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ROCKIN ON BUZZ
ドラムンベース、ジャズ、フュージョン、パンク、そして燃えよドラゴン---すべてを引き込み世界の混沌を描写する弱冠22歳のマッド・テクノ・プロデューサー、スクエアプッシャー、その「科学と学習」にひたすら迫る!!



BUZZ MAY INTERIVIEWREAD THE ARTICLE

俺の音楽が「脳に200匹ほどのハエがブンブン飛び回ってる」ように聴こえるって?アハハハ、超カッコいいなあ、それ。10代の頃のアシッドやってたから、脳ミソやられちまったのかもしれない

(『ロッキン・オン・"BUZZ"』5月号〜スクエアプッシャー ・インタビュー / テキスト= 鹿野淳 撮影 = マーティング・グッドエイカー 〜)

間違いなくこの男の脳ミソの中には、エレチップ入りのハエが200匹は飛び回っている筈である。そうでなければ、こんなにせわしなく狂暴かつ巧妙なリズム・ミュージックが湧いてくる筈ないのだ。

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スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンはチャーリー・パーカーを愛するジャズ・ベーシストであるとともに、世界最高速のドラムンベースを操る奇才である。BPM180ぐらいの超速でパーカッシブな音をヒステリックに飛び交し、その上で六本木ピットイン的な激シブ・ベースをブイブイいわせている、今、世界で最もけったいな音響をあゆみ出している男である。そして厄介なことにこの音楽もたらす感情は間違いなく「闘争心」なのである。例えばアタリテーィンエイジ・ライオットが肉体性に訴える闘争のアンセムであるとするならば、スクエアプッシャーは知性に訴えるヴァーチャ・ヴァイオレンス・メッセージ。アレック・エンパイア・ミーツ・アインシュタイン------かつてこんなにも科学的な革新性と暴力性が当為であった筈なのだ。ダンスミュージックとしての肉体性を含有した上でさらなる精神性を追及し、科学的に狂い咲いてしまうテクノ。時と空間をつなげるのが相対性理論ならば、スクエアプッシャーという名の論は、無機(機械)と有機(衝撃)、パンクとフュージョン、そして愛と憎しみという音楽的な混沌をすべてコネクトしてくれる。

そんなマッド・テクノ・プロフェッサーが作った2ndアルバム「ハード・ノーマル・ダディ」を片手に、インタビューに臨んだ。インタビュー嫌いの謎多き問題児というもっぱらの噂は、この記事でブッ飛ぶことだろう。実はブリット・ポップ・アイドルもまっ青な容姿を持つトム・ジェンキンソンは、何と僕らを自宅へと招き入れて饒舌の限りをつくしたのだから。スクエアプッシャー、22歳の春の珍事である。

………日本ではあなたのように弦楽器をバリバリこなし、ジャズ的な確かなバック・ボーンを持ちながら、敢えてラジカルなテクノに走るという前例がないもんで----あ、世界中そんな人どこにもいませんね。

「アハハ、たしかにそんな気がする」

………なもんで、あなたがあんな人工的なサウンドの上でネイティブなベースをブイブイ弾きまくっているのが不思議でしょうがないわけですが。どういうふうにしてこのスタイルを見出し、そのスタイルの中から奇妙な楽しさを見つけたのでしょうか?

BED ROOM「まあ、あれこれバンドで弾いてたりしたんだけど、15くらいの時にLFOやアシッド・ハウスものなんかのブリティッシュ・テクノが盛り上がってきてね。90年頃だな。勿論僕はこいつを愛してるわけだけど〔とベースを手にする)、でも弦をひっぱたいても出てくる音の波系を変えることはできないんだ。だけどエレクトロニックスを用いれば…‥その、いきなり目に浮かんだんだ。空間のどこにでも動ける、どんな音でも出せるっていうのが。波系だの波長だの、そういう、従来の楽器じゃどうしても作用しにくい要素に手を加えることができるんだから、ずっと可能性も広がるって。それまではバンドものとテクノものって全然べつの世界って気がしてたののが、その時初めて思ったんだ。マシンなのにすげえ音楽が作れるじゃんって。で、ある日、楽器店でキーボードを見て触ってみたらさ、ビィヨーン、ブィヨーンってアシッド・サウンドが出てくる出てくる(笑)。それでそいつを買って、あとはオーブンの天板をひっ叩いてパーカッション代わりにしてさ。それが曲作りの始まりだった。当時は二つのテープデッキを使って、一つ一つ録ったものを重ねてたよね。そんな感じかな」

………なるほどなるほど。だけどあんた、初めて組んだバンドはスラッシュ・メタルだったらしいじゃないですか。一体なぜそんなもんに手を染めたんです?

「さあてね、へへ。ただ、学校で弾いてたらさ……俺、いつも学校にベース持ってって昼休みなんかに弾いてたんだけど、そしたら何人かが寄ってきて『ウチのバンドでベース弾かないか?』って言うもんだからさ。おお、いいぜって感じで、どんなもんやっんのって聞いたらスラッシュ・メタルって言うんだ。その時の俺はスラッシュ・メタルが何かも知らなかった。せ、何それ、って言ったらテープをくれて、もう思わず吹いたね。ドゥドゥドゥドゥカドゥカドゥ……オッケー、やったるぜ(笑)。でやることになっちまった。なんか一年ぐらいやってたよな。面白かったよ。ともかくいい経験にはなった、バババババーッ、もうアタマおかしいぜっていう(笑)」

………でも、だいたいあなた、まだ22歳なんでしょ?いつどこでそんな老成したプレイヤビリティを獲得したんですか?一日何時間とかのベースの練習をしてたわけじゃないでしょ?

「ああいや、そりゃいまでも毎日3時間ぐらいは弾くけど。なんたってこいつは最初に手にした楽器なんだし(と、さも愛おしげに傍らのベースを撫でる)。音楽のすべてはこいつを通じて学んだようなもんだからね。リズムもメロディーも曲の構成も、昔の人達のプレイを真似してさ。自分のスタイルってそうやって作りあげていくもんだろ、それこそ偉大なミュージシャンの指の動きから何からなぞって。ハハハ」

………そういう成長期の学習が今のあなた、そしてあなたの音楽になんらかの影響をもたらしているだろうと思うんですが。どう?

「いやぁ、言いたいことはわかるんだけど……。ただ一つ言えるのは、ガキの頃の俺ってものすごく落ち着きがなかったんだよね。授業なんかで課題を与えられても、二分で片付けちゃって、おーいヒマだぁみたいな(笑)。で、周りにちょっかい出して問題起こすっていう。そういう子供時代だったもんだから、今は意識して、常に退屈しないように自分に働きかけるっていうとこがあるよ。とにかく飽きっぽいから。動きのないものって耐えられないんだよね。もうほんと頭が変になりそうな気がしちゃうんだ、ずーっと同じものって。だからじゃないかな、こういう音楽やってるのも。止むことなく生みだし展開し続けるようなね。それと、ここ10年の音楽ってたぶんにメロディーや曲構成が動きに欠けるものが多いんだ、俺の感覚からすれば。たとえ8分の間でもいろんな場所に連れ回してくれるような、そんな音楽があれば興奮するよね。俺って現実の人生でもけっこうエネルギーがたっぷりある方だと思うんだよ、で、それに見合うだけの刺激的で退屈しない音楽を自分でも聴いていたいんじゃないかな」

………ところであなたはリチャードDジェイムス(エイフェックス・ツイン)のことを音楽的に唯一わかりあえる人物として評価しているし、これまでにも「彼は天才だ、希望の光だ」とベタぼめですよね。僕は彼の音楽は非常に孤独で挑戦的で美しい、「ムラサキ色のバラ」のようなものだと思うんですが。

「ああ、いいかもしんない(笑)」

………そんなリチャードがあなたの『FEED ME〜』から影響を受けたと言われるエイフェックス・ツインの最新作で、「生活の為に流行のドラムンベースに手を染めた」と語っているんですが---。

「わはははは。うん」

……‥あなたにとってのドラムンベースとのコミュニケーションはどういったものなのでしょうか?

「まぁ、ある時期それなりに聴いたから影響は残ってるわけだけど……どうかな、俺がよく聴くのはドラムンベースっていうより、そのまえのハードコア・ブレイクビーツっていうか。ドラムンベースより古いけど、ずっとエネルギッシュなんだ。もっと無秩序で、生々しくてユーモラスなんだよ。いい音楽をつくろうなんて考えてもいなくて、ただ大量にノイズを出してやろうっていうさ。そういうとこが好きなんだ。今のドラムンベースの多くはもう、しきたりだの決まりごとだのに捕らわれちゃってた、正直言ってつまんなくなってきてると思うんだよな。もっと前のジャングルものの方が良かったよ。俺はすべての音楽は溢れんばかりの感情レベルに作用すべきだと思う。それはたと極端に不快であってもいいんだ。ただただ作用し続ければ、それでいいんだ」

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………ドラムンベースはとてもセクシュアルな魅力を持った機能的なダンス・ミュージックだと思いますが、あなたの音楽は同じリズムを持ちながらも、もっと聴きてに対して挑戦的で暴力的なスタンスをとっているように思えます。つまりあなたの音楽はリズム・ミュージックという形態をとった知的で実験的でエレクトロニックな挑戦状というふうにも思えるんですが、その意見についてどうですか?

「ううーむ。こいつはちょっと難しいな。どうだろうねえ。正直言って、そんなふうに考えたことはないからなあ………ただ、挑戦的でありたいとは思ってる。挑戦されずにいると、人って古い体制の中でぬくぬくしちゃうものだからさ。みんなが停滞した場所で居心地よくなっちゃうと、音楽も足を引っぱられるしね。挑戦状っていうのは言えてるかもな。それって何も悪いことじゃないと思うし。みんなが互いに挑戦しあっていれば刺激的なことが起こってくるだろ。なにも、好んでいやがらせをしてやろうなんて俺はおもってるわけじゃないけど、たしかにこれは何となくながれたきて抜けてって10分後には忘れ去られちゃうようなものとは違うからね。最近のドラムンベースのレコードなんかはそんな感じだもんな、んー悪くないじゃん、ってそれだけで消えてっちゃう。そんなのつまんないじゃん。俺は何となく聴かれて忘れ去られるなんてのはいやだね。だって、まがりなりにもこれだけの時間をかけて音楽について学んできたわけなんだし。俺の音楽を聴いてアグレッシブな感じを受けるっていうのはいいと思うよ。たしかに真っっ正面からぶつかってきて「おい、聴け!」っていうような音楽だし、うん……悪くない。音楽は俺にとって、ある意味じゃアグレッシブなものだけど、全く同時にとてもスピリチュアルで、心を鎮めてくれるものだとも思ってるんだ。これだけはいつでも変わらないだろうな。昔から、矛盾しあうものの衝突っていうのが好きなんだよ。伝統的な感覚の中では意味をなさないようなコントラストや組み合わせがね」

………それこそが、こんなにも奇妙で踊れないドラムンベースまがいの音楽を僕らのもとにあなたが届ける、究極の理由なんでしょうか?

「んんん……かもしんない。かもね」

………ただあなたの音楽は曲によっては、特に今作の1曲目のリフとかはフュージョンと紙一重ですよね。日本でのフュージョンとは、音楽に精神的な目的を求めない楽器愛好家が、ただただ上手に弾くというマスターベーションを満たすだけの薄っぺらなものなのですが、イギリスでも基本的には同趣旨の位置づけがされていますよね。あなたはこれについてどう思いますか?

「少なくとも俺のやりたいことではないけど。俺は音楽ってとてもスピリチュアルなものだと思ってる。フュージョンの殆どはものすごく、冷たい感じがする。そりゃあ、すごい速弾きとかしてくれちゃったりするけど、そうですかよく出来ましたって感じだもんな。最終的には実りは少ない気がするな。何時間も何時間もかけた挙句に目標はひたすら速く弾くことなんて……何か欠けてると思うな、この、人間らしさみたいなのがさ。んなら、いっそのこと機械にやらせた方がいいじゃん。機械の方がもっと速く弾けるよきっと(笑)。でもね、初期にフュージョン・ミュージックは好きだったんだよね。その中から出てきたプレイヤーの何人かは大好きなミュージシャンだったりするし。ジョン・マグラリンとかジャコ・パストリアスとか。勿論マイルス・デイビスも。でも俺、彼らのやったことに敬意を払う一方で、それを破壊したいっていう気持ちも常にあったんだ。これまたいかにも俺だって言えばそれまでなんだけど……もう、パンクみたいなもんだよね。パンク+ジャズっていうかさ。破壊しつつ称賛する、みたいな。自分の音楽を把握しようとしたら、そうとしか表現できないよね。俺の音楽の大部分は、ただ生きてるのが嬉しいっていうところから出てきてるわけでさ。せめて生きてる間ぐらい、できるかぎりのことをしようじゃないかっていう、それだけだよ。何かやれることをやろうっていうね。だって、何もしいで生きてる人って実際いっぱいいるんだから。チャンスなんかいっぱいあるのにね」

………じゃあ平たく言ってしまえば、この音楽こそ生きてる実感なんである、と。

「それは絶対そうだね。俺はかくべつ宗教心の強い人間じゃないけど、誰でも何らかの形で肉体を超えて生き続けたいっていう気持ちがあると思うんだ。で、音楽がそれだってこともあるんだよね。他の人達の中に自分を残したい、みんなの中に生きていたいっていう」

……はっきりいって今日はこれを言いたくて取材してるんですが、あなたの音楽を聴いてると、特に今作の5曲目辺りからの3、4曲を聴いてると、脳ミソのなかを200匹ほどのハエがブンブン飛び回っているような何ともいえないマゾヒスティックな気分が沸き上がってきて、ふと死にそーになるんでしが、そんなリアクションはあなたにとってどうですか?

SQUARPUSHER ON THE CAR「ワハハハ……すてきだ。200匹のハエはいいな。自分じゃいつもいろんなもんが辺りを飛び回っていていっぺんにいろんなことがいろんな具合におこってるっていうイメージなんだけど。そうだなあ、きみのその言い方からすると、要するに混沌を感じるってことなんだと思うんだけど、たしかに俺が何より好きなのは混沌とした状態なんだよね。絶対に意図して何かを引き起こそうなんてことはしない、どっちみち何かが起こることはわかってるんだから。そして、起こることは勝手に起こるにまかせるんだ。人間ってえてして状況に理論を持ち込みたがるものだけど、それって一番面白い部分を剥ぎとっちゃうようなもんだよ。一番面白いのは、予測不能っていう部分なんだから。科学全般に対する俺の考え方はそうなんだよね。勿論、自分のやってることは科学のの力なしにはやれないわけだし、だから、生命とは何かとか我々がここに存在するのはどうしてなのかといったことを問い続ける人類の探究しんを軽蔑する気は全くないよ。ただ俺が一番面白く思えるのは何が起きるかわからない、どうなるかわからないっていう瞬間なんだ。そんなところかなあ。ああ、あと、マゾヒスティックっていうきみの表現は面白かったけど。先日、駄菓子屋に行ってね、チョコ・バーを二種類買って、一個は友達にやって一個は自分で食ったんだ。でもほんとは、友達にやった方が俺、食いたかったんだ。だけど俺の中のどこかで、友達にそっちをやるべきだっていう声が聞こえんたんだよ。何故だかわかんないけど。これってけっこうイギリス的なもんだと思うんだよな。自分よりもまず先に他人のことを考えろっていう。これってけっこうマゾな思考回路だよな」

………それってただ、ちゃんとした人間になるように育てられたってことなんじゃないの(笑)いやぁ、すべてのイギリス人があなたみたいだったら天国なんだけどなあ。

「わっはっは。じゃ、俺のマゾヒズムに関する論理は立派に破定したわけだ(笑)」

………でもやっぱり僕は、こんなメチャ速いBPMで「極端に狭い部屋のなかで次々に壁にガラス皿をぶつけ割ながら、ひたすらブンブンブンブン、ベースを楽しそうに弾きまくってる」あなたの音楽を聴くと、あなたっていうのは本質的に病んでいるのか、もしくは音楽を作る時にミソの中にハエが200匹ほど飛び回っちゃうような奇特な人だとしか思えないんですが、どうですか? 湧いてるでしょ、ハエが。




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