「根本的に、僕が音楽を作る動機というのは、自分の聴きたい音を自分のために作るという事なんだ。 だからこそ妥協が許されないし、他の人達が僕の作品を評価してくれることが僕には信じられないんだ。」(英MUZIK誌 1996年4月号)

「昼間のうちは部屋に篭って音作り。 辺りが暗くなると友達と車であてどなくドライブし、作った音をテープで流しては自己満足していた。 今はその頃よりは自分も少しは大人になったと思うけど、その頃のバイブレーションは今も生きているよ。」(英i-D誌 1996年7月号)

彼が最近音楽に専念するために中退するまでアート・スクール・オブ・チェルシーでファイン・アートを専攻していたことからも、彼が音楽を一つのアート・フォームとして捉えていることが理解できる。彼はまるで孤高の画家のように音楽を編み続け、それ故に突如周囲の状況が変化してきたことに自らを順応させることに戸惑っているようにさえ見えるのである。

「ここ3年の間、ずっとオリジナルの作品をライブで演奏してきたんだけど、たいていの場合は僕が演奏を始めるとフロアにいた人達の半分はいなくなってたんだ。 たいてい50%の人達はいなくなって、10%の人は本当に気に入ってくれているんだけど、あと40%の人達は唖然としてそこに立ってるんだ。 けど、状況は変わってきてる。良くなってきてるね。 今は以前より多くの人が僕の音楽を気に入ってくれている。それはある意味、僕には驚きだけどね。だって多くの人達がみんな急に評価してくれるようになるんだから。」(SONY TECHNO ホームページ11月「ワープ・レーベル」特集)

97年、トム・ジェンキンソンはシーンの注目する中、2月にはベネフィット・イベント、「ビッグ・チル」でのステージに立ち、4月にはワープ・レーベルからの第2弾EP"ヴィック・アシッド"をリリース、そして待望のセカンド・アルバム"ハード・ノーマル・ダディ"が発表される。

「(今度のアルバムでは)いろんなスタイルのものを取り入れているんだ。 ヒップ・ホップのトラックもあれば、アンビエントなものもあるし、とてもメンタルなドラム・ン・ベースのトラックもあれば、ジャジーなライブベース主体の曲も。 だからアルバムの趣旨といえば、それは様々な音楽を取り込んでいる点じゃないかな。 「もしきみが一つのスタイルの音楽しか聴かないんなら、このアルバムは聞かないほうがいい」というようなアルバム。 さっと聴き流せるようなものじゃない、そういうものとは全く異なったものだ。 要は、僕を何か一つの"戒律"に縛られるようなことのないミュージシャンとして紹介することがテーマだね。」(SONY TECHNO ホームページ11月「ワープ・レーベル」特集)

彼こそが本当に「ジャンル」という垣根を超えて自身のスタイルを音楽で表現していると呼べる数少ないミュージシャンの一人であるということが、このアルバムで実感できる。 先日のタルヴィン・シン(昨年トムと何度か共にステージに立った注目のUKパーカッショニスト)のバースデーパーティーでは、二人が演奏中のステージに突如ビヨークが飛び入りするなど彼を見るシーンのまなざしも熱くなる中、彼の「音楽探究」は止まることがない。

「僕がひとに知られるようになったのは、僕が何にも属さないからだし、これからそうあり続けるのもそれが前提だと思う。... 僕は、世の中にはいろんなやりかたがあることを知らせたいんだ。」

作成協力:Gonzi "Fresh" Merchan


1997 (C) Sony Music Entertainment (Japan) Inc.


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