2003.10.28[17:08] 人生ノックオン 桜井秀俊
 「センスの恐怖」ですか長嶋さん、うまいことおっしゃる。深―く同感致します。なんか俺、パジャマ買っただけなのにえらくぬきさしならない問題にかち合っちゃったような…。面白いですね、話すということは。
 で、はい、行って参りましたとも秩父宮ラグビー場。ゲッ!埼玉の奥の奥かよ!と思ってたら都心も都心、神宮球場の隣にあるアレがそれなんですってね。応援しに行ったのはN体大なのですが、その日の対戦相手はあろうことかW大学我が母校。在学中は見向きもしなかったくせに、ようやくその気になったら応援するのが母校の対戦相手とは。このへんのひねくれっぷりがパンク・ニューウェイブ育ちの宿命か。
 生試合の凄まじさがコレ、初体験の身には少々刺激が強く…。あんなイノシシみたいなのに力いっぱい激突するわされるわ、5人も6人も山積みになって押し合いへし合いしまくるわ、死んじゃう死んじゃう、死んじゃうって!往年のラッシャー板前氏よろしく目をむく僕をよそに、まあ皆さん激しく行ってらっしゃるイッてらっしゃる。
 長年遠くに眺めていた大陸の、ずっと気になっていた所はここでした。‘己の肉をぶっつけ合う’。思いや情熱をぶっつけ合うのは音楽だって得意分野、生演奏の現場においては肉体をフル稼働するはこれ鉄則中の鉄則。とはいえ、今この眼前で繰り広げられている「ラグビー」ってえ奴のように、ここまで直接且つ前提としてぶっつけ合われるとやはり、ショックを覚えざるを得ません。こっちだって音楽に全身全霊を込めてぶっつけてえのさ、だけど‘全身’についてはラグビーの持つ単刀直入さにはかなう気がしねえのさ。僕の中にもちゃんとある衝動、文化系的活動ではちょいと燃やしにくいそれを、彼らは緑の芝生の上でボーボー燃やしている。羨ましくて声が出る。
 ルールもなにも全く知らない僕ですが、N体大が著しく劣勢なのは明らかでした。W大はもうラグビーエリートって感じ。エリートオーラってスポーツ選手にも憑くものなのね。W大応援席の雰囲気や漂う一体感も何だかコンサートっぽい。完膚も容赦も一切無い、ほぼ一方的な試合展開にN体大の皆さん、ヤル気を失っても仕方の無い状況ではありました。しかしながらどんなに小さくとも絶望は、恐ろしい。飲み込まれて折れてクサっちゃった選手はもう、立ち直れないんですね。そんな中、後半ダレてきた相手(母校だけど)のボール(でいいの?アレ、丸くないけど)をインターセプトした選手がいました。あの夜、マイヤーズに感心していたT君!立ちはだかるエリートを一人、二人、三人ぐっぐっぐっとかわし、けっこうな距離を独走してトライを決めた瞬間、脳味噌から謎のお汁がびゅーっと。あれだけこてんぱんにヤられていて、仲間のバランスも危うい中、ひたすらチャンスを待ち続け、やってきたそれを決して逃さず、見事にキめてみせたT君。かっこ良すぎるぜT君。隣席の三歳になる娘に向かって「ああいう青年とお付き合いしなさい」と言ってやりました。無視されましたが。いやあしかし純度100%スポーツの感動、頂きました。大変御馳走様でした。また応援しに行くね。
 ノーサイド(うん、良い言葉ですな)の笛を聴き、メインスタンドから外苑前の駅へ向かう人波の中、胸の内の新しい場所に火が灯っている感覚を私、認識いたしました。これは非常に大事な灯火のように思われます。どんなに小さくとも、我々は絶望に飲み込まれるわけにはゆかない。ましてそいつがデカい奴ならなおのこと。「よーし、俺も頑張るぞー」などと、ミもフタもない感想を持っている自分に笑いました。なんだよー秀俊、まだまだピュアじゃん、ピュアぞうじゃん。桜井ピュアぞう35歳、子持ちです。よろしく。なんでしょうこのシメは。

2003.10.24[22:51] パス いとうせいこう
長嶋さん、いらっしゃい。
まあ気楽にテキトーな感じでどんどん書き込んじゃって下さい。
って、ここは桜井の領地なんですけど、俺が代表して言ってみました。
さて、長嶋さんも続報を待っているラグビーですが、桜井よ、そいつはいい趣味を得たぞ。
俺は意外にラグビー観るのも好き。ルールなら大体のことはわかる。で、やっぱりあれはイギリス系スポーツの原点だよね、知らないけど。
俺的に言うと、芝生=イギリス系スポーツということになり、つまりスポーツに芝生というものを導入したのがイギリスの独特さなのだけれど(ゴルフ、テニス、フットボールなどなど、なぜか芝生の上でやるんだよ、つーか芝生の普及のためにスポーツ考えたといってもいいくらいの話だ)、ラグビーだけは違うんだよね。あくまでも土。歴史上、ラグビーは芝生以前に位置するわけで、だからこそ原点だと言えるわけさ。芝生というメディアが先行していない生なスポーツ。
ぎゅーぎゅー押しあうのも息が詰まるし、サイドに展開するのもハラハラする。で、ノーサイド! いい言葉だよね、ノーサイド。ゲームセットなんて即物的な用語のつまらなさがよーくわかるよ。これからはコンサートの終りを指す言葉もノーサイドでいいんじゃないかと思うくらいだ。送り手と受け手が截然と分かれていない感じがするでしょ? 演奏者と客が同格でにらみ合ってライブが進んでさ、終わると客が舞台に平気で上がってる感じ。これって、インターネットでスレッドが立ってばんばん同時中継が流れてる今のこの時代に合ってない? えーと、文の勢いでどうでもいことを書きました。
じゃま、ラグビー的に球は回したよ。誰か少し後ろから飛び出すようにつないでくれ。

 

2003.10.21[17:06] マイヤーズソーダ? 長嶋有
 突然しつれいします。
 いきなりの抜擢で驚きましたが、しれっと書かせていただこうと思います。あ、小説書いてます。長嶋有です。

 はじめてなので、最近のお二人の話題で思ったことをつらつらと。

 ナンシー関さんの不在を嘆く声は、たしかに、今年になってあちこちで聞かれるようになった気がする。偉大なことは分かっていたつもりだけど、実感がさらに遅れてやってきた、その時間差が面白い。
 以下は、いわゆる紋切り型の「いつまでも嘆いても仕方ない」的な発言と似てしまいますが、我々はナンシーさんの文章で少なくとも「ものの見方」だけは授かったのではないか。よい文章は、情報や意見だけでなく、視点、視座というものを伝達する。読んでいてなにかを具体的に「手渡された」感触がありませんでしたか。
 ただ、我々には彼女ほどの技量がない。そこにこそお二人の絶望もあるわけですが、そこで提案したいのが「分業制」。手分けして見張ればいいんだ、などと夢想するのだが、駄目かなあ。俺はヤワラちゃんだけ見張っておくから、ガッツ(石松)は君頼んだ、みたいな。全員でガッツ取り合いになったりして。フライドチキンのCMで具志堅さんの「がぶっとく?」のあやしい発音を聞くたびに、ああナンシーさんに聞かせたかった、とか思いますね(変な感傷)。

 パジャマショック問題は、川上弘美さんの新作「光ってみえるもの、あれは」にも出てきます。下着とパンツで寝てしまう友人と、寝間着に着替える「僕」が互いに感じるギャップ。この問題は現在の男子高校生にまで連綿と受け継がれているのに違いありません。僕はいとうさんと同様、桜井さんの言い切りの強さに怯むクチですね。シャツの裾はズボンにいれないとか、スパゲティじゃなくてパスタとか、「当然のように」ひたひたとやってくる「センス」の恐怖よ。

 眠りについては、これは寝間着と分けて考えたいところでして、いとうさんの「たくさん寝れ」にはまったく同感。そんな言い方してないか。僕は九時間、多いときは十時間は寝ます。で、長くて三時間しか書きません。知人で作家なのに九時五時で八時間働くって人がいるけど、僕が同じことしても、そのうち六時間は鉛筆を鼻と口の間にウーってはさんで頬杖ついてるだけの気がする。でも八時間働く人の小説おもしろいもんなあ(角田光代さんです)。あんまり寝過ぎると鬱になりやすいってきいたけど、どうなんだろう。

 ラグビー問題は、続報を待ちます。待ちます、って偉そうですね。すみません。
 今後ともよろしくお願いしますね。

2003.10.17[20:27] イソップしか知らない 桜井秀俊
 プギャですか、いやあ笑いました。ひらがな表記でおしりにびっくりマークを施せば「ぷぎゃ!」ですもんね。いやあ最高最高。で、え?プーさんのパジャマですって?全国の女性ファンの母性本能を直撃す爆弾撃発言ですよせいこうさん!Uさん(09.04号「続・ロケンロール」に登場した僕の地元の飲み仲間、40歳、独身、自称リアルパンクス)は人生一貫してグンゼのブリーフを履き続けているという事実を知った時に近いショック。彼が昔、髪をつんつんに立てて中指もおっ立てつつTシャツ破いてビシッとキめた皮パンのその下に純白のブリーフをそっと隠していたように、六本木や芝浦のインクスティックで熱いラップをぶちかましていたあなたは、お家に帰ればプーさんだったなんて…。か、可愛い、可愛いすぎる。そのギャップがなんだかモテそうで悔しくすらある。
 で、全く関係ありませんがラグビーです。今日はラグビーの話を。
 “ラグビー”
 ‘80年代をパンク・ニューウェーブの波にもまれて10代を過ごした人間にとってそれは対極も対極、とんでもなく反対方向に存在する大陸。それはまるで当時のソ連とアメリカ、あんまり対極なもんでかえってそれがどんなもんか気になっていた大陸、それが“ラグビー大陸”
 ある夜、ひょんなことから某大学ラグビー部の選手達と酒を酌み交わしました。同じ人間とは思えないガ体、一人称は「自分」で語尾には「〜っス」、噂に違わぬ行き届いた上下関係、不器用ながらも我を出しすぎず場の空気を大事にする姿勢がいわゆる「One for all , All for one 」の思想を感じさせる。自分の気質、環境、歩んできた人生の1から10まで、見事に一つも接点が御座いません。
 「すいませーん、マイヤーズソーダ一つ下さーい」
 「いや、桜井さん、さすがおしゃれなの頼むっスね、自分、憧れるっス!」
 「いや、別にそんな…」
 全くかみ合わぬまま夜は更けつつも、彼らの何かにどうしようもなく惹きつけられてしまった僕は、彼らの試合を応援しに行くことを約束して別れたのです。
 気分はさながら初めての海外旅行前夜、なんせ長年遠くに眺めていた大陸ですから。なんだかテンション上がっちゃって、まだ行ってもいないのにこんなに書いちゃった。ルール?勿論知りませんとも!とりあえず、行って参ります。

2003.10.17[17:54] うすら白い視界の中で いとうせいこう
 遅くなりました。
 遅くなったからといって返信を練り上げていたというわけでもない。
 ある種のショックを受けていたわけです。
 だって、男子にとってパジャマは卒業すべきものと桜井が書いてんだもん。
 俺としては、昔桜井と、正確に言えば真心と三人でやってた『ヒマラヤ』という番組で、電気かみそりはオヤジの使う物と君ら二人にフツーに言われた時以来のショックだったのです。つことはあれでしょ、パジャマはめちゃくちゃに、当たり前に、ダサいってことなんでしょ? フツーに言って、つまりしごく一般的常識として、おしゃれなヤングはパジャマを着ないってことなんでしょ? 
 じゃ、桜井はこれまで何を着て寝てたんだろう? 俺は君の文章を読んだ瞬間、目の前がうすら白くなって、五里霧中な気分になったものです。正直、想像もつかなかったし、今もつかない。Tシャツと下着なの? おしゃれなヤングはみんなそんなに寒い格好で寝てるのか? それともまさかあれか、裸んぼうなのか? だとすると、シーツはやっぱり毎日変えるものなのか? 肩はどうだ? いくらなんでも裸んぼうじゃ肩が冷えるだろう。てことはあれか、あのなんか通販で売ってる“肩のとこだけ特別なタオルが付いてる掛け布団”とかをヤングは使用してるわけなのか?
 かくいう俺はこの十年、浴衣で寝てるわけです。冬は寒いからネルの浴衣。でもその前はフツーにパジャマだった。それもプーさんの柄が入ったやつ。かなり気に入って着てたんだけど、たまたま浴衣が便利だと気づいてそっちに変更した。帯で腰が冷えないし、片肌脱いでみたり襟をきっちり閉めてみたりすると、温度調節の幅が非常に広い。つまり、俺は特にパジャマ憎しの思いで浴衣にしたわけではないのです。
 だからもう、ほんとにびっくりした。パジャマ以外の寝巻きは浴衣しかないと俺は固く信じ込んでいた。俺は世界の半分も知らない男だった。もしかして、ヤングは俺が知らない特殊な寝巻きとかを着てるのかもしれないとさえ思い、今もドキドキだ。「え、せいこうさん、プギャを知らないの?」みたいな、そのプギャでも重圧着でもシュレギン5でも、とにかく想像を絶するような名前の衣服を、この俺だけが知らずにのうのうと浴衣で寝ていたのかと考えると、また目の前がうすら白くなってくる。
 まあ、そのショックは自分で癒すとして、桜井が快適な眠りを選んだのにはきっとわけがあるよ。しっかりと眠りに包まれるべき時間を、君は欲した。これは大変けっこうなことだと思う。働き盛りは眠らないというようなおかしな思い込みが社会に残っているけれど、俺はむしろいい仕事をするやつはよく眠るべきだと思う。そのかわり素早く仕事をこなす。直観が消えないうちにそいつをがっちりつかまえるにはスピードが必要で、そのスピードはよく眠ったやつにだけ宿るのさ。単に仕事の本数だけを競っているような連中を見てみたまえ。直観のちょの字もないようなことを垂れ流していやがるよ。
 ということで、そのパジャマで、あるいはそれ以前に着ていた想像を絶するような名前の衣服で、しっかりと眠れ。起きたら電気以外の動力で動くかみそりを持ってヒゲをそり、スピード上げて直観をつかまえろ。
 俺はその頃、まだ浴衣で寝てるだろう。俺のスピードも捨てたもんじゃないぜ。

2003.10.07[18:41] ’03 秋冬 桜井秀俊
 ふと、パジャマにしようと思い立ちました。

 男子にとってパジャマとはブリーフよろしく人生の比較的早い時期に一度卒業するものであります。だってなんか可愛くて恥ずかしいじゃないですか。パジャマの「ぱ」からしていきなり可愛らしい。「じゃ」でつないで「ま」で終わるのもにくい。「ぱ・じゃ・ま」だもの。きゃわうぃうぃー。思春期ならば心に芽生えた‘男’が叫びだす。「っせー!眠くなったらGパン脱いでさっさと寝ろ!」と。うーん、男らしい。その点パジャマは眠い目をこすりながら一生懸命ボタンをとめる必要があり、うーん、可愛いらしい。「バカヤロー!」と上官(何の)にぶん殴られそうだ。パジャマパーティーなんつったらもう可愛さの極致ですな。「ぱ」もふたつ。この世で一番行けない(行きたくない訳ではない。いや、すんごく行きたいけどそこに居座る自信が持てない)パーティーでしょ。
 そんな青春の自意識をくぐり抜けた2003年秋、単にもっと快適に眠りたくてふと、パジャマにしようかと思い立ったのです。ああ、あのこだわりは一体何だったのだろう。振り返るな、前へ。
 衣食住の衣に「美」ではなく「快適」を求める話ならば、1998年以降グンゼ党員を名乗る私としては迷うこと無く大丸ピーコック2F紳士肌着コーナーへ。ありますあります、ハンガーに吊され並ぶ綿100%のグンゼ君達が!デザインに関しては全くヤル気を感じさせない何だか入院中のおじーちゃんを思わせるチェックの青が眩しいぜ!早速Mサイズ一点(2900円、安い!)を購入、帰宅、そして試着。
 感動した。
 グンゼの新商品を初めて着る時、必ず感動してしまう。それを今まで幾度となく繰り返してきたけれど、毎度毎度同じ人間をきっちり感動させるなんて、これって凄い事だと思うのですがどうでしょう。いや、今回のも、凄い。持った瞬間の軽さもさることながら、袖を通した時の肌触りや包まれ感、「あんた俺のお母さんか」と疑いたくなる程……優しい。日夜男の肌を研究し続けている様が伺える。何よりびっくりしたのは、こいつ着たらなんだかベッドで寝たくなった事。まだ夕方なのに。人をその気にさせるという事は、その衣装にそれだけの力があるという事。それがこれ程のリーズナブルなお値段で…。箪笥に眠るジャン・ポール・ゴルチエはもう用ナシだ、捨てちまおうか。いや、不意のお客様用に…。
 ちなみにオダギリジョーさんをモデルに起用したYG(ヤング・グンゼの略)の新商品、YG−Xも凄かった。パンツ革命。これからゆっくり実生活における履き心地等をチェックしていきたい、このように考えております。場合によちゃあタンスのパンツコーナー総入れ替え。にしてもこれほど感動的な新作達は一体いかなる行程を経て生まれるのだろうか?しみじみ思う。生まれ変わったらグンゼの社員になりたい、と。俺さ、精魂込めて働くよ。いらない?あーそう
 桜井秀俊、2003年冬に向かって第一歩を踏み出しました。夜のオイラは青のチェックでございます。ご所望とあらばせいこうさん、一着お送りしますが、如何?

 追伸・「うんちくブック」、最高でした。
余談ですが編集のT女史には、以前真心の本の編集をして頂いた事があり、これは偶然なのか、それともある種の必然なのか…。おかしかったです。

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