春畑道哉 2nd Mini Album「FIND MY PLACE

今回のアルバムタイトルは「FIND MY PLACE」。春畑道哉が改めて自分自身と向き合い、いま一人のギタリストとして表現すべきこと、自分の立ち位置を再認識するというテーマに基づいて付けられたタイトルである。

制作に入る前に春畑は、新たな側面をリスナーに感じ取って欲しいという思い、またライブツアーとレコーディングメンバーを固定したメンバーで回りたいという意志の下、共演ミュージシャンの人選を行なった。そして今回ドラマーに松田 弘(サザンオールスターズ)。 日本を代表するインストゥルメンタルグループ"DIMENSION"のメンバーからKey小野塚晃とSax勝田一樹。スガシカオなど多数のアーティストをサポートして活動するベーシストの坂本竜太という、キャリア、スキル、実力全てを持ち得たこの4名のミュージシャンとタッグを組んだ。まさに全音楽ファン必聴のインストゥルメンタル作品。

初回生産限定盤は春畑道哉のギタープレイに迫ったスペシャル実演映像やミニアルバム「FIND MY PLACE」のレコーディング風景を収録したDVD付き。

初回生産盤/通常盤

2nd Mini Album「FIND MY PLACE」


「FIND MY PLACE」ライナノーツ

Text by 藤井徹貫

  十年は偉大、二十年は畏るべし、三十年は歴史になる。中国の古いことわざらしい。継続の重さを説いている。85年にデビューし、まもなく歴史の域に達するTUBE。そのギタリストであり、メロディメーカーでもあり、アレンジの中核を担ってきたのが春畑道哉だ。
  彼のソロワークは87年のミニアルバム『DRIVIN'』から始まった。20歳そこそこの彼が見せた大器の片鱗はあまりにも鮮烈だった。あれから25年、今ここにあるのは12年ぶりの新作となるミニアルバム『FIND MY PLACE』。あえて一言で表わすなら、歌える歌っているギター・インストだろう。
  歌えるとは、文字どおり、どの曲をとっても歌えるのである。曲の主題となっているメロディも、曲の骨子となっているリフも、曲のアクセントとなっているフレーズも、はたまた印象的なリズムまでも、歌えてしまう。くちずさめる。ジェフ・ベックの「You Know What I Mean」のようにだ。
  では、歌っているとは…。これまた文字どおり、ギターが歌っている。ときにのびやかに、ときにシャウトし、ときにせつせつと歌っている。そう、ギターを歌わせている。「パリの散歩道」のゲイリー・ムーアのようにだ。
  歌う。語源は訴える(訴う)とも言われる。思いを、心情を、願いを訴えるもの、それが歌。『FIND MY PLACE』は歌で溢れている。ギター・インストであるから歌詞はない、ボーカルもない。が、歌が溢れてくる。
  それが表テーマとしたら、裏テーマもある。こちらもあえて一言で表わそう。インタープレイ。辞書には相互作用と載っている。が、音楽用語のそれは、ミュージシャンがお互いの音に反応して高まっていく演奏のこと。いうなれば楽器での会話。それを支えているのが松田 弘(サザンオールスターズ)のドラムであるのは言うまでもないだろう。
  会話。ご存知だろうか、我々の日常会話においても、話している相手から受け取る全情報(感情や印象など)のわずか7%に過ぎないのである、言葉そのものにより伝わる割合は。残り93%、つまり会話で伝わるほとんどの情報は相手の表情や身ぶり、もしくは声の大きさやトーンによっている。この非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)の結晶こそインタープレイだ。
  ただし、たかが言葉、されど言葉。その存在は大きい。言葉あるいは歌詞のない音楽の住人たらんとすれば、それ相応のスキルを求められる。下手には無理。マンUの熱烈なファンのウサイン・ボルトが入団を希望したとかしないとかニュースになったが、四方山話としてなら有りだが、現実的には無し。チームのインタープレイを台無しにするだけだ。
  『FIND MY PLACE』をサッカーに例えるなら、楽曲はフィールド、コード進行は戦術。その中を縦横無尽に駆け回る変幻自在のプレイヤーが春畑のギターとなる。ときにトップ下として攻撃のタクトを振る。ときには遠藤よろしくボランチから絶妙のパスを供給。もちろん鋭角的なドリブルでゴールを狙うストライカーの顔も見せる。ドラムはザックジャパンの生命線である吉田+川島か、ならばベースは長谷部、サックスは香川、キーボードは内田+長友か。彼らの卓越したスキルと、それに支えられたプレイに興奮してしまう。
  興奮の中で思い出すのは、ぼくの記憶が定かなら、88年4月6日夜の神戸。のちにロックの殿堂入りする事になるギタリストも、当時から春畑道哉の才能を認めていた事実。そんな早熟なギタリストが今やっと、実年齢にふさわしい表現に達したのかもしれない。背伸びもせず、迎合もせず、斜に構えることもなく、ありのままの自分でギターを弾いているように聴こえる。だから、この言葉を贈る。
There is your place in our heart loving your guitar.

楽曲解説

Text by 藤井徹貫

  鷲が飛ぶ。曲名どおり、大きな翼を広げ、大きな空を悠然と往く、鷲の姿が見えてくるパートから始まる。そして現われるのは、隼のサックスと鷹のキーボード。「上を見ぬ鷲」(何者も怖れる必要がなく、思うままに振る舞うこと)のことわざのまま、ギターは雄々しく気高く大空を往く。ラストのギターのディレイは飛び去った鷲が残した旋風だ。

  序奏→提示→展開→再展開→と、まるで物語でも読むかのように進む曲。序奏でのエンベロープフィルターをかましたファンクからジャズへと展開するあたりは、まさに結末の見えない物語。この先どうなる!?と好奇心があおられる。物語の背景あるいは情景ともいえるリズムの変遷も肝。ちなみにギターの音色がまったくジャズでない点もRUDEでステキ。4分15秒頃からのギターとサックスのデュオにも外耳道が広がってしまう。

  サックスのイントロに続く、ギターのメロディは指弾きだろうか。音の粒が独特だ。語るように歌い始めたギターが徐々に熱を帯びて行くと、目に浮かぶのはソウルフルなシンガーが体をくの字に折り、片方の手を強く握り締め、もう片方の手に持ったマイクに魂を注ぎ込む姿。曲の構成やアレンジもボーカル曲そのもの。歌心が溢れる松田 弘(サザンオールスターズ)のドラムは流石の一言。本作の表看板と言いたい。

  ファンキーでロックなナンバー。もちろんメロディも、リフも、オブリも、どれもこれも歌えてしまう。スキル不足だと、からまわりしてしまいそうなフレーズも、さすが軽々と決め、ぼくらリスナーのロック心に着火する。もうくちずさむだけじゃ飽き足らず、ギターを抱え、あっちもこっちもコピー。かくして2分30秒頃からはギターVSサックスのバトルが勃発。Oh Yeah!!

  色気のあるディストーションで始まる。それだけでもう別世界の扉が開いてしまう。扉の向こうでは、三日月が哀愁の雫を垂らし、ベルベットの夜陰に風紋が浮かび、十字路の真ん中で二枚舌のミミズクが手招きしている。見える筈のないものが見え、聴こえる筈のないものが聴こえる、それがこの曲の力だ。歌詞もボーカルもないインストだから天外天も桃源郷も旅できる。

  12月の夜空を描いたソネット。凍える夜、ベテルギウス、シリウス、プロキオンを探しながら、隣にいる好きな人の手を握るとき、この曲が流れたら…。星を見るのが好きな宙(そら)ガールが急増中の昨今、この曲をプレゼントしたら…。できる事なら、12カ月のhoroscopeシリーズをお願いしたい。それにしてもラストのハーモニックスが憎い。星の瞬きが見える。

  本作では唯一、TUBEが見える曲。骨太のギター・トーンは前田亘輝の声を想起させる。力強いメロディからは諦めるなよ、何かを始めてうまく行かなかったら、またやり直せばいいさ、そんな歌詞が聴こえてきて心が熱くなる。これはTUBEで春畑道哉が確立したスタイルでもある。自ら築いた居場所だ。その曲に「The ONE」と名づけた気持ちを思うと、さらに胸が熱い。

  エレクトリックギターとピアノだけのバラード。Everlasting Place(永遠の場所)とはどこか、自分にとってのそれはどこかと思いながら聴くと、こみあげてくる。失くした何かに呼びかけるのか、握った掌の中にある何かにつぶやくのか、ギターは歌う。あなたにとっての永遠の場所とは…。聴く者の中にある真実と共鳴する曲だ。きっと抑えきれないものに出会えるだろう。


TUBE Live Around Special 2012~SUMMER ADDICTION~
プロフィール

1985年TUBEとし「ベストセラー・サマー」でレコードデビュー。3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」のヒットでバンドとしての地位を確立。1987年TUBEと並行して、ソロ活動を始め、現在までに、シングル2枚とアルバム10枚(ミニアルバム、ベストアルバム含む)をリリース。

1992年シングル「J'S THEME」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグオフィシャル・テーマソングとなる。1993年のJリーグオープニングセレモニーでは音楽を担当、国立競技場の5万人の観衆を前にライブを行った。 2002年5月9日米国のギターメーカー・フェンダー社と正式にアーティストエンドース契約を交わした。

春畑のギターテクニックとセンス、またコンポーザーとしての実力ミュージシャンへの影響力、そしてフェンダーをこよなく愛する姿勢が総合的に認められて全面的なサポートが約束された。エリック・クラプトンなどの人気、実力、影響力を兼ね備えたギター・プレーヤーのシグネチャモデルを誕生させてきたフェンダー社が初めて日本人ギター・プレーヤーとして春畑道哉モデルを発売した。春畑にとって栄誉なことであり、日本のミュージックシーンにとって記念すべき出来事となった。

ディスコグラフィー 1st Album『DRIVIN'』 2nd Album『Smile On Me』 3rd Album『GUITAR LAND』 4th Album『Dream Box』 5th Album『Moon』 6th Album『Real Time』 7th Album『Color of Life』 8th Album『RED BIRD』 1st Best Album『Michiya Haruhata BEST WORKS 1987-2008~ROUTE86~』 1st Mini Album『J'S THEME』 1st Single『J'S THEME (Jのテーマ)』 2nd Single  『Best Day of Your Life』
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