10月30日 監督:岡村天斎
今回はアニメーション制作技術の超裏技『線撮り』について説明しましょう。
本来アニメーションの編集、アフレコ、ダビング等は、全ての画面が出来あがってから行われます。
アフレコなど、多くの声優さんのスケジュールを押さえなければならない関係上、早々に日程が決まります。
もちろんテレビなどなら放送日程も決まっています。
しかし、絵コンテが遅れる、作画作業が遅れる、制作進行の突っ込みがぬるい、準備期間の不足などの原因で、その日程までに絵の作業が終わらない事があります。
そういう時に行われるのがいわゆる『線撮り』です。
彩色されてない原画、動画等をそのまま撮影してタイミングをとるのです。

『線撮り』にもいくつかの方法があり、その時の状況によって違ってきます。

まずは、『タイミング撮』
これはセルは出来上がってるんだけど、背景が上がってないとか、彩色は上がってるけど、エアブラシを入れる暇がないとか色間違いがあるのはわかってるけど直してる暇がないとかいう場合に行われます。上のような状態のセルをリテーク覚悟で撮影するというやり方です。

それから次は『動撮』
これは色を塗ったセルではなく動画をそのまま撮影するやり方です。雰囲気はよくわかりませんが、動きははっきりわかります。
でも最近では、動画と彩色を海外のプロダクションに一括して委託するいわゆる『動仕出し』が主流であるため、動画と仕上げのタイムラグがほとんど無く、一般的ではなくなりつつあります。

次は『原撮』
その名の通り、動きのキーになる原画を撮影するものです。
大体の動きはわかりますが、正確にどのコマからどのコマまで動いてる、とかいうことまではわかりません。
編集の時は、タイムシートと言う撮影のタイミングを書いた仕様書が必需品となります。

『ラフ原撮』
原画の下がきを撮影したものです。
動きはわかりますが、絵がわかりません。

『レイアウト撮』
背景用の下がきのような物を撮影します。
絵はわかりますが、動きはまったくわかりません。
大抵は『ラフ原撮』と併用されます。

『コンテ撮』
みんなにカット割等を指示するために書かれた「絵コンテ」と言うメモ書きのような物を撮影します。
ほぼ台詞のタイミングしかつけようがありません。

『線』
もはや撮影しません。
真っ白なフィルムにマジックで台詞の長さだけ線を引いて行きます。ジローは青線、ミツコは赤…といった感じです。
編集の時までに絵コンテが上がってない時などにとられる手段なようです…ってそりゃいくらなんでも編集できんじゃろ!
まあ、一般的には撮影漏れとか、緊急の場合にとられることの多い手段です。

どうでしたか?
現在のアニメーションの制作状況がわかっていただけたでしょうか?もちろん下に行くほど状況は悪くなって行きます。

慣れというのは恐ろしいもんで、今では『コンテ撮』くらいならやりようによっては、なんとか編集、アフレコまではごまかせる様になってしまいました…。
実際には必要無いはずのスキルばかりが上達してゆきます。
いや、もちろん声優さんや音響スタッフ、編集さんたちにはものすごい迷惑な話なのですが…。
そして本来必要なはずのテクニックはどんどん廃れてゆきます。
アニメ業界の明日は非常に暗いです。

さあ、今週のキカイダーはどのくらいのレベルの撮影状況だったのかな?
…お、俺に聞かないでくれ…!