早いもので、6年連続6回目を迎えた年末の日本武道館公演。今年のテーマは「POWER OF MUSIC〜オールリクエストスペシャル〜」ということで、アンジェラ自身の曲はもちろん、オールジャンルの楽曲からリクエストを募り、その投票結果を元に構成されるステージだ。昨年9月にリリースされたアルバム「WHITE」では”あんな曲”や”こんな曲”がカバーされていただけに、きっとすごい選曲になるはず…!そして今回はもうひとつ、バンドでも弾き語りでもない”連弾”というスタイルでどんなステージが繰り広げられるのかというのもポイント。期待に胸膨らませた1万2千人が待つ会場に、大きなお腹のアンジェラが満面の笑みで現れた。日本武道館でピアノ弾き語りのワンマンを行なったのは彼女が初めてだが、おそらく、出産直前のアーティストによるワンマンというのも前代未聞なのではないだろうか。鳴り止まない拍手の中、ゆっくりステージ中央へ向かい、1曲目「アメイジング・グレイス」を静かに歌い始めた。ピアノを弾いているのは、今夜のパートナーである河野伸。アンジェラがピアノの師匠と呼ぶ河野さんは、これまでに彼女の曲を数々手がけてきたアレンジャーであり、昨年の武道館公演にも登場している大切な音楽仲間だ。絶対的な信頼感のもと、祈りを込めた歌声が響く。さまざまな問題を抱えたままの日本を包み込むように、そして、それでもやってくる新しい年への希望を強く抱くように。雲の切れ間から射し込む光のような照明が美しい、神聖な雰囲気のオープニングとなった。
「今年はいろんなことがあった1年でした。東北の大震災、台風など、まだ辛い思いをされてる方がたくさんいらっしゃいます。私には歌うことしか出来ないけど、今夜は心で、魂で歌いたいと思います」
この日のアンジェラは、いつもどおりのジーンズとコンバース、そして毎回恒例のナンバーTシャツという出で立ち。「今週から9ヶ月目に入りました!」という報告とともに、今年のナンバー「22」の意味は「妊婦」だということも発表 (笑)。爆笑のエピソードにも祝福の拍手が寄せられ、ハッピーなムードの中、ステージは進行していった。
今回もっとも多くのリクエストが寄せられたとのは、3曲目に歌われたレディー・ガガの「Born This Way」だったそうだ。話題性もあるだろうが、自分自身を愛し、胸を張って生きていくことを歌ったこの歌詞に注目してリクエストした人も多かったはず。アンジェラのピアノと河野さんが操る数々の鍵盤類が分厚いダンスビートを叩き出し、武道館の”リトルモンスター”たちを大いに盛り上げた。続いては「My Grandfather’s Clock」。アルバム「WHITE」にも収録されているので、ライブで聴けることを心待ちにしていた人も多かったのではないだろうか。先ほどの「Born This Way」とは全く違う時代の、全く違うタイプの曲だが、どちらも命や人生を見つめた楽曲だ。日本でおなじみの「大きな古時計」とは趣の異なる世界観を味わいながら、チクタクとそれぞれの人生の時を刻む音に耳を傾けた。
さてアンジェラの武道館といえば、「(勝手に)英語でしゃべらナイト」。アンジェラ先生による解説のもと、洋楽の歌詞の意味をひも解きながらみんなで一緒に歌える人気コーナーだ。今回の教材曲はアバの「DANCING QUEEN」。途中にはAKB48の「ヘビーローテーション」や、振り付き(!!)の「マル・マル・モリ・モリ!」、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」などが歌われたのだが、相変わらずのサービス精神に脱帽!おそらくこのあたりはリクエストに入っていた曲だと思うので、そんなアンジェラをバッチリ理解しているファンのみなさんのセンスにも拍手だ。大いに盛り上がった後は、客席も総立ちになったライブの人気曲「たしかに」。ここではステージ後方にいた河野さんがアンジェラの隣に座り、2人で1台のピアノを連弾する場面も見られた。プロのミュージシャン同士というよりも、その楽しさや喜びを無邪気に楽しむ子供のように指先を踊らせる2人。次第にヒートアップする演奏に、客席からも拍手や歓声が沸き起こった。
NHK紅白歌合戦での裏話などを挟みつつ、邦楽で最多リクエストを頂いたという今井美樹の「PIECE OF MY WISH」と、ビリー・ジョエルの「Honesty」を、大爆笑のMCからじっくり聴かせるバラードへ、サラリと変換してしまえるのもアンジェラならではだ。そしてステージは、今年ならではの見せ場であるピアノバトルに突入。曲は、ジャズのスタンダード「My Favorite Things」だ。おなじみのメロディーを、2台のピアノが熱く奏でていく。これまでも数々の楽曲でその感性をぶつけ合ってきた2人だけに、その駆け引きがたまらなくスリリング!「22」じゃなければ(笑)、きっとサイドテーブルにワインが用意されているんだろうなと思わされるような、オトナな時間を堪能することが出来た。
ライブ後半戦は、1月11日にリリースされる洋楽カバーアルバム「SONGBOOK」から。マドンナの「Material Girl」、そしてシンディ・ローパーの「True Colors」の2曲がどこよりも早く披露された。今回のアルバムは全編ピアノ弾き語りで、歌詞はアンジェラが書き下ろした日本語詞。これまでもシングルのカップリングなどで披露されてきたが、彼女のフィルターを通るとこうなるのか!という感動が一気に味わえる作品だけに、発売に先駆けて2曲もライブで聴けたのは何よりのプレゼントとなったはずだ。美しいエンディングの余韻は、そのまま河野さんがこの日のために書き下ろしたというオリジナルのインストへ。「始まりのバラード」のPVにも出演されたダンス・グループ「ユニット・キミホ」による美しいパフォーマンスが披露され、幻想的なサウンドとともに武道館を包み込んだ。
アンジェラのライブ「MY KEYS」では、座席に必ず2つの封筒が用意されているのだが、この日のひとつめは「(勝手に)英語でしゃべらナイト」で、そしてもうひとつをここで開けることとなった。赤い封筒の中身は、ひとひらの雪の結晶。
「今夜のプレゼントを白い雪の結晶にしたのは、9月に出したアルバムのタイトルが「WHITE」だから。実は2010年の暮れから曲作りにもがき苦しみ、部屋にこもって白紙のノートとひたすら向き合ってました。でもある時、真っ白、つまりホワイトっていう色には、リセットの意味があるんじゃないかと思ったんです。本来の自分を取り戻すとか、見えなくなった道をもう一度見つける力があるんじゃないかって。人生は何度でもリセット出来る。白紙に戻すというのは、決して無やゼロじゃない。失敗しても新たな人生のキャンバスを色付けていくためのホワイトでもあるはず。この小さな雪の結晶には、大きな希望が込められています」
次の曲は、そんな苦しみの末に完成したアルバム「WHITE」の中でもたくさんのリクエストを頂いていたという「津軽海峡・冬景色」だ。迫力の連弾、魂からの歌声に場内の空気が震えているよう。鍵盤に向かう2人の横顔にもいっそう熱が入る。名曲が、さらなる力を得てその命を輝かせていた瞬間だった。続く「始まりのバラード」では、再び「ユニット・キミホ」の6名を迎えて。ジャーニーのカバー「Don’t Stop Believin’」ではアンジェラもピアノとキーボードを使い分けながら力強いサウンドを構築した。本編ラストの「Power of MUSIC」では躍動感たっぷりの四つ打ちに導かれ、会場も総立ちに。「Power of MUSIC」という言葉は、きっと今夜ここにいるみんな=音楽の力を信じるすべての人たちの心そのものだ。何度も繰り返されるコール&レスポンスの中、会場を隅々まで見渡すアンジェラの表情は本当に嬉しそうだった。
アンコールでは、恒例のグッズ紹介も。「今回販売しているナンバーTシャツの数字が「39」なのは、みんなへの感謝「サンキュー」の気持ちで作ったけど…、ホンマの意味は紅白終わったら「産休」なの!」と笑いを誘う。生の歌声がしばらく聴けないのは淋しい限りだが、きっとさらにパワーアップしてステージに戻ってきてくれるはず!そんな願いを込め、紅白歌合戦でのパフォーマンスに先駆けて披露された「One Family」を聴く。
「これは自分の強い思いが詰まった曲です。人間はたくさんの境界線を引く生き物。例えば住んでいるマンションの隣の部屋との境界線もそうだし、精神的な面でも引いてしまう。そういうものをなくしていけば、人間という孤独の点が線になって、大きな輪に、家族の輪になっていくんじゃないかという願いをこめました」
つながりという言葉がたくさん聞かれた2011年だったが、知らず知らずに引いてしまっている境界線をなくすことはそのための第一歩だ。自分に何が出来るかと考えるならば、まずは自分自身を見つめることから始めてみる。そんな大きなメッセージを投げかけられたような1曲だった。
「来年は元気な子を産んで、しばらく休んだら、暮れには全国ツアーをやろうと思ってます!」
嬉しい発表もあり、ライブはいよいよラストの1曲に。ステージにはアンジェラがひとり、曲は「This Love」だ。「諦めかけてもチャンスは必ずある。重ねたその手をもう一度握れば思いは届く」。彼女の強い気持ちが込められたその歌には、マイクを通さなくても完璧に聴こえてくるほどの迫力と凄みが宿っているように思えた。これまで聞こえてきたどの拍手よりも長い長い拍手と歓声。そして、アンジェラはこれまでのどのライブよりも長く頭を下げたまま、その音を心に刻み付けていた。去り際には、一瞬だけお腹をさすって照れ笑い。新しい命とともに過ごしたこの夜は、アンジェラだけでなく、会場にいたすべての人たちの胸にも、熱いものが込み上げる時間となったはずだ。
