NEWS





SQUAREPUSHER NEWS ARCHIVE


BASS MAGAZINE JUNE
BASS MAGAZINE 6月号
INTERVIEW: FUMI KOYASU
PHOTO: MARTIN GOOACRE


PROFILE

現在22歳。12歳からベースとドラムを始める。ジャコ・パストリアス、ジョン・マクラフリン、エイフェックス・ツインを愛す。94年から12インチを数枚リリースするが、96年に発表した『FEED ME WIRED THINGS』で、ドラムン・ベースと生楽器の融合を見せ注目を浴びる。各レーベルによる争奪戦の結果、UKテクノの最高峰レーベル"WARP"が獲得。1st アルバム、『ハード・ノーマル・ダディ』を発表した。

英国の小さな街で生まれ育ち、あまりにも退屈な幼年期がからの脳味噌を肥大化させた。テクノ/ ドラムン・ベース界に突如現われた天才ベーシスト、スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。彼が想像した小宇宙的サウンド『ハード・ノーマル・ダディ』はまさに画期的である。テクノロジーと生演奏を融合させたスリリングな音のビッグバン。そして時空を超えて広がる不思議なトリップ感。科学者になりたかったというこの男........いったい何者なのか?


ジャンルなんてどうだっていいんだ


●現在のあなたのスタイルはいつ確立されたの?

よく覚えてないな。みんなと同じように、僕も人のコピーをしていたからな。

●どんな人のコピー?

ジョン・ポール・ジョーンズとかかな。

●あなたはロック派なの?

いや別に。ツェッペリンというより、ジョンジー個人が好きだっただけ。やつのベースはすごく面白いと思ったから。レコードに合わせてベース・ラインを真似たんだ。ほかにも数多くのベース・プレイヤーをコピーしたけど、本当にハマったのはジャコ・パストリアスとスタンリー・クラークとだった。14歳頃の話だけどね。ジャズにはそれほど興味はなかったんだ。僕はジャコのスタイルをジャズだと思ってない。あれはジョンジーと同様、R&Bが土台となっているよ。

●それに対して『ハード・ノーマル・ダディ』の基本は、ジャズのような気がするけど。

確かに。

●『COOPERS WOLRD』はマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』の世界。当時のジャズメン達の実験的な試みを、今あなたが進化したツールを操って、改め直してるような気がする。

君の言うことはよくわかるよ。僕はマイルスが音楽に対して持つ挑戦的な思考をシェアできるからね。サウンド的にジャズを求めているわけじゃないし、ジャンルなんてどうだっていいんだ。モダンなツールで、今の音楽をどんな形でもいいから新鮮で今までになかった新しいサウンドにしたい、そんな思考からそもそも当時のフュージョン・ミュージックは生まれたんだよね。『ビッチェズ・ブリュー』はそういう意味で型破りだった。伝統的なジャズにファンクやロックのエッセンスが加わって、新しいジャズの時代が始まった。ハービー・ハンコックもヘッド・ハンターズで型を破った。ジャズのコードをロックのディストーション・ギターで弾くという...........こうしてフュージョンの時代が続き、今僕はオールド・フュージョンにテクノのエレクトリック・ノイズを加えて、また次のステップを踏もうとしている。

●今やフュージョンというのも、かつてのジャズに似て、伝統的になってきたよね。

そうなんだ。ジャズだってフュージョンだって本来はすごく革命的と言えるほどの音楽だったんだけどね。それがなぜか、"クリシェ(決まり文句)"のような、当り前なことになってきている。僕は今やほとんどフュージョンを聴かないよ。当時衝撃的だったミュージシャン達が、現在やってることって実に悲しい。ハービー・ハンコックはまるでヘッド・ハンターズ時代を忘れたかのように、つまんねぇ音出してるし。

●あなたの音楽を"テクノ、ドラムン・ベース"と言ってるけど、自分自身はどう思ってるの?

モダン・テクノロジーを伝統的な音楽と結び付けたもの。無機質に近い現代のテクノ系の音楽を取り入れるのはとても挑戦的であるはずなのに、この種の音楽を音楽として認めたがらない伝統派がいる。彼らの頭を柔らかくしたいね。

●偏見を崩したいよね。

その前に偏見であることに気がつかなければいけない。あの偏見の原因は、作品に対してじゃなくて、テクノロジーに対する拒絶反応じゃないかな。機械のせいにするのは簡単だけど、機械を正しく使うことは難しい。機械、すなわち"音"をうまく生かそうとする努力さえあれば、いつどこでも音楽は生まれるはずだよ。

●ところでベースは何を使ってるの?

フェンダー・ジャズ・ベースとアイバニーズのロードスター。レコーディングではアイバニーズをメインに使ったよ。

●ベースを弾いてる時はどこから刺激を受けて、それをどのように音楽に反映させてるの?

ジャコだね。ウェザー・リポートの音楽というよりもジャコ自身。特に『ジャコ・パストリアス』の『ドナ・リー』には刺激を受けたよ。考えてみたら、あれを作ったのはサックス・プレイヤーだったんだよね。ルーツを探ると案外別の楽器のやつに刺激を受けてるような気がする。ドラマーを一番聴いてるよ。70年代末から80年代にかけてウェザーで叩いてたのって、誰だったっけ?

●ピーター・アースキン。

アースキン!やつのドラミングはカッコいい。あとジャズ・ドラマーなんかがよくやる、シンコペイションとか、意識的にズレを出してるやつとかって、すごく気持ちいいよね。

●『E8 BOOGIE』はベースをオーヴァー・ダブして、片方にはエフェクターをカマしてるけど。

エンハンサーを使ってる。原則的にあまりエフェクターは使わないほうなんだ。最近凝っているのはピッチ・シフター。実際弾いてる音とズレた音が同時に発音するんだけど、それがエイリアンみたいで面白い。ストレイトな音を求めている自分が、あえてエフェクターを使うとしたら、この種のクレイジーな音がいい。マルチ・エフェクターじゃなくて、コンパクトでね。


近頃、改めてマイルスを聴いてるよ


●どの楽器で作曲してるの?

ベースだね。ベースを通して考えているよ。

●レコーディングの作業を具体的に教えて。

いいよ。ドラム・サウンドをパート別にサンプリングして、レコードなどからドラム・パターンを1小節ぶんサンプリングする。そこにたとえば各8種類のキック、スネア、ハイハット、シンバルなどの音色を被せるんだ。フォステックスのスタンダードなMIT8トラックMTRを使って、テープ・シンクで録っている。1チャンネルはドラム、次はキーボード、次はパーカッション、次はストリングス、残りはベースに使うんだ。実際に生で弾いてるのは、ベースのところどころで、あとはパーカッションと稀にキーボードくらいかな。

●とても8チャンネルには聴こえない。バウンシングでもしてるの?

してないよ。8チャンで十分だよ。

●すごいね。MTR以外の機材は?

ローランドのSH101という昔のアナログ・シンセで、エフェクト・プロセッサーを使って欲しい音色を加工してサンプルする。あとはいろんなシーケンスを使ってサンプルしているよ。プリセット音源は使ってない。唯一のデジタル音源はサンプラーなんだ。AKAIの950さ。

●メモリー数が少ないんじゃない?

うん。だからいちいちフロッピーで保存しとくんだ。少ない可能性の中で働くのが好きだね、僕は。可能性が多ければ多いほど、人間はフォーカスしにくくなるんだ。

●ところで理論とか学んだの?

うん。それと音楽史も研究してきた。とても大事なことだと思うね。多くのエレクトロニクス・フリークは、今流行ってるものばかりをやってて、自分達のルーツを探ろうとしないんだ。.........過去を未来に繋ぐこと。僕はたくさん昔のものを聴く。

●最近聴いてる音楽は?

近頃、改めてマイルスを聴いてるよ。彼のすごさを再発見してるんだ。それとあとは90年代のUKハードコアもの。ブレイクビーツとか音色が面白いんだ。あのワイルドなエナジーが好きだね。

●今でも毎日ベースを弾いてるの?

なるべく最低1時間はベースを弾くようにしている。単にベースを弾くことが好きなんだ。ウォーム・アップじゃなくて、インプロヴィゼイションしているさ。今のトレンドがどうのとか、すべてを捨てて弾くようにしている。とにかく自分の思うことしか弾かない、それが基本なんだ。それは周りの音を聴かないというわけじゃないよ。

●5、6弦にも興味ある?

4弦でまだまだ習いたいことがあって、今のところは5弦どころじゃないよ(笑)。

●最近欲しいベースは?

リッケンバッカーが欲しい。あのクランチで、オールド・スクール系のサウンドが好きだね。あとMIDIピックアップを取り付けて、クレイジ−なサウンドを出すことには興味があるよ。

●一方でMIDI、ブレイク・ビーツなどの最新テクノ、もう一方でマイルスなどのオールド・スクールという、異質なふたつの世界を同時進行させているんだね。

まったくその通りだね(笑)!

●最後にBM(Bass Magazine)読者にメッセージをください。

流行ものに凝り固まるな。ウケを狙うな。あと"クール"かどうかって、いちいち気にしないことだね。きっと誰もが言ってることでウンザリかもしれないけど、自分を持つことだよ。




1997 (C) Sony Music Entertainment (Japan) Inc.

NEWS