際立たせたいと思ってます。僕が仕事しているなかで、メンバーが全員女性のバンドはねごとだけなんですけど、彼女たちは演奏に女性らしいインディ感が出るのがいいですね。そこにさっちゃん(蒼山)のポピュラリティのある声が乗っかるのが面白いなと。今回のシングルで2曲ともいちばん意識したのは、歌でした。これからさらにリスナーの分母を増やすという意味で、やっぱり大切になってくるのは歌だと思うので。J-POPのフィールドに立ってもちゃんと魅力が伝わる曲になったと思います。ねごとには引き続き変にまとまらず、自由に音楽を楽しんでほしいと思います。それがこのバンドの最大の魅力だと思うので。
小島康太郎
小島康太郎(FLAIR Mastering / Mastering Engineer)
デビューからマスタリングを担当させていただいてますが、ねごとはずっと伸びしろがあって、マスタリングする度にどんどん変化していくのを感じています。
彼女たち、デビュー前は楽しいというだけでバンドをやっていたようですが、デビュー後すぐにヒットに恵まれたことで、それがプレッシャーになっていた時期もあったようですね。でも、今はまたバンドとして自由に楽しく演奏するんだという意識がとても前に出てるなと思います。それはミックスされた音源を聴いても、ライヴを観てても感じますね。
今回のシングル「アンモナイト!」に関しては、先日のライヴで初めて聴いたときは、正直“あまりシングルっぽくないな”と思いました。でも、実際に今日ミックスされた音源を聴いてライヴのときとは印象も変化していて、そこからマスタリングして更に“シングルらしい力強い曲”になったかと思います。
「黄昏のラプソディ」は個人的にものすごく好みの曲ですね。とても“ねごと”らしい、他のガールズバンドとは一線を画す曲だと思います。マスタリング的にはちょっと渋めでおしゃれな感じに仕上げてますが、“ねごと”だからこそ表現できる曲の1つかなと思います。「アンモナイト!」が派手な仕上がりになってるので、対比としても楽しめる曲だと思います。

僕が若いバンドの人たちに常々言うのは、“誰々にみたいでカッコいいね”ではなく、“誰々ってカッコいいね”という、つまり、“オンリーワン” にならないと意味がないかな、と思っています。

そういう意味では、ねごとはすでにその条件を満たしていると思うので、あとはこの先どんなアーティストに成長していくのか、期待でいっぱいです!

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