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浅野:『JUMP』のイントロが響いたとき、スタジアム・ライブの象徴的な曲だと感じました。

misato:「私も同じことを思いましたね。自分の書いた詞に入り込むのも恥ずかしいですけど、“♪あの日 あの場所で 谷間の激しい雨に”っていうフレーズにきたときに、思わず“ハーッ”って。今は会場に屋根がついてるけど、でもあのこと(注:雷雨による公演中断)がなければこの曲は生まれなかったんだろうなと思うし。夏っていうのはドラマがいっぱい生まれるなって思うんですよ、いいことも、そうじゃないことも。戦後、今年で60年ということもそうですし、長崎、広島っていうこともいつも私は心の中にあって自分の夏を送ってきてますし。子供の頃にひとりで飛行機に乗っておばあちゃん家に行って“初めてのひとり旅”っていう作文を書いたのも夏でしたし。『JUMP』の“♪きみが生まれた日 世界で何が起きたの きみが生まれた日 世界で何が起こるの”っていうフレーズは、そういういろんなことを織り交ぜて書いた歌だったので、それを20年目のあの場所で歌いながら、体の底から“この歌には命がちゃんと吹き込まれてる”って実感しました」

そして続けて『10years』の演奏で、会場中が感動の渦に。

「泣かそうと思った訳じゃないんですけど(笑)、私の中でちゃんと歌っておかなきゃいけない2曲はここで歌いたいなと思って、繋げて歌ったんです。結構大事な、ポイントのコーナーでしたね。ドラマチックとかの一言では片付けられない...、大げさな言い方だけど“生きざま”みたいなものの一端を2つ並べて聴いてもらってる感じですよね。みんなもそれぞれに想いがあって『10years』もたくさんリクエストをもらってるし。そうやってちゃんとリアリティを持って歌える歌が息づいてるっていうことはすごい幸せなことだと思いますね。自分の中の“こころね”みたいなもの、“イズム”みたいなものがきちっと反映できる歌がここにあるなあってすごく実感しながら歌ってましたね」

美里さんの歌世界がとても普遍的なものだと感じました。

「そうありたいと思ってやってきてますけど、それはやっぱり“継続は力なり”っていうことですよね。ちょろちょろっと“いい歌、歌いました”っていうことじゃ納得してもらえないと思う」

さらに『My Love Your Love(たったひとりしかいないあなたへ)』と『Lovin’you』で、四方から照らされたスポットライトを浴びてサブ・ステージにひとり立ち、切々と歌う姿が印象的でした。

「『Lovin’you』はすごく好きって言ってくれる人が多くて。男女問わず。でもあの曲は19歳のときに書いたのかな? だからいい感じで書けたなとは思ったけど、そんなにみんなに支持してもらえる曲だとは思ってなかったんですね。だけど“♪ぼくのなかのRockin’ Roll”っていうのは男性は男性、女性は女性でそれぞれ思う“なにか”があるんだなあとすごく感じたし、リクエストで“実はこの曲が好きなんです”って一番言ってもらえた曲だった。それはアルバムをちゃんと聴いてくれてる人たちが支持してくれた曲だと思うんですね。もちろん『My Revolution』が好き、『サマータイム ブルース』が好き、『虹をみたかい』が好きっていうシングル曲で出会ったという人たちもたくさんいるんだけど、『Lovin’you』っていうのはあの言葉の意味とか、アルバム・アーティストとしてやりたいと思っていた私の想いがちゃんと届いているんだなあっていうことを認識できるリクエストでもあったし。ここしばらく、ちゃんとした形では歌ってなかったので歌いたいなあと思って。思い浮かぶシーンとしてはひとりのシーンがいいと思って最後にもってきたんですけどね』

ライブ全体を振り返ってみてどうでしたか?

「“ああすれば良かった”とか、“こうもできたな”とかいうことが今回のライブに関しては無くって、描いてたものをきちっと表現できて、自己満足でなく、ファンの人たちからも納得してもらえて楽しんでもらえたと思う。なおかつ“あー、夏祭りが終わっちゃった”っていう寂しさは必ずあるけど、また次のネクスト・ステージが待ってるって思ってもらえるような1日にできたって思いますね」

10周年のときにスタジアムを走って一周したあとに“まだ先に道が続いていた”と発言していた美里さん。今回のステージを終えて何が見えましたか?

「その道とは違ったんですよね。もっと太い道が見えたというか。今年は上に上がっていったときに両サイドがファミリーBOXシートだったからすごい“ちびちゃんたち”がいっぱいいて、“みさとーっ”って言ってくれて。子供たちもお腹の中でも聴いてたのかな、楽しい雰囲気がわかるみたいで。この子たちにも伝わってるのかなって思えたときにすごい幸せな気持ちになれました。子供たちの顔がよく見えて、子供たちを連れてるお父さん、お母さんの顔もよく見えて、みんな嬉しそうな顔をしてくれたのがエンディングで階段を上がっていく間、嬉しかったですね」

ファンとその次の世代の子供たちの幸せな表情に溢れた情景を目に焼き付けながらフィニッシュのゴールを切った美里さん。20年という長い年月を重ねたからこそ見ることができた素晴らしい景色だったのでしょうね。

「あの子たちが『うたの木 seasons』を聴いて、“あっ、こういう歌もあるんだな”って思ってくれたらいいなと思う。音楽の捉え方がアルバムをちゃんと聴くっていう時代じゃなくなってるかも知れないけど、こんなにお父さん、お母さんが夢中になってる姿をその子たちは見たことないと思うし、そういうのがどこかの記憶として残ってくれてたりするといいなあと思います」

これからの美里さんについてきかせてください。

「来年の夏は何をやるかはまだ決めてません。もう少し余韻に浸らせて下さい(笑)。でもアルバムは作りました!『No Side』という曲も書きましたし。夏の宿題を終えて、今やっと“スタジアムの20年の夏はよかったなあ”って思い出してるところなんですけど。まあ、必ず夏前になると祭りを仕掛けたくなってくる性分なのでなにか面白いことをやりたいですね。夏はちゃんと“予感”して欲しいです」

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