MiChi. interview page <2010年を語る~「LOVE is.」e.pに秘めた想い~>
「『UP TO YOU』を否定した時期もあったし、聴きたくないというときさえあった」
 シングル「PROMiSE」や「ChaNge the WoRLd」を含み、10万枚を超えるセールスをマークしてMiChiの名を一気に知らしめたデビュー・アルバムについて、MiChiはこう話を続けた。
「自分で書いた歌詞やのにムカついたりもしたしね。あまりにポジティヴすぎて」
 新人にとってアルバムとは、自らが持つ力と姿を出し惜しみすることなく、すべてさらけ出すものである。その結果として、望むとも望まずとも1枚目とは違う新しい姿を次からは見せていかなくてはならない。しかし、MiChiはなかなか見つけることができないでいた。そんな中、DJ OZMAと歌詞を共作し、スキャットマン・ジョンの「スキャットマン」をサンプリングした「All about the Girls ~いいじゃんか Party People~」を2010年4月に、そして常に頭上でミラーボールが輝き続けるダンスロック・バンド、the telephonesを迎え入れて「WoNdeR WomaN」を6月にリリースする。もちろん、この2つの意外性あるコラボもMiChiの新しい姿と言えるだろう。クールなイメージがあった彼女がファニーな一面も見せたのだから。しかし、MiChiはソロのアーティストだ。『UP TO YOU』以来となる純然たる新作が待たれていたし、本人もMiChiの第二章を早くみんなに見せたかったに違いない。
「何かにチャレンジしたいという気持ちは常にあった。その表れがコラボで、どっちも最高に楽しかったし、今までにない経験ができたので、やってよかったと今でも思ってる。でも、それをを通して、どうなりたいのだとか、次にどこに向かおうかというヴィジョンが見えてこなかったんだよね。一瞬、見えかけたかと思えても、違っていたり。ネガティヴになる一方で、『UP TO YOU』の頃の自分がまぶしく見えてしかたなかった。あの1年はなんやったんやろうって。だから、あせったよね。じゃあ、もっとよくするにはどうすればいいんだろうって悩んだ。そこでやっと気付いたのが、わたしの音楽には共通するところがあるということ。元気がでる曲だったりだとか、前向きなメッセージだったりとか。これまでやってきたということは、わたし自身が心からやりたかったということだから、そこに立ち返ればいいんだとわかったの。初心に戻るということかな。ずいぶん遠回りしちゃったけど(笑)」
 ダンス・ミュージックの高揚感とロックンロールの躍動感を併せ持った音楽なんて、今ではまったく珍しくないし、むしろ没個性ですらある。でも、MiChiはそこに自ら感じ、伝えたいメッセージを強く、強く込めてきた。まるで自らの体を音にぶつけるかのように。また、ネイティヴな発音で歌われる英語と独特の語感を持つ日本語が混じり合ったスタイルを持つアーティストは日本の音楽界はもちろん、世界を見渡してみてもいない。わたしにしかできない、生み出せない音楽をもう一度、やっていこうとMiChiは再び歩き出したのだった。
「でもね、『UP TO YOU』と同じじゃダメ。もっと色んなアプローチがあるんだろうけど、今はパワーをより強くしていこうと決めた。だから、この『LOVE is. e.p』に収められた4曲すべてがアップテンポで、エネルギーが充満した曲を選んだんだよね。また行くぞ! みたいなものにしたかったから。アートワークも今までのテイストとは違うしね。MiChiという人間をわかりやすく伝えるためにもナチュラルなテイストでお願いした。そういうの当たり前かもしれないけど、1年目はそう思える余裕がなかったし、MiChiの好みも日替わりで変わってたしね(笑)」
 リード・トラックの「LOVE is.」のイントロからMiChiらしいエネルギッシュなビートがスパークしている。しかし、彼女のヴォーカルが入ったあたりで、今までとは違う感覚にとらわれる。音のタッチや雰囲気はこれまでのMiChiらしいけれど、ビートと言葉の関係性や譜割り、それにいつになく多い日本語の歌詞が新たなステージに足を踏み入れたことを告げているかのようだ。
「言いたいことは胸の中にあったけど、書けない時期でもあったから苦しんだんだよね。言葉も出てこなかったし、譜割りもむずかしいし。誰かにお願いしてみたらとスタッフにアドヴァイスされて、前から気になっていた、いしわたり淳治さんにお願いしてみたら引き受けてくれて。わたしが書きたかったことを彼に伝えて、互いに何回かやりとりして完成した。日本語多いよね、わたしじゃ書けない(笑)。道中とか方舟とかね。最初は戸惑ったけど、言葉自体がユニークでキャッチーだなって思ったの。そう彼にそのまま伝えたら、違和感があるかもしれないけどキャッチーなら使ったほうがいいよってアドヴァイスしてくれて。勉強になったね。ひっかかる言葉の選び方だとか、ダイレクト、ストレートに言い過ぎないようにだとか。あと、彼と共作したことで自分がどんな歌詞を書きたいのかも再発見できた。何かを変えようと思ったら人まかせじゃなく、絶対に自分自身が変えるんだというポジティヴな姿勢。これこそが、わたしが書きたい、MiChiが歌っていきたいことなんだって」
 ストレートでくもりのないピュアな気持ちが、抑え切れない鼓動のようなビートと共に疾走していく。「LOVE is.」でMiChiが伝えたかったのは“愛がほしいなら、まず与えよう”ということ。その言葉のひとつひとつがまっすぐに向かってくる。
「自分がいちばん愛を求めていたからだと思う。『UP TO YOU』を出したあとエンプティになって、どうしようもなく孤独に感じられて、ものすごく愛を求めていた。みんな愛があるから、愛を求めているからがんばれるんだろうなってぼーっと考えていたんだけど、でも、本当に自分がハッピーな時は求めるんじゃなくて、愛を与えてるんだよね。そういう時の気持ちを忘れちゃってたというか、自分だけがかわいそうって思い出しさえもできなかった。でも、そのことに気付いたから、前に向かって歩き出すことができたんだと思う」
 これまで見せていた凛とした表情に、何とも言えないやわらかさが感じられるようになったのはナチュラルなアートワークからだけじゃない。すべてに対してまっすぐに挑んでいた以前の彼女だったら、歌詞を人に任せようとは決してしなかっただろう。あきらめて途中で放り出すのではなく、違った側面から物事を見ようとする姿勢の表れで、そこにぼくはMiChiの新たな姿を見出したりもするのだ。
「落ち着いたのか、大人になったのか……いや、なってないよね(笑)。そう思えるようになったんだよね、自然と。確かに戦っていたよ、自分とね。何でこんなに弱いんだとか、うまくいってないなとか。でも、そういうネガティヴな気持ちを広い心で受け入れようとするようになったんだよね。今ね、変わってきているなと実感してるよ。自分もまわりもね。わたしがちょっとぐるぐると迷っていたから、スタッフやバンドのみんなも一緒に迷っちゃった。でも、今はまっすぐに向いて歩いてる。みんなと一緒にね」
 この4曲入りのe.pには流れるような展開が爽快なサウンド・スケープを描いていく「YEAH YEAH YEAH!!!」、MiChiのラップがエレクトロなサウンドの上でハジケていく「JUMP ON IT」、そしてラストに恒例のカヴァーとなるオフスプリングの「PRETTY FLY (FOR A WHITE GUY)」を収録。そう、あの"アハン、アハン"のナンバーだ。
 MiChiは今、2枚目のアルバムに向けて歩みを進めている。そこに描かれるのは俯き加減の彼女ではなく、以前のようなまっすぐに前を見据える彼女の姿のはずだ。
「まったくもってモヤモヤとしているんだけど(笑)、でも心配じゃない。絶対いいものが作れるという自信だけはあるから。だから、今目をつむってイメージできるのは、アルバムが完成してハァー、良かった! という顔だけ。プロセスはまったく見えないんだけど、その顔が見えているから安心してるんだよね。2011年はいい予感がするんだ。いい風がふくと思うし、いい年にする。そう感じるのも2010年に色々あったからこそ。いい経験したって、いまはそう言える」
 長かった助走期間を経て、いまMiChiは大きく跳躍しようとしている。ぼくらもその鮮やかな姿を、まぶたに描くことができるはずだ。

2010年12月1日 油納将志

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