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 "Godfather of Techno"ことKraftwerk、そして日本における「テクノ・ポップ」の大きな隆盛に貢献し、また海外においても高い評価を受けたYellow Magic Orchestra。現在の全世界のテクノシーンから今なお多大なリスペクトを受け続けるこれら2つのグループがドイツと日本から出現したことは、「電子音を愛する人々が多い」という「国民性」のようなものと直結する事実であろう。その日独のトップDJ達の出演するパーティー、“テヒノ・フェスト”が4月25日、新宿リキッドルームにおいて開催された。

 フロアは端から大入り満員の大盛況。大阪のベイサイド・ジェニーで前日に行なわれたほぼ同内容のパーティーでは、100枚出した当日券が8分間でさばけたそうだ。このパーティーに対するシーンの注目度の高さが伝わってくる。

 DJの一番手はTOBY。「泣き」の入ったジャーマントランス中心の選曲で、初手から満場のフロアを盛り上げる。両手を差し上げ、歓声を上げるクラウド。その熱狂ぶりにアッパーな選曲と自身のアクションで応えるTOBY。 大盛況のうちにTOBYのプレイは終了。そして、ステージ上に2人の人影が姿を現す。フロアからは「あれ、まりんじゃない?」という声が聞こえてくる。そう、人影の主は石野卓球と砂原良徳。事前に告知されていなかった電気グルーヴのライヴが行なわれるのだ。この日のライヴはWestbamの主宰するドイツの大規模なレイヴパーティー、"MAYDAY"で行なわれる彼らのライヴのテストケースとして行なわれたものである。

 卓球と砂原が卓上に機材に向かい、音を出し始める。満を持して頭にタオル、上半身は裸、下半身に馬の着ぐるみを身につけたピエール瀧が登場。卓球がマイクロフォンを手にし、ヴォイスパフォーマンスを繰り広げる。瀧もマイクを持ち、ステージを縦横に動き回りながらフロアを煽る。クラウドは手をたたいて大喜び。曲は「ガリガリ君」(原型をとどめないほど解体)、MAYDAY用の新作と思われる曲、「虹」(こちらもかなり加工されている)。かなり硬質で、ドイツでは非常に受けそうな音である。

 30分程で電気のライヴは終了し、次のDJはWestbam。おもむろにスクラッチを始める彼。“Westbam = 西のAfrika Bambaataa”の名の通り、高度なDJテクニックに裏打ちされたエレクトロ中心の幅広い選曲で、フロアを熱狂の渦にたたき込む。この日の彼のプレイの圧巻は、YMO "Firecracker"〜Kraftwerk "It's More Fan To Compute"。まさに「日独テクノ同盟」を象徴する選曲。若い世代中心のクラウドの中にはこれらの曲を知らない人も多数いたはずだが、そのようなこととは関係のない大きな盛り上がりだ。テクノは世代を超えた共通言語となりうるのだ。そのようなことすら感じてしまった。

 続くライヴはMijk Van Dijk。ヘッドセットマイクを着け、機材ブースからフロントステージに飛び出し、駆け回りながらクラウドの歓声に応えるMijk。テクノアーティストには珍しく、とてもライヴ慣れしている。ステージ上にはMijkただひとり、しかもかなりシンプルな機材構成でありながら、メロディアスでポップな曲からミニマルタイプの曲まで幅広いプレイを1時間にわたって展開し、その間満場のクラウドを全く飽きさせることのないエンターテイナーぶりであった。 この日の大トリは石野卓球のDJ。プレイの最初の方でYMO "Absolute Ego Dance"、同"Rydeen"をスピンするというサーヴィスぶり。この日の卓球は非常にアッパーなハードミニマル中心の選曲。彼自身も非常に上機嫌な様子で、DJプレイ中には滅多に見せない決めのポーズなども見せたりもする。彼の好調ぶりがフロアにも伝わったのか、クラウドはこれまでにない熱狂を見せる。

 そして2時間あまりにわたる卓球のプレイは終了、客電が灯されるが、フロアの熱狂は未だ醒めやらず、クラウドは全く帰る様子がない。アンコールを要求し始めるクラウド。それに応え、再びプレイを始める卓球。彼も非常に楽しそうにプレイしている。アンコールは3回に及び、卓球が苦笑いをしながら「もう勘弁してくれ」というようなポーズをとるまで続いた。

 このパーティーからは、しばしの間忘れていた「テクノって、こんなに楽しかったんだ…」という、言わば「テクノの初期衝動」とでも言うべきものを感じとることが出来たのだが、YMOとKraftwerkというテクノ黎明期の二大グループを産んだ日独両国のアーティストの競演が、そのような「衝動」を思い起こさせてくれたのかも知れない。再びこのような機会に巡り合うことを望む。



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