1. Strawberry Sex
2. ex-girlfriend
3. Missin' you 〜It will break my heart〜
  [remix ascended]
4. Strawberry Sex(less vocal)

※「RealPlayer」か 「Windows Media Player」をご用意の上、どちらかを選んでお聴きください。

 言わば予告通りの作品である。彼は以前語っていた今年の活動方針――「新しいことに挑戦する、人をドキドキさせ、自分自身もドキドキできることをやる」――を実行に移しているだけなのだろう。それにしても、『Missin' you〜Itwill break my heart〜』からこの『Strawberry Sex』への飛躍は、『Miracles』から『KISS OF LIFE』の時よりも大胆。表題曲のタイトルや思い切りアッパーに弾けるファンクに戸惑ってしまったのは、平井堅を表すのに使い馴れていた形容詞がどれもあてはまらないから。じゃあ“お茶目”と言うべき? キッチュ?? ポップ??? セピア色でムーディーでクールな自分のカリカチュアを笑っている姿が、声の向こうに透けて見える。

 でも『Strawberry Sex』は遊び心だけで成り立った曲じゃなくて、“お茶目”なパッケージに真摯なテーマを包んでもいる。それは、「100万回のメールよりたった一度のリアルなぬくもりを」といったリリックから察するに、人と人をつなぐ手段が日々多様化する現代のコミュニケーション論、とでも言えるのかな。世界の上空ではたくさんのメッセージが飛び交いひしめきあっている今日この頃、距離や時間に阻まれることなくヴァーチャルに寄り添っていられるのも素敵なことだし、片やフィジカルなコンタクトの素晴らしさも忘れずに、と訴えているかのよう。アナログ/ハイテク、いろんな想いの伝え方があるし、スクリーンに映った文字も手を握り締めた感触も同じだけ有効なのだ、と。(勝手な想像だが)“歌う”という恐ろしく古典的な表現手段に生きる彼自身はどちらかというとアナログ派に見えるのだけれど、どうなのだろう? だから余計にレトロなファンクがハマっているような気もするのだけれど……。と同時に、“LOVE”という言葉の重みにおいてもさり気ないメッセージ性においても、“ポスト9月11日”の2作品(『ONE LOVE WONDERFUL WORLD』及び『Missin' you〜It willbreak my heart〜』)からの継続性を感じずにはいられない。誰かとつながって気持ちが通い合っているという確信は、お金じゃ量れないけど陽の光みたいに不可欠なもの。そんなささやかな喜びを大切さにしようって、世界はそういう方向に価値観を転換しなくちゃならないはずなのだから。

 一方のカップリング曲の『ex-girlfriend』は、表題曲のファンクの匂いを微かに残したコンテンポラリーなR&B。イントロからして王道の平井堅!と早合点してしまいそうになるが、ここにも初対面の彼がいる。抑制の効いたヴォーカルと飾らない言葉で淡々と綴った詞が、表面的なストイックさの裏でくすぶる情熱を仔細に描写。“僕”という言葉にこんなに強いリアリティを感じたことはかつてなかった。

 両極端な“平井堅的”なるものを映した以上2曲に対し、ラストの『Missin'you〜It will break my heart〜』のリミックスはさらに別の次元に佇んでいる。そもそもベイビーフェイスの作品はリミックス困難なのが常だと思うのだが、そのことを踏まえて選ばれたのがマリンバという意外な楽器(奏するのは、バークリー音楽院の講師を務める世界的なプレイヤー、三村奈々恵氏)。メロディと言葉というふたりのコラボレーションのエッセンスがマリンバの幻想的で暖かな響きによって無重力な空間に運ばれ、そのスピリチャルな美しさが“魂の永遠”というモチーフを際立たせている。ただ溜め息をつくのみ、だ。こうして出発点では想像もできなかった場所で終わってゆく本作、たった15分の間にアルバム1枚分の距離を旅した気分。思えば平井堅が昨年発表したシングルは2枚だけで、今年も現時点では同じペース。今の彼は確実に歩を選んでいる。一歩ごとに自分を試し、聴き手をも試している。そして「えっ?」とびっくりしながらも結局「やっぱり平井堅なのよね」と納得してしまった瞬間に、我々は彼の勝ちを認めざるを得ないのだ。

新谷 洋子