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渋谷と横浜とを結ぶ私鉄。代官山、中目黒、田園調布といった駅が並ぶ路線の、やや渋谷寄りに位置する駅近くにその店はある。
レンガの壁、木の扉、珈琲豆の麻袋、樽…店構えの要素だけを取り出せば、それは喫茶店のお約束の羅列に見えるが、実際に受ける印象はずっと違う。昔ながらの喫茶店にありがちな無骨な暖かみは全くなく、むしろきちんとデザインされた緊張感が全体を貫いている。ぱっと見は、ワインが美味しいダイニングバー、といった趣だ。
店内に入ると、ほの暗い照明と、奥に長いカウンターとノラ・ジョーンズ。向かって左手、カウンターの中に30代と思しきマスター。向かいの客はやはり30代と思われるカップル。コーヒー談義に花を咲かせている。うむ。少し目が慣れてくると、アンティークの棚、タイプライター、レジスター、スタンドといった品々が目に入ってくる。
奥の席に座り、頃合いを見て取材に来た旨を告げる。飛び込みだったので少々不安だったが、快く引き受けてくださった。
マスターは久光氏、39歳だという。少し川崎麻世似(失礼か?)の、瞳に力を持つ男性だ。語り口は張りがあり、柔らかい。
水が美味しい。シーガルフォーを使っているそうだ。メニューを見ると、何と60度のお湯で珈琲をいれるという。そして、一つの豆につき4種類(レギュラー、スペシャル、デミタス、デミタスW)のいれ方が存在する。取り敢えず、ブレンドのデミタスを注文する。
久光氏を観察していると、なるほど、ポットの湯に水を注しながら温度計で調節している。一つ一つの動きに無駄がなく、華がある。まるでバーテンのようだ。そう言えば内装も喫茶店というよりはバーに近い。
飲んでみるとまさに濃厚で、香りと共に甘みがまず拡がり、後味のどっしりとした苦味までカラフルな味わいが展開する。乱暴に言えば、水出しコーヒーのすっきりした甘み、そして湯でいれたどっしりとしたコクと苦味のいいとこ取り、といった所だろうか。
珈琲を味わいながらさらにお話を伺う。この店を始める前、様々な客商売を経験されたこと、しかし独自の味を作り出す為に、敢えて喫茶店には弟子入りしなかったこと。車好きで、ポルシェ911を3台乗り継いだ末に今は現行のスープラに乗っていらっしゃること。そして一番驚いたのが、店内のBGM用にクラシック用とジャズ用、二通りのアンプ&スピーカーを使い分けておられること…。いやはや、彼のこだわりは並大抵ではない。
今、この時代にあってカフェでもコーヒースタンドでもなく、喫茶店をやる意味〜ただレンガにツタをからませて、古き良き喫茶店のコスプレを気取るのではなく〜その一つの回答がここにあると思った。伝統や歴史に対する批判精神を持ち、かと言ってそれらを全否定するのではなく、良いと思う所は‘サンプリング’し、モダンさとオリジナリティとの融合を図る。その組合せのセンスを提示する。ジャズを流してはいるが、サラでもエラでもなく、ノラ・ジョーンズ。こだわりと軽やかさのバランス。
そう、この店はまさに‘ニュー・クラシック・喫茶’なのだ。彼のセンス、美意識が店内に余すところなく表現されている。伝統に対する憧れ、愛も滲ませながら。
彼の気さくな、熱を帯びた語り口、漂う細やかさ。見え隠れする確固としたこだわり…この店は本当に彼そのものだ。こんな店を作り上げた久光氏を、正直、羨ましくさえ思った。
<DUN AROMA>
目黒区平町1-22-12 レオピンニサートビル1F
(東急東横線 都立大学下車 平町商店街徒歩2分)
TEL:03−3718−4434
営業時間:11:00〜24:00(ラストオーダー23:30)月曜定休日
web site:http://aroma.starless.net
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