今年3月19日にSHIBUYA-AXにて行なわれた夢のスーパーライヴ【J-WAVE presents"冨田ラボCONCERT"supported by GROOVE LINE】、遂に待望の映像作品化が決定! "冨田ラボ"の『Shipbuilding』『Shiplaunching』の2枚のアルバムからは勿論、この日遂に初披露された"キリンジ"との幻の名曲「乳房の勾配」や、更にアンコールではサプライズ・ゲスト"ハナレグミ"が登場、"冨田ラボ"としての代表曲「眠りの森」の共演など、素晴らしいボーカリスト、ミュージシャンとの奇跡の一夜を完全収録した(ほぼノーカット、2時間強!)作品となっております。 そして、ボーナス映像として『Shiplaunching』から制作されたミュージック・クリップを4曲収録。現段階での"冨田ラボ"コンプリート作品といっても過言ではない作品です! そして、来年1月は同作品の"ブルーレイディスク"の発売も予定!



SONG LIST

[第1部]
01.Waltz [5'18"]
02.罌(け)栗(し)  / 畠山美由紀 [5'27"]
03.耐え難くも甘い季節 / 畠山美由紀 [6'43"]
04.ずっと読みかけの夏 / CHEMISTRY [6'50"]
05.しあわせのBlue / 武田カオリ(Tica) [6'16"]
06.道 / 武田カオリ(Tica) [7'00"]
07.Shiplaunching [4'06"]
08.プラシーボ・セシボン / 高橋幸宏+大貫妙子 [5'17"]

[第2部]
09.Blue U [9'56"]
10.Like A Queen / SOULHEAD [6'14"]
11.アタタカイ雨 / 田中拡邦(MAMALAID RAG) [6'37"]
12.香りと影 / キリンジ [4'14"]
13.乳房の勾配 / キリンジ [5'15"] 
14.Shipyard(edition1) / Saigenji [3'31"]
15.太陽の顔 / Saigenji [6'53"]
16.恋は傘の中で愛に / Ryohei [6'49"]

[ENCORE]
17.眠りの森 / ハナレグミ [7'04"]
18.Prayer On The Air [5'11"]
19.Waltz 〜Reprise〜 [4'25"]

 [CLIPS]
1.プラシーボ・セシボン feat. 高橋幸宏+大貫妙子  [5'11"]
2.ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY  [6'33"]
3.アタタカイ雨 feat. 田中拡邦(MAMALAID RAG)  [6'00"]
4.Like A Queen feat. SOULHEAD  [3'44"]



 ライブ当日、筆者も会場の二階席で見ていたが、出番を終えたケミストリーの二人や畠山美由紀らが次々と二階席にあがってきて、今度は一人の"客"としてステージを見下ろしていたのが印象的だった。楽屋にもモニターがあるだろうから、わざわざ客席に来なくてもステージは見られる。こうして多くのアーティストが出演するライヴの場合、出番が終わったらとっとと帰ってしまうような人だって時にはいるに違いない。だが、この日登場した11組ものゲスト・ヴォーカリストたちは誰一人として途中で帰ることなどなかったという。今年3月19日、SHIBUYA-AXにて行われた冨田ラボ初のコンサート。そのくらい、この日は誰にとっても貴重な一夜だったということなのだろう。
 しかし、もちろんそれ以上にこの日を待ちわびていた人は当の冨田恵一自身。あくまで主役としてステージにあがったのは冨田自身にとってこれが初めてのことで、それだけに事前の準備にはまったくの余念がなかった。あらゆるパートの楽譜をライヴのために新たに自ら書いただけではなく、曲順を考え、当日の流れをシュミレートしていく。それは、ほとんど主役ミュージシャンというより、もはや演出家、ディレクターとしての視点だったに違いない。
 「とにかくたくさんのゲストが出るから、ライヴとして途切れることがないように、ということを考えてて。あくまで譜面を書きながら、誰がどのタイミングで歌うかというよりも曲調そのもので流れを考えていましたね。だから譜面を書き上がった段階で、大体の構成ができ上がっていたかな」
 とはいえ、これだけの出演者が一同に集まるとあっては当然すべて予想通りにはいかない。リハーサルも「全部で8回。そのうち5回はリズム隊だけで、ホーン、ストリングス含めてバック・バンドが全員揃ったのはたった1日だけ。ましてやゲスト・ヴォーカリストが全員揃った日なんてもちろん1日もなかった」というし、アンコール最後の「Waltz〜Reprise〜」で出演者全員がステージに再登場するアイデアも、当日になって決めたという。
 「僕としてはあまりフォーマルな感じにしたくなかったのね。ロック・コンサートのカジュアルなところを残した方がいいと思っていて。そういう意味では『ラスト・ワルツ』のあのちょっとダラけた雰囲気っていうのは参考になったと思う。実際、ステージに出ると不思議と緊張しなかったんだよね。MCも"スタジオでトーク・バックする時と変わらないですね"ってみんなに言われたし(笑)」
 まるで実際のレコーディング・スタジオの風景を眺めているような、それでいて気の置けないライヴに参加しているような。おそらくあの場にいた人のほとんどがそうした特有の空気を味わっただろうと思う。あれだけのゲストが登場し、ストリングスやホーンがズラリ揃いながらも決して堅苦しい匂いを放っていなかったのは、パーティー会場に次々と招待客が訪ねてくるようなくだけた雰囲気がそこにあったからだ。そして、今回のパッケージ化されたこの『Tomita Lab Concert』を見ると、あの場あの時、実は誰よりも冨田恵一自身がその雰囲気を楽しんでいた様子が伝わってくる。もちろん、途中、鍵盤を壊すくらいの熱演ではあった。大写しになると、演奏に集中しながらも、バック・バンドとの統制をきっちりとはかっている様子もよくわかるし、それに何より『Shipbuilding』『Shiplaunching』という2枚のアルバムの世界を、より一層の詩情溢れる演奏で再現した冨田のアレンジとディレクション能力にはまったく恐れ入るばかりだ。
 だが、最終的に思うのは、アルバムでは味わえなかった冨田恵一のヒューマンな横顔。その一点に尽きるのではないか。終始笑顔を絶やさず、ゲストに気軽に呼び入れ、気軽に見送る様子には、誰もが頬を緩ませたことだろう。今回のパッケージ化に際してカットされた部分はほとんどなし(演奏部分は丸々収録されている)。カメラ・ワークなどにもギミックなどはほとんどない。そんなナチュラルな仕上がりにも、本作の魅力がそのまま凝縮されていると言えるのではないだろうか。
 「そもそも、スタンディングの会場で1部と2部に分けた構成のライヴってあまりないんだってね。僕、スティーリー・ダンとか席のあるコンサートしか行ったことないからわからなかったんだよね(笑)。そのくらい、いつもの自分の時間の過ごし方とほとんど変わらない、自分の素直な感性でやれたライヴだったと思うよ」
 ぜひまたやりたい。この日以降、冨田は何度もそう口にしている。何しろあれだけ多忙な人であるからして、次の機会はいつになるのか今の時点ではまったくわからないが、その日が来るまで、いや、ずっとずっとこの『Tomita Lab Concert』は色褪せない瞼の中の幸せな風景として傍らにおいておこう。そう思っている。
2006年10月 岡村詩野