01:Shiplaunching
02:プラシーボ・セシボン feat. 高橋幸宏+大貫妙子
  <作詞:堀込高樹 作曲・編曲:冨田恵一>
03:Like A Queen feat. SOULHEAD
  <作詩:吉田美奈子 作曲・編曲:冨田恵一>
04:アタタカイ雨 feat. 田中拡邦(MAMALAID RAG)
  <作詞:高橋幸宏 作曲・編曲:冨田恵一>
05:Launching On A Fine Day
06:ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY

  <作詞:糸井重里 作曲・編曲:冨田恵一>
07: 恋は傘の中で愛に feat. 山本領平
  <作詞:鈴木慶一 作曲・編曲:冨田恵一>
08:しあわせのBlue feat. YOSHIKA
  <作詞:大貫妙子 作曲・編曲:冨田恵一>
09:Is The Rest Silence?
10.Prayer On The Air

  <作詞:高野寛 作曲・編曲:冨田恵一>

冨田船長と豪華客船で行く、2006年ポップ・ミュージックの旅。
文:川勝正幸(エディター)

■ 1年間の航海日誌、または音楽カレンダー2006。
冨田ラボのセカンド・アルバム『Shiplaunching』(06)が、いよいよ発表される。ファースト・アルバム『Shipbuilding』(03)から約3年。前作が「造船」で、本作が「進水」ときた。もちろん、言葉遊びもあるだろうけれど、タイトルからも自信のほどが伺える。
冨田ラボとは、MISIA「Everything」(00)、中島美嘉「STARS」(01)、平井堅「RING」(02)......のヒット曲や、キリンジをデビュー当時から手がけてきた売れっ子音楽プロデューサー、コンポーザー、アレンジャーの冨田恵一が、自分発信で音楽的冒険をやるためのソロ・プロジェクトである。ラボといっても、あくまでポップ・ミュージックのフィールド内で研究を寸止めする規則を自分に課しているところが、冨田のアイデンティティだ。
2005年、冨田ラボは、2月にファンク「Like A Queen feat. SOULHEAD」(作詞:吉田美奈子)を、6月にソフトロック「アタタカイ雨 feat.田中拡邦(MAMALAID RAG)」(作詞:高橋幸宏)、9月にブラジルが隠し味のアメリカン・ポップス「ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY」(作詞:糸井重里)をシングルとしてリリースしてきた、季節のお便り(シーズン・グリーティング)よろしく。
ところが、噂どおり、冨田ラボはシングル作りと平行して、水面下でもハード・ワーキング! アルバムへ向けていくつかのコラボレーションを重ねてきたことが分かった。
2005年の冨田ラボを丁寧に追いかけてきたリスナーにとっては、『Shiplaunching』は1年間の航海日誌として聴くことができるだろう。そして、今回がすべて初耳というリスナーにとっては、2006年の耳で聴くポップ・ミュージック・カレンダーとして楽しむことができるに違いない。


■ 各曲解説:三世代住宅的トライアングル・コラボの法則と、掟破りの絶妙なバランス。
 『Shiplaunching』のCD-Rとクレジットが届いたときに、真っ先に確認したのは黄金のトライアングル・コラボレーション(別名:音楽のDNAで結ばれた三世代住宅)のルールが全曲に適用されているかどうか? であった。2005年の3枚のシングルはどれも、冨田恵一(1962年生まれ)は、自分より一回り以上若い世代をヴォーカリストに、一回り以上先輩の世代を作詞家にキャスティングしていたからだ。
 結果は......三世代住宅的トライアングル・コラボをほぼキープしながらも、スパイスとして掟破りが少々という、心憎いバランスとなっていた。
1曲目「Shiplaunching」は、意表を突くサウンドのインスト。この、心をウキウキさせながらも、もどこか奇妙な味はブランドXのジャズロック? ブライアン・イーノのファンク? 英国風味の“インタールード以上、楽曲未満”で始まるとは! 冨田のベースがパーシー・ジョーンズしていて、愉快。
2曲目「プラシーボ・セシボン feat. 高橋幸宏+大貫妙子」は、新春シャンソン・ショウ? 軽快なキラー・チューン! ヴォーカリストが冨田より一回り以上先輩の二人で、作詞家が一回り以上下の作詞家という真逆の起用で、洒落たルール違反っぷりなり。
幸宏さんと大貫さんの歌の共演は、高橋幸宏『Heart of Hurt』(93)収録の「蜉蝣」以来に違いない。二人のヴォーカルの掛け合いを聴くなり、パリのエスプリが漂う。
とはいえ、詞に耳をそばだてれば、♪草津の湯〜なんて都々逸テイストが挿入されているじゃないか? 作詞家はどこのどいつだ! と思ったら、キリンジの兄、堀込高樹であった。初のソロ・アルバム『Home Ground』(05)でも、女性ファンが引くのを恐れず「クレゾールの魔法」なんてフェティッシュな歌を書いた男だけある。
ちなみに、「赤ひげ」とは黒澤明監督の69年の名作のことではなく、夜の営み系食品で有名な赤ひげ薬局のことである。マムシ、スッポン、ハブのトライアングル・コラボこと「絶倫粉粒」が絶賛発売中! らしい。
3曲目が「Like A Queen feat. SOULHEAD」、4曲目が「アタタカイ雨 feat.田中拡邦(MAMALAID RAG)」、5曲目に口笛が印象的な、スティーリー・ダン・リスペクトを感じる“インタールード以上、楽曲未満”を中締め的に挟んで、6曲目が「ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY」と、既売シングル3曲を畳み掛ける。続けて聴くと、新年の悦び〜梅雨明けへの期待〜夏の終りのせつなさと、季節感の流れが心地よい。
7曲目「恋は傘の中で愛に feat.山本領平」は、三世代住宅的トライアングル・コラボの法則どおり。
山本といえば、冨田がりミックスを手がけたFPM「Why Not?(Tomita Lab Remix)」(03)で、ファンキーかつ美しいヴォーカルを聴かせてくれていた。彼が歌うと、日本語の詞も楽器のように響く。結果、ラジオではエディットされそうな長い間奏の、まるでプログレッシヴ・ロックの組曲仕様よろしく大胆な展開の演奏にも、コーラスが見事に溶け合っている。
作詞はムーンライダーズの鈴木慶一。『スズキ白書』(91)をはじめ、情けない男の傷心ソングを書かせたら日本一! なれど、領平くんをイメージしたのか? ポジティヴなラヴ・ソングになっている
詞を熟読すると、♪雨ほん降りで〜や♪このバス停から〜などなど、「アタタカイ雨」と「ずっと読みかけの夏」――ダブルでアンサーソングになっているような気がするのだけれど、みなさんはどう思われますか? ビートニクスの相方である高橋幸宏、「花咲く乙女よ穴を掘れ」(82)などムーンダイダーズに素晴らしい詞を手供した糸井重里――二人の旧友への目配せを感じるのは考えすぎでしょうか?
8曲目「しあわせのBLUE feat YOSHIKA」も、三世代住宅的トライアングル・コラボの法則をクリア。とはいえ、狙いは技あり。大貫妙子が書いた、8分音符に端正に乗った品のある言葉を、YOSHIKAがフェイクを利かせて歌い上げる。m-flo loves YOSHIKAとは、別のベクトル。たとえば、バート・バカラックをディオンヌ・ワーウィックが歌うような、白人が書いたソウルを黒人の歌姫が歌っている如き印象を与えて、味わい深くなっている。
ところで、冬の海に流れついたちぎれているPaperbackも、「ずっと読みかけの夏」のイメージを、連歌のように受け継いでいるような気がするんぽだけれど、これまた関係妄想でしょうか?
9曲目「Is The Rest Silence?」の“インタールード以上、楽曲未満”は、シタールギターがキャツチーなドラムレスのインスト。シカゴ音響系の先輩と言ってよい、ジャーマンロック、それもポポル・ヴーを彷彿とさせるサウンドで、冨田ラボの現在の音楽的興味fが透けて見える。
10曲目「Prayer On The Air」は、冨田と同世代! 上からも下からも慕われる日本ロック界の中間管理職こと高野寛の作詞。しめのヴォーカルは、冨田本人。ラストにふさわしい掟破りなり。ドナルド・フェイゲン『ナイト・フライ』(82)のジャケットの東京ヴァージョンを連想させる、余韻のあるナンバーとなっている。


■ 名詞代わりの前作から、水しぶきにも似た勢いを感じる本作へ。
 『Shiplaunching』も、『Shipbuilding』同様、冨田恵一が基本的な演奏や打ち込みで、自分が欲しい完璧なグルーヴをクリエイト。その上で、必要な生楽器を名うてのミュージシャンたちに演奏してもらっている。
しかし、前作が70年代のアメリカの良質なポップ・ミュージックを、今の冨田の耳で新しい音楽に再生する試みとすれば、本作は時代を80年代まで上げ、アメリカに限らず、イギリス、ドイツ、ブラジル......と地域も拡大した音楽の大航海。さらに、インストだけではなく、ゲスト・ヴォーカリストを招いた楽曲の中においても、ジャズロックやプレグレッシヴ・ロックなど、冨田のプレイヤー欲を満たす演奏を取り入れている。
名詞代わりの『Shipbuilding』から、水しぶきにも似た勢いを感じる『Shiplaunching』へ。冨田ラボのセッションが、個人々の参加アーティストたちや冨田自身のプロデュース・ワークへどう波及していくか? 2006年の音楽シーンが楽しみになって来た。


■ 冨田ラボ、いや、冨田恵一の全貌が楽しめる一夜。
号外! 『冨田ラボCONCERT』と題したライヴが、2006年3月19日(日)にSHIBUYA-AXで開催されるという。
参加アーティストは、キリンジ、CHEMISTRY、Saigenji、畠山美由紀ほかとか。
となると、『Shipbuilding』+『Shiplaunching』のナンバーがほとんど楽しめるステージになりそうだ。
そして、もし、冨田恵一プロデュースによる数々のヒット曲を、その夜集った歌い手たちがカヴァーしてくれたら。冨田ラボの全貌だけではなく、冨田惠一の世界を堪能できる内容になるだろう。
個人的には、「乳房の勾配」(『PRO-FILE〜11プロデューサーズ(1)』98所収)を冨田+キリンジで聴きたいのだが、夢は叶うだろうか?