チャットモンチー デビューに寄せて

 ステージに出てくると彼女たちは、必ず初めに三人で手をつないで一礼をする。そこでだいたいの観客は、あなどる。客席がざわつくのはいつものことで、ときにはくすくすと笑い声が起こることさえあるほど。
 ところが、いざ轟音で三人の楽器が鳴り出して、絵莉子が歌い始めた瞬間、会場の空気は一変する。さっきまで笑っていた客も視線はステージに釘付けになり、身体が自然に揺れ出し、客席から起こる拍手のボリュームは一曲終わるごとにどんどん大きくなっていく。これが彼女たちの普段のライブだ。
 演奏が特に上手いわけではないが、彼女たちのステージには夢がある。本当にいい顔で楽器を鳴らすのだ。

 徳島県在住のガールズ・ロックバンド「チャットモンチー」。
 G&Voの橋本絵莉子、B&Choの福岡晃子、Dr&Choの高橋久美子の三人組。
 年齢は22~23歳。高校の同級生や大学のサークル仲間で2004年に結成された。
 三人がそれぞれに書いた歌詞に、絵莉子がメロディをのせ、三人でアレンジをする形で曲は出来ていく。彼女たちは勘がいい。ポップな曲を本能的に作れるタイプだと思う。歌詞も牧歌的な可愛らしさの中に、女子特有のホラー感や覚めた視線が潜んでいてなかなか面白い。

 ある日、僕が彼女たちとリハーサルスタジオに入っていたときのこと。
「新曲ができたんです!」と、三人が嬉しそうに演奏を始めた。日々の練習でも、彼女たちはいい顔で楽器を鳴らす。曲はいい感じだったのだが、残念ながら、サビのメロディラインが以前に作った曲とよく似ていた。
 聴き終えてからそれを指摘すると、作曲した絵莉子が一瞬、驚いた顔をしたあと「ああ、ほんまや〜」と残念そうにうつむいた。そしてすぐに顔を上げて、「・・・でも、似てたらダメなんですか?」と一言つぶやいた。
 僕は驚いて、というよりも、驚きすぎて笑ってしまった。等身大のロックだとか、自然体だとか、リアルな感性だとか、彼女たちはもはやそういう問題ではないのだと気づいた瞬間だった。そのあとすぐに他のメンバー二人から、「そうだ、そうだ」の大合唱が起こったのだが、その頃にはもう爽快感すら感じていた。
 不自然なほどの自然体。これは凄い感性だと思った。先輩面してつまらないことを言ってしまった自分が少し恥ずかしくすら感じた。

   普通の女の子が普通に音楽をつくって鳴らしている。ただそれだけのことに宿る魔法。彼女たちはそれを体現している。
 メンバーのうち二人が教育大学に通うくらいだから、当然みんな成績優秀なのだろうし、性格も真面目で明るくてのんびりとしていて、きっと体育祭も文化祭も一生懸命やったタイプだと思う。そういう「清潔な生い立ち」は一昔前ならロックの定義から大きく外れていた気がするのだが、彼女たちの出す音は不思議なことに、その辺のロックぶっているバンドよりも断然ロックだ。
 たぶん、これが新しい世代なのだと思う。「青春時代に偏見なく邦楽と洋楽に接してきた最初の世代」がつくる、新しいジャパニーズ・ロック・ミュージック。

 チャットモンチー。ロックの魔法が宿っていて、なんとなく未来の匂いがする。
 きっと彼女たちは、ロックの神様のまさに好みのタイプで、いつも彼女たちにやさしく微笑みかけているのだろう。彼女たちと一緒に居れば居るほど、そんな気がしてくる。Chatmonchy has come!新しい時代の幕開けだ。

いしわたり淳治


BACK