20世紀最後の、夏の定番ソング/川勝正幸

 チャッピーはひいきされてる。と、 最近、諸先輩の歌姫たちから嫉妬されているらしい。確かに。
不況の昨今、なぜ かチャッピーの周辺のみ、景気がいい感じ。
 新人なのに、ひな祭りに出た「 Welcoming Morning」、こどもの日発売の「 Good Day Afternoon」と、共にマキシ。
 7月7日リリースの『七夕の夜、君に逢いたい /水中メガネ』は"短冊"であるが、これは七夕にちなんでのことだというし。曲タイ トルに合わせて浴衣と水着の着せ替えジャケの上に、両A面感を出すために8センチCD 盤が2枚収録。おまけに、ピクチャー・ディスク。これまた、豪華すぎる仕様である 。
 しかも、スタッフはそれ以上にすごいメンツなのだ。「七夕の夜、君に逢い たい」の作詞・作曲は、なんと松本隆&細野晴臣コンビ。ご存じのように二人とも日 本のロックを立ち上げたはっぴぃえんどのメンバーであり、松田聖子の「ガラスのリ ンゴ」(83)や安田成美の「風の谷のナウシカ」(84)をはじめ、歌謡ポップスのヒット ・メーカーとしても有名である。彼らが一緒に仕事するのは、6年ぶりだという。
 演奏はTIN PAN ALLEY。70年代半ばに活躍したサウンド・プロデュースまで行うス ーパー・バンドで、荒井(現・松任谷)由実、矢野顕子、小坂忠、スリー・ディグリ ーズほかの作品を手がけた。彼らが洋邦の音楽の垣根を壊した先駆者たちといっても 過言ではない。 ベース:細野、ギター:鈴木茂、ドラムス:林立夫、キーボード: 佐藤博、パーカッション:浜口茂外也−−−今回の5人のメンバーが集まってレコー ディングしたのは約20年ぶり。今年に入って鈴木(G,Vo)、佐藤(Key)、林( Co-Producer)がTALK AGEというバンドを結成、ちょうどあったまっていたところに 、チャッピーの話が来て、乗っていただいたというわけである。ナイス・タイミング 。
 素晴らしい才能を集めたからといって、素晴らしい音楽ができるとは限らな いのが世の常だが、今回は魔法が起こった。松本さんの詞は、"路面電車"というフレ ーズなど松本節全開。とはいえ、聖子、マッチ、太田裕美、斉藤由貴、薬師丸ひろ子 ・・・の時と同様、作詞家としてだけではなく、歌手を育てていくようなプロデュー ス度の高い詞だ。歌の世界はチャッピーのディスコグラフィを横目で睨み、朝( Welcoming Morning)、昼(Good Day Afternoon)ときて、夜だし。「ほら涙 味見 してみて」と、チャッピーの少女から女への成長を促す言葉を挟む。ゲンズブールに 負けぬ調教ぶり、いや、作詞術である。
 細野さんの曲には東京発エキゾチック ・サウンドの名盤『はらいそ』(78)にも通じる浮遊感あり。
サウンドは生演奏と ループの絶妙な組み合わせ。四半世紀以上音楽を奏でてきたベテランでなくては出せ ない音でありながら、1999年でしか聴けぬ音になっている。総てにおいて「長いこと 離れていたのに 別人にならなかったね」感いっぱいのコラボがうれしい。
 チ ャッピーは出身がパソコン上の着せ替え人形だったということもあり、歌手デビュー 以降、毎回、声も着せ替えしている。「七夕の夜、君に逢いたい」の声は、今までも 良かったけれど、個人的には今回がフェイヴァリットなり!と告白しておく。
  このようにチャッピーの「七夕の夜、君に逢いたい」はピースな出逢いの数々によっ て生まれたものだが、何気にラジオやテレビから流れても「いい曲だなあ」と思える 強さを持っている。たとえば、「サーファー・ガール」や「イパネマの娘」や「真夏 の出来事」の如く。世紀末を越えても、夏の定番ソングとして愛されそうな予感がす る。